法人本部

第42回 化学物質

暮らしの中の身近な化学物質

2014年6月20日

環境・地質研究本部 環境科学研究センター  田原  るり子
永洞  真一郎

 

こんなお話をしました

 

化学物質はどういうものなのか、様々なところで様々なとらえ方がされています。化学物質と上手に付き合うためには化学物質をよく知ることが大切です。私たちが日ごろ付き合っている化学物質は、私たちの身の周りにあるもの全てです。天然のものか人工的に作られたものかという分け方もされることがありますが、化学物質から受ける影響を考えるときに、実際にはこのような区別はその化学物質がもつ影響の強さに関係ありません。また、どんなに安全といわれる化学物質も大量に体内に入ってくると身体に悪い影響を与えます。

化学物質から日常的に受ける影響を考えるとき、化学物質がもたらす健康被害の重篤さに注目が集まりがちですが、それだけではなく、被害をもたらした化学物質の量(ばく露量)にも注目し、それが通常起こりえる量なのかということも考える必要があります。化学物質から日常的に受ける影響を、それがもたらす被害の重篤さとその時のばく露量の2つに注目した「リスク」というものでとらえるという考え方が提唱されています。この考え方では、「深刻な被害をもたらす化学物質でも、体内に入った量が十分に少なければ影響を与えず、通常被害をもたらさない化学物質でも大量に体内に入ってくると、深刻な被害をもたらす」とされています。また、身体に対する被害の深刻さはその化学物質が体内に入ってきた量に依るとされています。

実際に私たちが身の周りの化学物質からうけるリスクを知りたいときには、次の手順で行います。

 

1 注目した化学物質が体内に入ってくる量を求める

2 1の量と、その化学物質が「これ以下の量だと影響を与えない」とされている量を比較する

 

しかしながら、この方法だと身の周りの化学物質からのリスクがわからないことがあります。そのようなときには、生物の助けを借りて評価する、つまりバイオアッセイによってリスクをある程度把握することがあります。

リスクという考え方を取り入れて化学物質と化学物質と上手に付き合うために、次の2つのことから始めましょう。

 

① 身の周りにどのような化学物質があるかを知る

② それぞれの製品を正しく使用する

 

そして次の③~⑦を覚えておいてください。

③ どんな化学物質でも大量に体内に入ってくれば悪影響をもたらすこと

④ 「リスク」というものを正しく理解し、被害の重篤さとそれをもたらした量にも注目する必要があること

⑤ 化学物質を使うことによって得られる利点があること

⑥ リスク評価の結果はどんな場合にも当はなるわけではないこと

⑦ リスクはゼロにはできないこと

 

化学物質のリスクを低減するために、これまではそれぞれの立場で取り組んでいたことが多かったと思いますが、これからはいろいろな立場の人たちが連携し合った取り組みが重要になると思います。まずは①と②から始め、それを第一歩にして化学物質への理解をより深めて、化学物質と上手にお付き合いいただければと思います。

 

質問にお答えします

 

会場からの質問

質問

回答

 燃料(ガソリン)に含まれるトルエンの含量など調べる方法について知りたい

 燃料に含まれるトルエンなどの化学物質の含量は、原油の産地や各メーカーの製品によって異なっています。個別の製品の含有量はその時々で変動すると考えられますが、給油所から排出されるトルエンを推定するための資料では、燃料に含まれるトルエンの量はプレミアムガソリン中で24%、レギュラーガソリンでは9.9%(いずれも重量比)とされています。

(参考 PRTR排出量等算出マニュアル第4.1版 第Ⅲ部 資料編 Ⅲ-427 (平成23年3月 経済産業省・環境省))

 先日の大飯原発の判決「人の命は経済性よりも優先すべし、天秤にかけるものではない」は、化学物質にも当てはまると思いますが、どう考えてますか。

化学物質についても同様です。環境基準などの様々な規制値は現時点での化学的知見に基づいて人に対して十分に安全であるように設定されています。環境基準値などが設定されていない化学物質についても国内で使用される新しい化学物質は事前にヒトや動植物に対する影響についての審査 を受けてから使用されます。

 現状の科学技術では未解明なもの、また権力による統制によって一般市民に知らされていないものに対するリスクをどう制御するかが人間の知恵が試されていませんか。(かつての公害はほとんどが上に述べたことでしょう。アスベストは30~40数年後に分かりました。技術者の倫理観が問われているでしょう。)

現在十分に解明されていないことについて、人や動植物への影響を第一に考慮した調査・研究を進め、適切な情報を提供していくことが重要と考えます。

また、近年の情報化社会に伴い、私たちは環境に関する様々な情報を入手することができるようになりましたが、そのことにより何が正しい情報なのかの判断が非常に難しくなりました。皆様に対し、適切な情報をわかりやすくお伝えするとともに、どのような対応をとることが重要であるかをお伝えすることが私たちの重要な役割であると考えています。

 農薬など大量に工場で製造されている化学物質の内で、海外では禁止されているのに、日本で製造されているものはありますか?また、逆の場合はどうでしょう?

同じ化学物質でも国によって使用方法が異なり、そのためその化学物質から受けるリスクが異なることがあります。

海外で使用禁止ということではありませんが、EUではネオニコチノイド系と呼ばれる農薬3種がミツバチへの影響が懸念されているため、一定期間使用制限されています。これらの農薬は日本では広く使われていますが、EUと日本ではこの農薬の使用方法が異なっているようです。日本ではこれらの農薬は稲作などにおけるカメムシの防除などに使用されており、農林水産省で蜜蜂の被害事例について調査を行っています。

(参考 「農薬による蜜蜂の被害を防止するための我が国の取組」「蜜蜂被害事例調査の結果と今後の対策について」(いずれも農林水産省消費・安全局)

日本で使用することが禁止されていて、海外で使用されているものの一つにDDTがあります。これはマラリアの蔓延地域でマラリアを媒介する蚊を駆除するために、非常に慎重な方法で使用されています。DDTは「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)」において、そのような目的で使用されることが認められています。

EUや先進国では、その国内で使用される化学物質の規制が行われており、新規化学物質は安全性などの審査を受けてから使用されます。輸入される化学物質についても同様に規制がありますので、使用が禁止されている化学物質が海外から輸入され広く流通することはありません。その他、「国際貿易の対象となる特定の有害な化学物質及び駆除剤についての事前のかつ情報に基づく同意の手続に関するロッテルダム条約(PIC条約)」において、輸出国において使用制限されている化学物質が他国にむやみに輸出されることを防いでいます。これらの条約によって、100以上の締約国の間で有害性の高い化学物質が無秩序に使用されることが防がれています。

 

さらに詳しく知りたい方は・・・

動画(道総研公式チャンネル)

・案内チラシ
   案内ちらし.pdf