法人本部

第28回 さけますの生態と資源

さけますの生態と資源

2012年8月22日
水産研究本部 さけます・内水試水産試験場 伊澤 敏穂(いざわ としお)

こんなお話をしました

   紀元前2000年前の縄文時代から、石狩川河口付近でサケを捕獲する装置が使われていました。 まだ、日本で米作りも行われていない時代に、縄文人は石狩川の河口でサケを捕っていました。サケは縄文人が冬を乗り切る大事な保存食だったと考えられます。

江戸時代には、石狩川の河口域でサケ漁業が盛んになり、その後、札幌方面の開発が進んだと考えられます。明治になると、サケの産卵場所の保全など地域毎に資源を守る努力をしながら、定置漁業も始まりました。1890年頃からは人工増殖に力を入れるようになりました。 しかし、人工増殖事業は容易ではなく、この後80年以上サケの資源は低迷します・・・。

長い間低迷していたサケの来遊数は、1970年代から見違えるように増加しました。その理由は、野生のサケをよく観察したからです。つまり、野生のサケが川から海に下る(雪解け増水)時期に放流したからです。もう一点は、「大きな魚の方が丈夫だろう」という単純な発想から、餌をやって元気で大きな稚魚を放流したからです。さらにその後、北太平洋の環境も良かったことがわかりました。これらの結果、1970年代以前は500万尾前後の来遊が、2000年代には4000万尾以上となりました。

サケは早いもので8月下旬に沿岸に戻り、9月には産卵のため生まれた川に戻ります。 川への遡上は9月から遅いものは1月まで見られ、盛期は10月頃です。 戻ってくるサケの年齢は、3歳魚から6歳魚で、4歳魚と5歳魚が全体の80から90%を占めます。

産卵は雌が卵を生む産卵床を作り、雌雄がほぼ同時に産卵、放精し、雌が産卵床を1週間ほど守った後、生涯終えます。 砂利の中の卵は約2ヶ月でふ化し、さらに2ヶ月経つと砂利から出て泳ぎ出します。その後、水生昆虫等を食べ数日から数週間で海に出ます。海に出て間もない頃は波打ち際いるサケも少しずつ成長して、6月から7月の水温が13度を超える頃には沖合に移動します。

約1gの体重で海に出たサケは、母川に戻る3年後には、体重が約4キロ、4000倍にまで成長して戻ります。驚くほど大きく成長して北の海の栄養を持ち帰ってくれるのです。

最後に、サケに関わる調査研究についてお話しします。サケがそれぞれの地域で、どの位生き残るか、今、大きな問題になっています。サケが生まれた川や前浜に戻る割合は、100尾を放流すると、4尾程度です。地域によってこの割合は多少違いますが、同じ地域でも年によって、変動する傾向が大きくなってきました。このことを含めサケに関わる色々な課題について、私達は北海道のサケ資源の「安定」と「持続性」をキーワードに、これまで以上に解明等に向けた調査研究に取り組んでいます。

質問にお答えします

 

質問

回答

会場からの質問

山女、岩魚等、陸封型の鮭科の魚は他にもいますか。

アマゴ(降海型はサツキマス)
ヒメマス(降海型はベニザケ)

ニジマスの呼称でスチールヘッドとは何ですか。

ニジマスの降海型を Steelhead (スチールヘッド)といいます。日本では頭部が黒いこともあり「テツ」と呼ばれています。

降海した鮭科の魚は何であれ、陸封型のものと、まったく異なる魚体となるのですか。(必ず、銀毛、白銀の魚体になるのですか)

海水適応能の獲得とともに外観が変化した個体です。体表はグアニンの沈着によって銀白色となります。

なぜ、ブラウントラウト降海型のシートラウトは、母川回帰ではなく、母川以外の河川へ遡上する性質があるのですか。

原産地(ヨーロッパ等)でシートラウトと呼ばれる降海型が、北海道でも胆振・渡島・後志・留萌沿岸で定置網や釣りで採捕されています。ブラウントラウトは移動性が強く、異なる環境への適応性に優れており、餌を求めて支流から本流に、さらには湖や海へと移動します。

ブラウントラウトの捕食圧が問題となっていますが、他の鮭科との交雑の問題は発生しているのですか。

アメマスとブラウントラウトの繁殖時期は一般的には異なりますが、両種の産卵場所と繁殖時期が重複している河川では交雑現象が生じると考えられます。情報は少ないですが、現在のところ道内における交雑魚の確認は、数カ所の河川で見られています。

鮭は他の魚と比べて食物連鎖による体内への有害物質の蓄積は高いのですか。 

サケは北太平洋まで回遊して成長し、成熟して生まれた川にもどります。寒帯・亜寒帯を広く回遊することから、他の魚に較べて有害物質が高くなることはないと思います。一方沿岸域で養殖された輸入サケマスには抗生物質等の投与が考えられることから留意すべきです。

なぜ、鮭科の陸封型は降海型と比べ、一般においしくないのでしょうか。(オショロコマ等の降海型はおいしいと聞きました) 

一概においしくないとは言えませんし、ヒメマスもヤマベも美味しいという人もいます。味は餌の質や量、生息環境等によって影響を受けると考えられます。降海型は餌が豊富である北の海で成長することを考えると有利性はあると思います。

サクラマス等で降海型ではなく、ダム湖等への降湖型と呼ばれるものがありますが、降海型との違いは何ですか。 

川で生まれ、成長の場として海の代わりに湖を利用するタイプを降湖型といいます。

さらに詳しく知りたい方は・・・

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