水産研究本部

試験研究は今 No.485「サクラマス幼魚(ヤマベ)は川のどの部分に多いのか」(2002年10月28日)

サクラマス幼魚 (ヤマベ) は川のどの部分に多いのか

図1
図1.サクラマス幼魚(ヤマベ)
  北海道の川に多く生息している魚類といえば、サクラマス (幼魚=ヤマベ、図1) が挙げられるのではないでしょうか。

  サクラマスは秋に産卵します。ふ化した魚は川で冬を越し、翌春泳ぎ出します。その後、これらの魚の多くは川で1年過ごし、次の年の春に海に下ります。 海に下ったサクラマスは、海を1年ほど回遊した後、初夏に生まれ育った川へ戻ってきます。

  サクラマスはおもに春先に海で漁獲される貴重な漁業資源ですが、漁獲量は年々減っています。

  サクラマスの資源を増やすため、陸上施設で種苗を生産し川に放流する増殖事業が行われています。サクラマスの場合は、生まれた次の年の春に川へ放流する春稚魚放流が主体となっています。しかしせっかく放流されても、放流する尾数が多すぎたり、また、放流した場所が生息に向かない場合など、成長や生き残りが悪いことがあります。

  そこで、サクラマス幼魚が川のどのような場所を好み、どれくらいの尾数までならうまく成長できるのか、ということを明らかにするために調査を始めました。ここでは、サクラマスが川のどのような場所に多いのか、紹介します。
    • 図2
      図2.厚田川の調査場所

調査は大変

  調査は、1998~2000年 の3ヶ年、石狩支庁管内の厚田川で行いました (図2)。

  厚田川は資源の保護培養のため保護水面に指定され、すべての水産動物の採捕が禁止されています。この川ではサクラマスの種苗放流が行われていないため、生息するサクラマスはすべて天然繁殖によるものです。

  厚田川支流左股川の合計390メートルの区間を、瀬や淵などの 調査単位に分けました。各調査単位ではその上流と下流を網で仕切って魚が移動できないようにした上で、投網や電気漁具を用いて魚を捕まえました(図3)。 また、各調査単位ではその長さに応じて等間隔で5~21本の川を横断する測定線を設定し、水深、流速、石の大きさなどの物理環境を調べました。(図4)

  職員4、5人がほぼ一日中水に浸かったまま、約500尾の魚、約800ヶ所の測定点を調べ、一回の調査で魚の捕獲・測定に3日間、環境測定に2日間を要しました。
    • 図3.調査風景
      図2 計量魚探の反応記録に現れた霧状ノイズ(桧山沖1997年10月)
    • 図4.測定点の位置

サクラマスは川のどの部分に多いのか?

  生息する魚類の大多数を占めるサクラマスの0歳魚(孵化後1年未満)の生息密度について、夏期 (8~9月)の結果をみると、3年間の調査で密度は大きく異なり、1999年には他の年の約4分の1しかサクラマスがいませんでした。しかし、3年間を通して、 物理環境(フルード数)とサクラマスの密度との間には共通の傾向が見られ、天然のサクラマス幼魚は瀬ではなく淵(フルード数が0.1~0.3)に多く生息していることがわかりました 。

フルード数
フルード数は水深が浅く、流速が大きいほど値が大きくなる。つまり、フルード数の小さい場所が淵で、大きな場所が瀬にあたる
  この調査では、特定の環境条件の場所に天然のサクラマス幼魚が多く見られることがわかりました。今後は、放流種苗がどのような環境条件を好むのか、成長に影響を及ぼさない生息密度は瀬・淵ごとにどれくらいか、などについてフルード数を指標にして調査を進めたいと思います。

(水産孵化場真狩支場 春日井 潔,増毛支場 鷹見達也)