法人本部

第25回 道産小麦きたほなみ

驚異の道産小麦 "きたほなみ"のすべて

2012年5月18日
農業研究本部 北見農業試験場 吉村 康弘(よしむら やすひろ)

こんなお話をしました

    小麦は、パン、めん、菓子など幅広い用途で消費されていますが、国内産小麦は、その栽培環境条件や小麦の特性から、蛋白質含有率が中程度であり、うどんなどの「日本めん用」を中心に栽培・利用されてきました。

国内産小麦は1970年代に生産が激減し、日本めん用に適する小麦としてオーストラリア産ASW(オーストラリア・スタンダード・ホワイト)が輸入されます。1970年代後半から北海道を中心に国内産小麦の増産がはかられますが、当時の北海道産小麦はうどんにも、パンにも向かない品質のため、「やっかい道小麦」とまで呼ばれて取り扱いに苦慮しました。当時、国内産小麦はめんの色、食感などの加工適性が十分ではないと加工業者から指摘され、ASW並の品質が求められていました。北見農業試験場では、開発中の小麦についてうどんの試験を実施したところ、極めて優れた食感の小麦を発見します。これがのちの「チホクコムギ」となり、デンプンの質やめんの食感についての研究が急速に進展しました。めんの色は水に溶かした小麦粉の色で評価できることがわかり、この方法によりめん色の優れる小麦を選びました。

北海道は国内小麦生産量の約6割を占める大産地です。北海道での小麦作付けの9割を占めていた「チホクコムギ」「ホクシン」はめんの食感が優れ評価が高かったのですが、めんの色などでは輸入小麦ASWに劣っていました。「きたほなみ」は、めんの色と食感が優れ、実需者によるめんの官能評価はASWとほぼ同等でした。「きたほなみ」はこれまでの品種よりも収量が多く、小麦の病気にも強くなっており、生産者にとっても作りやすい品種です。2011年の作付面積は10万ha以上で、北海道産小麦の約9割、国内産小麦の約5割を占める大品種となりました。

生産の本格化に伴って、「きたほなみ」は、めんの色と食感が優れ、味や風味も輸入小麦より優れるとの評価が高まっています。優れた小麦粉品質を利用したうどんやめん類への活用に加えて、生産量の多さや安定性を利用した新しい商品開発、小麦粉の特性を生かした菓子などへの用途拡大が進んでいます。

質問にお答えします

 

質問

回答

会場からの質問

春まき小麦についてキタホナミのような新品種やスタンダードになるような小麦はありますか?

春まき小麦は主にパン用として利用され、日本では北海道でのみ栽培されています。春まき小麦品種で最も栽培面積が大きいのは「春よ恋」ですが、「きたほなみ」の作付面積の1割以下です。春まき小麦でのスタンダードは「春よ恋」といえますが、パン用に輸入される小麦の量に比べると生産量は非常に少なく、パン適性も十分ではありません。パンへの適性がさらに高く、小麦の病気に強く、収量も多い新品種の開発を行っているところです。2007年には小麦の病気に強い「はるきらり」が登場しています。

春まきと秋まきの大きな差を教えて下さい。

秋まき小麦は一定期間低温条件で生育しないと穂を作らず、茎葉だけで生育が終わり、花や実をつけずに枯れてしまいます。北海道の秋まき小麦品種は比較的長い期間の低温が必要ですが、本州以南の小麦品種は必要な低温の日数が少なくなります。必要な低温の期間が終わり、温度が上がって日照時間が長くなると、穂を作ります。春まき小麦は低温にあたらなくても、温度や日照時間が確保されると、穂や実をつけることができます。北海道では秋き小麦は9月に播種し7月下旬に収穫、春まき小麦は4月に播種し、8月に収穫します。春まき小麦は生育する期間が短くなるので、収量が秋まき小麦より少ないですが、蛋白含有率が高くなりやすいことからパン用として主に利用されます。また、春まき小麦を根雪直前に播種して雪の下で芽を出させることで生育期間を長くして、収量を高める「初冬まき栽培」が一部で行われています。

TPPが始まると良い品は大量に需要がでると思われますが、きたほなみは大量生産、早期生産などはできるのでしょうか?

「きたほなみ」は従来の品種よりも収量が多いですが、北海道内の小麦の栽培面積をこれから急激に増やすことは難しいです。生産量の増加は、品種改良と栽培技術の向上により期待されますが、輸入小麦に対抗する量にまで急激に増やすのは難しいので、本州以南の二毛作地域での小麦作付けが復活できれば、国内産小麦は大幅に増加すると期待されます。一方、海外の小麦輸出国は近年、干ばつや多雨などで生産が不安定で、穀物の国際価格や流通状況が安定しません。加えて、大消費地となった中国向けの生産に転換するなど、日本向けの生産の減少、品質の低下がマスコミ等でも報道されているところです。「きたほなみ」を開発した技術をもって、国内の小麦の品質や収量をさらに高めていくことが求められています。

さらに詳しく知りたい方は・・・

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同時開催

「道総研紹介展~ほっかいどうの希望をかたちに!~」と題した紹介展を5月17日(木)~18日(金)に同じく道庁1F交流広場において開催しました。
この紹介展では、道総研の活動をパネルや研究成果物により紹介するとともに「きたほなみ」の研究の経緯、開発された製品なども展示しました。

ご協力いただきました

 協力御礼ドトールコーヒーショップ北海道庁店