水産研究本部

試験研究は今 No.488「キアンコウのふ化仔魚の姿は、何ともユーモラス」(2002年12月13日)

キアンコウのふ化仔魚の姿は、何ともユーモラス。

  平成14年7月28日日曜日、休日当番で飼育試験中のマガレイ仔魚に給餌を行っている最中、突然一本の電話がありました。南茅部町の漁業者成田さんのところで働いている長谷川さんからで、南茅部沖の昆布養殖施設のところで今までに見たことのない珍しい卵塊が採れたので、栽培センターで調べてもらいたいとのことでした。

  その卵塊はゼリー状であり、見た瞬間、川か沼で見かけるふ化直前のカエルの卵によく似ていると思いましたが、ふ化した子供(ふ化仔魚)を顕微鏡でよくよく見ると確かに魚類でした。しかし、魚種については全くわかりませんでしたので、マガレイ用の生物餌料(ワムシ、アルテミア)でしばらく飼育してみることにしました。

  仔魚のサイズは、平均全長5.8ミリメートル(SD±0.2,n=5)であり、通常の魚類仔稚魚の餌料系列(ワムシ-アルテミア給餌)とハタハタタイプの餌料系列(最初からアルテミア給餌)を選択すべきか検討しましたが、判断がつきませんでしたので、とりあえずワムシとアルテミアを併用して給餌することにしました。

  ふ化仔魚は、腹鰭が特異的に長く、その先は黒色で丸くなっており、何とも愛らしい形状でした(写真1)。この特徴的な形状を基に日本産稚魚図鑑で検索を行ったところ、キアンコウがまさにこの形状を有していました。
    • 写真1
      写真1.ふ化後9日目のキアンコウ仔魚
    • 写真2
      写真2.ワムシを摂餌した仔魚
「北のさかなたち」によれば、北海道におけるキアンコウの産卵期は、6月から7月であり、卵塊は、3~5メートル、幅25~50センチメートルの薄い帯状で海中を浮遊するとのことで、今回の卵塊は長い長い卵塊の一部が昆布養殖施設に絡まったものと思われました。

  次に食材魚貝大百科で調べてみると、キアンコウはアンコウ類の中で最も美味とされており、市場ではアンコウ類の中で最も高額とされているそうです。アンコウの身は、あっさりとした上品な味で、日本はもとよりヨーロッパでもロブスターの身と比較されるほどだそうです。アンコウを調理する上で、最も珍重されるのは濃厚な味のアンキモ(肝臓)ですが、この中には、脂質(スタミナ回復)、ビタミンA (眼の疲労防止)、ビタミンD(カルシウムの吸収促進)といった栄養成分を豊富に含んでおり、優れた食材と思われます。

  キアンコウ仔魚は、遊泳力に乏しく、長い腹鰭を前後に動かして漂っているだけでしたので摂餌能力が低いと思われました。実際に消化管内を調べてみると、ほとんどは空胃個体でしたが、群の中で若干遊泳力を有する個体はワムシを摂餌していました(写真2)。また、アルテミアを摂餌している個体は1尾も観察されませんでした。仔魚の中には、体に密着するアルテミアを振り払うかのようにS字上に体をくねらせて、アルテミアから逃れようとする個体も観察されました。

  キアンコウの飼育は8月21日までの計25日間で、翌日8月22日には残念ながら全滅しました。今度、またキアンコウの仔魚と対面することがありましたら、長期に渡り飼育できるようチャレンジしたいと思います。
  当センターでは、地元鹿部町漁協青年部のアイナメふ化放流事業、鹿部海と温泉の祭りでのふれあい水族館への協力等、地元漁業者との連携を持っており、この対話の中から本業のマガレイ等の種苗生産技術開発等の重要なヒントとなることが多々あります。

  ですから、またキアンコウの卵塊のような珍しい卵塊や魚が捕れた場合は是非ともご連絡をお待ちしております。
(栽培センター魚類部 佐藤敦一)