水産研究本部

試験研究は今 No.498「海中還元場所の環境調査結果について(ヒトデ海中還元実証試験)」(2003年5月15日)

海中還元場所周辺の環境調査結果について (ヒトデ海中還元実証試験)

はじめに

  「試験研究は今 No.486」で釧路地区での漁業系廃棄物リサイクル推進事業の実施概要についてお知らせしましたが、今回はその事業の一環として行った十勝地区でのヒトデ海中還元実証試験に関する水質および底質調査の実施結果について、その概要を報告します。

目的

  本事業は、道東の太平洋海域(日高・十勝・釧路)におけるヒトデの大量発生による漁業被害に対応するため、漁業者が行う駆除事業に対して助成するほか、ヒトデの生態調査を行うとともに、駆除後の処理や有効活用方法などについて調査・検討を行うことを目的としています。

  その中で本調査は、ヒトデの処理方法の一つとして検討している「海中還元」(ヒトデを高密度状態で袋に収容して海中に設置して死滅させたあと、海中に還元する方法)が、周辺の水質および底質に与える影響を検証することを目的としています。

調査方法

1) 海中還元場所および周囲の水質調査
  平成15年2月3日~3月24日まで計5回にわたり、図1に示した広尾町の沖合い水深約30m地点に設定した海中還元場所中央部のSt.5および周囲のSt.A~Dの計5地点において、表層・中層・底層の3層で採水を行い、水温、塩分、透明度、pH、DO(溶存酸素量)、DO飽和度、COD(化学的酸素要求量)、珪酸、全燐、燐酸、全窒素、アンモニア、硝酸、クロロフイルa、フェオフィチンの測定と分析を行いました。

2) 海中還元場所および周囲の底質調査
  平成15年2月13日~3月24日まで計3回にわたり、図1に示した海中還元場所のSt.1~9および周囲のSt.A~Dの計13地点において、エクマンバージ採泥器で海底面の1/50平方メートル面積の採泥を行い、粒度組成、COD、強熱減量、全硫化物(3月24日のみ)の分析を行いました。
    • 図1

調査結果

1) 海中還元場所および周囲の水質
  図1の海中還元場所1地点(St.5)と周囲4地点(St.A~D)の5地点における各種水質成分値は、広尾海域の一般的な水質の範疇であり、特に異常値(水質基準値オーバー、異常に高い・低いなど)は認められませんでした。海域の水質類型に用いられる水質基準項目のうち、ペーハーは7.9~8.3で、最も良好な水質の水産1級の値(基準値7.8~8.3)を示しました。DOも10~17mg/リットルで、水産1級の値(基準値7.5mg/リットル以上)を示しました。CODは1.1~3.6mg/リットルで、一部を除きおおむね水産1級の次の水質である水産2級の値(基準値3mg/リットル以下)を示しました。これらのことから海中還元場所および周囲の水質環境は良好であり、死滅させたヒトデの海中還元による影響と推定される海中還元場所の水質変化は確認されませんでした

2) 海中還元場所および周囲の底質
  図1の海中還元場所および周囲の合計13地点の底質は、粒径1ミリメートル未満で極細粒砂(粒径0.063~0.125ミリメートル)中心で、シルト・粘土(粒径0.063mm未満の泥分)含有率は、3月24日調査を除き6パーセント未満であり、泥分の沈積が少ない状況でした。また、汚濁の指標となるCODは3mg/g乾泥以下(正常値限界20mg/g乾泥)で、全硫化物は0.02mg/g乾泥(正常値限界0.2mg/g乾泥)であり、特に異常値(環境基準値オーバーや異常に高い値など)は認められませんでした。これらのことから海中還元場所および周囲の底質環境は良好であり、死滅させたヒトデの海中還元による影響と推定される海中還元場所の底質変化は確認されませんでした。(釧路水産試験場 資源増殖部 阿部英治)