水産研究本部

試験研究は今 No.495「サケの来遊予測」(2003年3月28日)

サケの来遊予測

  サケの人工増殖事業は明治時代にアメリカから導入されたふ化技術を使って始まり、放流数は徐々に増加しましたが、資源の急速な回復を見たのは1970年に入ってからです。この増殖事業の体制も平成9年以降、大きく様変わりしてきました。すなわち、これまで北海道のサケマス増殖事業は国の一元管理のなかで進められてきましたが、すでに資源造成のための増殖技術は一定のレベルに達したことから国は資源造成のための事業から撤退することになりました。このため、北海道はさけ・ます資源管理センターや民間増殖団体の協力を得てサケマス資源の統括管理を進めています。この中で、道立水産孵化場が特に力を入れている業務の一つが来遊予測です。正確な予測は適正な漁業管理を通じて持続的な資源管理を可能にするだけでなく、ほぼ100パーセント人工種苗に依存しているサケでは増殖管理の面からも重要といえます。

  北海道における来遊資源の予測は1960年代に水産庁北海道さけ・ますふ化場(現在のさけ・ます資源管理センター)により始まっており、その方法は再生産関係とSibling法(同一産卵群で成熟が複数年にまたがる種において年齢間の資源量関係から予測)に基づくものと考えられます。ここでは私達が実施している予測の一例としてSibling法による作業を紹介します。  Sibling法を使うためには過去の各年級の年齢別資源量が必要となります。ある年に来遊した資源から年齢別の資源量を推定するには、まず北海道を複数の地区に分割し、それぞれの地区の複数河川に遡上した親魚の年齢組成を細かく把握します。現在、各地区の増殖事業協会と協力して、北海道の25河川に遡上した親魚から旬ごとに雄雌各50尾のウロコを採集しています。これらウロコは当場の研究者により2回の年齢査定を経て集計されます。さらに、これら集計された年齢査定の結果に基づいてその地区全体の河川に遡上した親魚の年齢組成を推定します。この割合をその地区の沿岸で漁獲された親魚に配分することで各地区別の来遊資源を年齢別資源に分割することが可能となります。そして、これらの値を年級群別にまとめることで各年級群毎の回帰資源量を推定することができます。一般に2つの年齢群の資源量をグラフ上にとってみると直線関係ないしアロメトリー関係(Y=aXb ;体長と体重の関係などの相対成長に使う式)が成立することが知られています。もし、そうであれば今年3年で回帰した資源量の値を使って来年4年魚で回帰する資源量を推定することができます。
    • 図1
  そこで、過去十数年分の北海道全体のデータを使って回帰分析を行ってみました。3年魚と4年魚との関係は統計的に有意(意味のある)な関係にありませんし、4年魚と5年魚の関係をみても直線と実際の値との間にかなりの開きがあるように思われます(図1)。Sibling法が成立する条件の一つとして各年級群の年齢組成が大きく変動しないことが必要です。ところが、近年の年齢組成は大きく変化していることが判明しました(図2)。そこで、それぞれの関係において年齢構成の変わる二グループに分けて回帰式を計算してみると、先ほどの結果よりは良好な関係が得られました(図3)。そこで、これらの式を使って2002年(昨年)の資源量の予測を行ってみました。すると、3年魚は2,563千尾、4年魚は25,366千尾、5年魚は13,232千尾、6年魚1,561千尾で合計42,772千尾と推定されました。また、全道を5海区(日本海、オホーツク、根室、えりも以東、えりも以西)に分離し、それぞれの海区で同様な方法で推定し、これらを合算して全道の来遊数を算出すると46,684千尾と全道一括方式より400万尾程高い値となりました。そして、実際の来遊数は44,683千尾(概数)と両推定値の真ん中に入る結果となりました。
    • 図2
    • 図3
  このようにサケの来遊予測に関してはSibling法の変法によりある程度の数値を出すことは可能と考えられました。ただ、予測はあくまでも見通しですから外れることはあります。しかし、どんな状況にあっても資源管理上採卵用親魚の確保だけは失敗は許されません。このためには漁期中の予測の修正と短期見通し、さらには適切な需給調整や漁業規制等の対策を速やかに行うことが必要です。また、短期的な資源の見通しにはウロコの迅速な収集と査定は不可欠で、加えて各地域の沿岸来遊や河川遡上に関係する具体的な情報(海水温、降雨、捕獲装置の稼動等)も重要です。平成16年にはこれまで支場がなかったオホーツク、根室、えりも以東地域に道東支場が開設される予定にあり、このことで北海道全体としての漁期前予測と漁期中の短期見通しが可能となり、サケマス資源の統括管理への道立水産孵化場としての技術支援も実効性をあげることが期待できます。
(水産孵化場 資源管理部 永田光博)