水産研究本部

試験研究は今 No.487「ホタテガイ養殖漁場における水温と流れの変化 ~留萌沿岸ホタテガイ養殖漁場環境調査~」(2002年11月29日)

ホタテガイ養殖漁場における水温と流れの変化 ~留萌沿岸ホタテガイ養殖漁場環境調査~

はじめに

図1
  留萌管内では、半成貝の生産を柱としたホタテガイ養殖が行われています。当管内で生産される半成貝は、管外の地まき放流用の種苗として道内のホタテガイ生産を支えるだけでなく、道外(主に東北地方)の垂下養殖用種苗としても重要な役割を担っています。また、当管内のホタテガイ養殖は、地域の漁業生産を支える重要な産業に位置付けられています。しかし、当管内ではホタテガイの種苗を天然採苗している中で、採苗器に付着する稚貝の数が年によって変動することが採苗の安定化に支障をきたしています。また、採苗数の地域格差も大きく、その原因を含めた最適な採苗方法の検討が求められています。このような背景から、漁 業者の方々の協力を得ながら水産試験場および水産技術普及指導所が連携をとり、採苗に適した時期や水深帯を調べるために試験採苗器(図1)を設置しています。また、ホタテガイの産卵や成長に影響を及ぼすと考えられる水温の変化や浮遊幼生の移動および採苗数等に直接関係してくると思われる海の流れについて、水温計および流速計(写真1)を用いた連続観測を行っています。今回は、調査内容と得られた調査結果の一部を紹介したいと思います。

調査内容

写真1
写真1 ヒトデ:正式な和名はキヒトデ
  本調査では、留萌管内増毛町沖および小平町沖の水深約45メートル地点に、水温計(10メートル、20メートル、30メートル、40メートル層)と流速計(20メートル層)を設置し、連続観測を行っています。水温計は2時間ごと、流速計は20分ごとにデータを記録するようにセットした上で、数か月に1度のペースで設置回収を行い、得られたデータをパソコンに取り込んでいます。このように連続したデータの収集・蓄積を行うことで、その海域の季節的な水温や流れの変動が明らかになるとともに、発達した低気圧が接近通過した時に海がどのよ うに変化するのかを把握することが可能となります。

  水温や流れの変動を引き起こす原因はいくつかあります。一般的なものとしては、まず潮汐による変動が考えられます。これは、主に半日や1日程度の周期で海面が上下動することによって起こるものですが、太平洋に比べて日本海の潮汐はそれほど大きくありません。次に、低気圧の通過や台風による風の影響があげられます。数日周期で変動するような水温や流れの変化は、風の変動によって引き起こされている可能性があります。また、沖側の流れの変化が沿岸域に影響を与えることも考えられます。このような観点に基づいて、今回の調査で得られた小平町沖のデータの一部を以下に紹介したいと思います。

小平町沖における調査結果(2002年5月10日~6月20日)

  図2は、水温と流れの変化を1時間平均値を用いて表したものです。上の図は、10メートル層から40メートル層までの水温の変動を表しています。下の図は、流速ベクトル図と呼ばれるもので、矢印の向きが流れの方向を、矢印の長さが流れの大きさを示しています。ここでは上向きが北を表しており、3時間ごとにデータを抜きだして示しています。水温の変化を見ると、1日以下の短い周期の変動と、それとは異なった数日周期の変動が重なっていることがわかると思います。例えば、5月18日から5月21日に注目すると、20メートル層と30メートル層の水温が10メートル層と同じ約13℃まで上昇し、40メートル層の水温も11℃位まで上がっているのがわかります。このときの流れがどうなっているかを見ると、その前後の期間に比べて北北東へ向かう流れが強くなっている傾向が見らます。
    • 図2
  今後は、上述の水温や流れの変動を引き起こす要因を解析した上で、ホタテガイの浮遊幼生数や試験採苗器で得られた採苗数の変動との関係を明らかにしていきたいと思います。

(中央水産試験場 水産工学室 中山威尉)