水産研究本部

試験研究は今 No.482「オホーツク海のマツカワ放流効果と今後の試験方向について」(2002年9月10日)

オホーツク海のマツカワ放流効果と今後の試験方向について

  マツカワは、茨城県から千島列島にかけての太平洋沿岸、オホーツク海南部、日本海北部に棲息する冷水性の大型カレイです。現在の分布の中心は北海道太平洋沿岸ですが、資源状態が著しく低く、漁獲量は数トン程度といわれています。一方で、マツカワは、成長が早く、雌の全長は80センチメートル以上に達することと、ヒラメに匹敵する高級魚であることから、栽培漁業対象種として期待されています。

  オホーツク海でも10数年前までは定置網にマツカワ(タンタカと呼ばれる)がたまに入ったと言われていますが、残念ながら最近ではほとんど見られなくなってしまいました。このことから、オホーツク海においても、ホタテガイ、サケに次ぐ栽培漁業対象種として本種に注目し、1992年に中間育成施設を備えた網走市水産科学センターが能取湖二見漁港に建設されたことを契機に、1993年から陸上飼育試験が開始されました。現在、放流事業に関しては、斜里・網走・常呂海域マツカワ栽培漁業推進協議会を中心に、中間育成については網走市水産科学センターが、放流効果については網走水産試験場が担当しています。

  今回は、これまでの標識魚の再捕結果から得られた再捕率について紹介すると共に、今後の放流試験の方向性について説明しましょう。

  下の表に示したように、93、95~99年放流群の平均再捕率は13.1パーセントになっています。特に越冬種苗を放流した96年群の再捕率が33.1パーセントで非常に高くなっています。越冬放流した96年群を除いた平均再捕率は9.1パーセントです。ただし、現在考えられている商品サイズである体重1キログラム以上の再捕率は、2.2パーセントに止まっています。仮に、種苗生産単価が100円/尾、市場販売単価が2,000円/キログラムと想定した場合の経済的に必要最低限である回収率は5パーセントであり、現在の再捕率は残念ながら達していません。また、商品サイズを仮に体重500gとした場合の再捕率は、5.1パーセントであり必要最低限な回収率10パーセントに達しません。
    • 表
  そこで、再捕率をさらに向上させるための対策が必要になります。95、97、98、99、00年の放流データと再捕率を用いて、放流時全長と再捕率の関係を考えてみました。下の左図に示したように、放流時のサイズが大きい方が再捕率が高そうですが、放流サイズを大きくするためには中間育成の経費が掛かり、現実的ではありません。続いて、下の右図に放流時の表層水温と再捕率の関係を表してみました。この5年の試験結果からは、放流時の水温が高いほど再捕率も高いという結果がみられています。
    • グラフ
      種苗サイズと再捕率の関係
    • グラフ
      放流時水温と再捕率の関係
  さらに、両者を併せた放流時全長と放流時水温と再捕率の関係を検討してみました。放流時全長が大きくて放流時水温が高いほど再捕率が高いことが分かります。これまでの放流試験では、放流直後に漁獲されることを避けるためにサケ定置網が撤去された後の11~12月に放流してきました。しかし、それでは、放流時サイズは大きくなるものの、海の水温は下がってしまいます。そこで、今年からは、定置網の問題は避けられないものの、もっと水温が高い10度前後の時期に放流時サイズが12センチメートル 前後と多少小さくても放流した方が再捕率が向上するのではないかと考え(赤い点線で示した部分に相当します)、無標識で放流することにしました。さて、この試験結果がどうなるか、楽しみでもあり、不安でもあります。なぜなら、この試験が上手くいかないと、再捕率の向上を図ることが大変困難になることが予想されるからです。また、試験結果が出た頃に、皆さんに情報を提供してまいります。
    • グラフ
      放流サイズと放流時水温と再捕率の関係(オホーツ海)

      図中の数字は再捕率(パーセント)、囲み数字は放流年度を示します

    • 凡例
(網走水産試験場 資源増殖部 蔵田 護)