水産研究本部

試験研究は今 No.492「ヒトデの有効利用に向けて」(2003年2月7日)

ヒトデの有効利用に向けて

はじめに

図1
  近年、道内の漁業系廃棄物の発生量は年々増加し、平成13年度では約46万トン(図1)に達しており、その中では貝殻と魚類の残渣が大半(約75パーセント)を占めておりその他としては、イカゴロとホタテウロが11.7パーセント、付着物が9.0パーセントと続いています。一方、ヒトデは全体の3.9パーセントという割合ですが、「試験研究は今No.486号」で紹介があったように、漁業被害の発生という点で大きな問題となっています。今回は、このヒトデをとりまく現状と有効利用に向けての取り組みについて紹介します。

ヒトデをとりまく現状

  ヒトデの発生量は年々増加しているとされ、図2に示したように平成13年度では全道でおよそ1万7千5百トンにも及んでいます。その内訳は釧路や根室などの道東地域で60パーセント以上を占めておりカニ、ツブ等のかご漁業やホタテ、アサリ等の養殖漁場では、ヒトデの食害による漁業被害が発生し資源の減少、漁業効率の低下が起きています。駆除したヒトデの処理方法は、現在、埋め立て処理と焼却処理の2通りがありますが処分場の確保や処理コストの問題は漁業者や各自治体にとって大きな負担となっています。さらに、埋め立て処理では場所に限りがあることや、シートで保護されているものの、重金属が土壌へ侵出した場合の悪影響や、焼却処理を行うにしても塩分を含んでいるため、焼却釜の寿命が短くなることやダイオキシン発生の問題など環境に対する影響も指摘されています。

  こうしたことから最近、環境に配慮した循環型社会の構築に向けた取り組みが必要とされ、ヒトデを厄介物扱いするのではなく、積極的に利用するべきとの考え方が出てきています。例えば、ヒトデを乾燥粉末にして昆虫に対する「きひ剤」としてゴルフ場や空港で散布するなどの利用や、市販の化成肥料の代替えや堆肥副原料として積極的に利用しようとする動きが民間などでみられてきています。

  一方、ヒトデには種々の生理活性等を有することが知られています。その代表的な成分はサポニンと呼ばれている物質ですが、実はこの物質がどの程度含まれているのかすらよく判っていません。そこで、中央水試加工利用部では、現在、民間企業(マリンケミカル研究所)と共同して、このサポニンに着目して研究を行っています。
    • 図2

ヒトデの有効利用に向けて

  サポニンは主に植物界に存在する物質で、気泡性があることからその名前はラテン語で石鹸を意味する[SAPO]に由来しますが、動物界での存在はヒトデやナマコなどに限られています。ヒトデサポニンの構造の一例を図3に示しますが、硫酸基が結合したステロイドと複数の糖が結合した構造(ステロイドオリゴ配糖体)をしており、駆虫・防虫作用、溶血活性、魚毒性などのあることが知られています。しかし、その構造は複雑多岐にわたっているため、これまで的確な分析方法がありませんでした。そこで当場では、まずサポニンの定量方法について検討しました。その上で、北海道で比較的多くみられるイトマキヒトデ、キヒトデおよびニッポンヒトデの3種類について、時期別、海域別のサポニン含量や、一般成分と重金属の含有量について検討しているところです。なお、この結果については、別の機会で紹介したいと思います。また、今後はそれらを踏まえヒトデの有効利用に取り組んで行きたいと考えています。
    • 図3
  ヒトデにはサポニンの他にも生理活性を有する成分が知られています。例えばスフィンゴ糖脂質であるガングリオシドです。この物質には神経細胞生存維持作用があり、医薬系素材として期待されている成分の一つです。また、最近の論文によればヒトデのサポニンは荒れた肌の回復や防止に効果があるとする報告や、道北地域で比較的多くみられるタコヒトデには、キタムラサキウニの逃避行動誘起物質(硫酸化ポリヒドロキシステロイド)が含まれているとの報告もみられます。これらは一例ですが、近年、海洋由来の生物に医薬系素材などを求める気運が高まりつつあり、ヒトデを含め海の厄介物と言われている生物も日の目を見る機会があるかもしれません。
(中央水産試験場 加工利用部 福士暁彦)