水産研究本部

試験研究は今 No.486「漁業系廃棄物リサイクル推進事業はじまる」(2002年11月8日)

漁業系廃棄物リサイクル推進事業はじまる

はじめに

  平成14年度の北海道水産林務部の重点施策の1つとして本事業が始まりました。今回はこの事業の概要および釧路水産試験場の担当課題について紹介したいと思います。

事業の概要について

写真1
写真1 ヒトデ:正式な和名はキヒトデ
  近年、道東海域を中心にヒトデ(写真1)による漁業被害および駆除後の処理が大きな問題となっています。このようなことから、本事業は、ヒトデを駆除してから処理するまでの総合的な対策を実施するために始まりました。事業は2本の大きな柱からなっています。1つ目は、「駆除」に主眼を置いた“ヒトデ駆除システム確立事業”です。そしてもう1つは、「処理」に主眼を置いた“ヒトデリサイクルシステム確立事業”です。前者はヒトデ駆除に対する費用の補助および駆除の際に得られるデータを集積してヒトデを効率的に駆除するためのシステム(時期、場所、方法など)を確立しようとするものです。後者はヒトデを駆除した後、海中で処理する方法および有効利用する方法を確立しようとするものです。現在、駆除後のヒトデの処理は埋め立てや処理施設で行っています。この際、処理費は漁業者負担となっていることから、この負担を軽減するための方法を検討します。

釧路水産試験場の担当課題について

  釧路水産試験場ではヒトデリサイクルシステム確立事業の一環として、ヒトデの生態調査と海中還元実証試験の一部を担当します。ここでは筆者の担当するヒトデの生態調査について紹介します。

  読者の皆さんはなぜ生態⇒駆除?という疑問を感じるのではないでしょうか。なぜ生態を調査するのか?簡単に答えますと、効率よく駆除をおこなうための方法を検討するためです。広大な海の底に生息するヒトデを完全に駆除することは労力、時間、費用などから考えて現実的には不可能です。そのため限られた労力、時間、費用などの中で最大の効果をあげる必要があります。孫子の兵法にも「敵を知り己を知れば百戦して殆うからず」という言葉があります。まず「敵」を知ることが必要なのです。

  それでは具体的にどんな生態を調査するのかといいますと、平成14年度は(1)移動、(2)食性、(3)後続年級群の発生状況、(4)年齢と成長について調査します。こんな基本的なことも判っていないのかとお叱りを受けそうですが、ヒトデは有用資源とは違い、これまでほとんど研究対象となっておらず、不明なことが多いのです。以下に(1)~(4)の調査内容を紹介します。

  (1)の移動は、釧路沖の水深20~60メートルの範囲で4調査点を設定し、年4回(最高水温時、最低水温時、昇温時期の中間水温時、降温時期の中間水温時)、ヒトデの分布を調査してヒトデが深浅移動するのかを調べます。第1回目の調査は6月に実施しました(写真2)。

  (2)の食性は、漁業被害を受けているツブ漁業の漁獲対象であるトウダイツブ(オオカラフトバイなどのツブ類の地方名)やケツブ(正式な和名はアヤボラ)に対するヒトデの食害状況を、水槽試験(写真3)とヒトデの胃内容物から調査します。

  (3)ではヒトデの大きさの組成から後続年級群の発生状況を調査します。

  (4)の年齢と成長は、魚の鱗や耳石などのような年齢がわかる形質がヒトデにはないため、水槽で実際に飼育して年齢と成長の関係を調査します(写真4)。飼育するヒトデはホタテガイの採苗器に付着した今年生まれであることがはっきりしているヒトデを用います。
  以上、漁業系廃棄物リサイクル推進事業の概要および釧路水産試験場の担当課題の紹介でした。調査結果については、今後まとまり次第、広報誌等で紹介していきたいと思います。

(釧路水産試験場 資源増殖部 秦 安史)

    • 写真2
      写真2 桁網でのヒトデの採集調査風景
    • 写真3
      写真3 水槽実験(ヒトデとツブ類を一緒に飼っています)
    • 写真4
      写真4 飼育中のヒトデ