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第23話 ブナの種子の豊凶作

ブナの種子の豊凶(作)が何かおかしい?(H27.2)

道総研林業試験場道南支場 八坂 通泰

 

樹木の種子の成りには、著しい豊凶(年較差)があることが知られています。中でも北海道の黒松内町から九州まで全国に分布するブナの種子は豊凶が大きいことで有名です。ブナの種子は植林のための苗木作りに利用されるだけでなく、クマなど様々な野生生物の餌となり、動物の行動にも影響を与えるため、全国で種子の豊凶モニタリングが行われています。

ところが、最近「ブナの種子の豊凶が、何かおかしい?」と豊凶モニタリングを続けている研究者は感じ始めています。例えば、北海道南部のブナ林における林業試験場の調査では、1990~2002年の13年間は3~5年に1回の頻度で豊作が訪れていましたが、2003~ 2014年の12年間は1度しか豊作がきていません。こうした変化はブナだけでなく、他の樹木でも起きている可能性が指摘されています。

歴史を振り返ると、樹木の花や種子の豊凶は人間生活とも密接に関係してきたことがわかります。縄文時代にはナラ、クリ、トチノキ、クルミなどの種子は重要な食糧として利用され、これらの豊凶は縄文人の生活に直結していたと考えられています。植林の歴史を振り返っても、スギの種子の豊凶作は植林用の苗木作りの障害となり、開花を促進するため開花促進技術が開発されてきました。カラマツなど開花促進技術が確立していない樹種では、現在も種子の生産量は豊凶に大きく左右されています。近年では、本州のスギや道内ではシラカバの花粉などが都市部に飛散し、花粉症患者は毎年変動する花粉の飛散量に振り回されています。さらに最近では、山の木の実の成りが悪いとクマが里におりてくるといった言い伝えが科学的にも実証されつつあり、野生動物の保護管理との関係がクローズアップされています。

 

このように樹木の種子の豊凶というと、一見、人間生活とは縁遠い話のようですが、いろいろな場面で深い関わりがあり、豊凶パターンの変化は、森林生態系だけでなく、我々の生活に思いも寄らない影響を及ぼすかもしれません。

ブナなど樹木の豊凶現象の変化は、その実態がまだよくわかっていませんが、疑われている原因のひとつは近年の気候変動です。気候変動のパターンは日本の中でも地域ごとに異なり、ブナだけを対象としても1つの地域の調査だけではその影響の把握は困難です。 今後は、全国の樹木の豊凶現象を調査している研究者と連携し、この問題の実態解明について取り組みたいと思います。

 

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