水産研究本部

試験研究は今 No.490「中国黒龍江省との漁業技術交流に参加して」(2003年1月10日)

中国黒龍江省との漁業技術交流に参加して

  昭和60年に北海道と中国中国黒龍江省と漁業技術交流が始まってから、早いもので18年を経過しています。この間、黒竜江省からは長期、短期を含めて大勢の方が北海道を訪れ、水産孵化場で交流が行われています。今回、私達は黒竜江省で行なわれているサケマス類の冷水魚養殖技術、新魚種導入の可能性等に関した技術交流を目的に、2002年9月18日から9月29日までの12日間黒竜江省を訪ねました。

  私たちが訪れた先は、黒龍江省農業委員会の対外経済合作所、黒竜江省水産局、黒竜江省水産研究所、ハルピン市水産研究所、ハルピン市金山堡漁場、水産技術推広センタ-、水産技術推広センタ-の試験基地、興湖虹鱒養殖でした。ここでは訪ねた施設の様子や、説明を受けた内容を細かく述べるだけのスペ-スはありませんので、研究の現状や印象についてまとめましたので、詳しいことは孵化場の「魚と水」39号(2003年3月発行予定)に投稿の予定ですので、こちらをご覧いただければと思います。

  黒竜江省は海に面してなく、しかも北海道の5倍以上の面積に3,700万人が住んでいますので、魚肉蛋白資源の確保は重大な事業です。そのため、コイやレンギョの養殖が盛んに行われており、年間40万トンの生産があるとのことです。コイ科の魚の養殖研究は訪ねたそれぞれの研究所の中核となる業務でした。最近は嗜好の変化もあり、コイの需要が減り、ニジマスを始めとしてサケ科魚類の需要が高まりつつあるそうです。それぞれの研究所ではニジマス、ギンザケの養殖や、コレゴヌスの養殖技術開発にも積極的に取り組んでいました。

  ハルピンのデパ-トの魚売り場には、コイ、ニジマス、ブル-ギルなどが水槽に入れられ、活魚で販売されていました(写真1)。また、牡丹江のホテルのレストランでは魚やエビの活魚水槽がたくさん並べられており、客の注文にあわせて提供できるようになっていました。ハルピンの市場は毎朝6時頃から8時半頃まで開かれていましたので、何度かに見に行きました。生活感がつかめて興味尽きないところでした。魚は生のまま冷蔵もされずに板の上に置かれて販売されていましたので、魚屋の近くに来ると、魚の生臭い匂いが漂っています。肉類も大きなブロックが外気にさらされて売られていました。中国を訪れた時が、日本でいうお盆に当たるそうで、市場は特に珍しい物が置かれていたようです。1メートルくらいのチョウザメが売られていましたが、あいにく買い手はないようでした。

  刺身パックの販売、氷による冷蔵販売、ホッケやサバの乾物の販売など、日本で見られるような販売方法は、ハルピンのデパ-トではみかけませんでした。サケが一匹まま冷凍品で売られていましたが、日本の価格と変わりませんでした。帰路の飛行機に乗るためにシンヨウに宿泊したおりに訪ねたス-パ-マケットでは、生の魚が氷で箱型に作られたワクの中に入れて販売されていましたし、切り身の刺身パックも販売されていました。地域による差を感じましたが、通訳をしてくれた楊さんは刺身が好きだといっていましたので、これからは中国での魚の消費形態も変わって行くものと感じました。

  訪問した研究所での説明や、施設の見学から得た情報では、80年代から90年代まではコイの養殖技術の研究がさかんに行われ、黒竜江省に大きな経済効果をもたらすことができたそうです。現在は、黒竜江省の内水面振興と漁業従事者の所得を上げるために、サケ科魚類の養殖や、新魚種を導入し中国にあった養殖技術を開発することに力を注いでいることがわかりました。このような状況の中、ハルピン市にある研究施設の水の条件はあまり良くなく、濁りのある地下水を汲み上げて濾過器を通し、止水式でサケ科の魚の飼育実験を行っていました。北海道のように流水を多く利用できる条件の場所は、黒竜江省の中では中心都市から遠くはなれた、ごく限られた場所だけのようです。研究所の試験飼育池は、小割りの飼育池でしたが、十数センチの四角い白いタイルが全面にはられ、お風呂のようにきれいな様子が印象的でした。また、どの研究所に行ってもアルビノニジマス(黒色の色素がなく黄金色にみえるニジマス)の試験や養殖が盛んでした(写真2)。不思議に思い理由を聞いたところ、中国ではアルビノニジマスを金鱒と呼んで珍重しているそうです。特にお祝いの料理に使われるそうで、普通のニジマスよりも高く売れるとのことでした。

  国設の水産研究所にしても省の水産推広センタ-も、水産業として漁業者の収入をどれだけ増やせる仕事をしたか、ということが国家からの評価対象になっているようです。このために諸外国から少しでも珍しい魚、あるいは有用な魚種を導入し、中国に適した養殖技術の確立が重要な仕事としてとらえられていました。日本では、自然に生息しない魚種を放流することや、外来魚種を持ち込むことは、大きな環境問題となっているのとは、まだまだ状況が異なっているようです。(養殖技術部 今田和史、資源管理部資源管理科 安藤大成)
    • 写真1
      写真1 デパチカのニジマス販売方法
    • 写真2
      写真2 金鱒養殖風景