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第28話 「ゆめいころ」に続いた道~道総研の馬鈴しょ品種改良

北見農業試験場 馬鈴しょ牧草グループ 佐藤圭

写真1 馬鈴しょの果実

     写真1 馬鈴しょの果実

「馬鈴しょの品種改良」と聞いて、どのような手順で行うか想像できるでしょうか?
 馬鈴しょは米、麦、豆といった種子で増える(種子繁殖性)作物と違って、種いも(塊茎)で次世代を増やす栄養繁殖性の作物です。ただ、種子を全く作らないわけではなく、畑でよく見ると青いミニトマトのような実(写真1)のついている馬鈴しょがたまにあります。この実の中に馬鈴しょの種子ができます。突然変異がない限り、種いもから育つ次世代のいもは親と遺伝的に全く同じクローンであるのに対して、果実の中にできる種子は、父親と母親の遺伝子を引き継ぎ、多種多様な特徴を示します。馬鈴しょの品種改良はこれらの特性を活かして進められます。

写真2 実生養成

   写真2 ポットによる実生養成

まず、母親のめしべの先端に父親の花粉をかけて交配します。交配が成功すると母親の花があったところに果実ができます。この中に交配に由来する種子(種いもに対して真正種子といいます。)が入っています。この真正種子を蒔いて育てる苗を「実生(みしょう)」と呼びます。現在の道総研・北見農業試験場の馬鈴しょの品種改良では毎年約200組合せの交配を行い、成功した組合せから得られた60,000粒ほどの真正種子を播種(はしゅ)して実生(写真2)を育てています。実生を育てたポットの土の中には小さないもが実ります。これを収穫し、種いもとして次の年には畑で栽培します。
 

図1 選抜の流れ

      図1 選抜の流れ

ここから毎年いもを収穫して、その数や重さ、形、全体の収量、油加工用であればポテトチップス、でん粉原料用であれば片栗粉にしたときの品質等を調べて、次の年の試験に進めるかどうかを判断します。この作業を「選抜」と呼びます。毎年選抜を繰り返して選ばれたもの(これを「系統」と呼びます。)の数は少なくなっていきますが、各系統で次の年に使える種いもの量は増えていくので試験の規模は大きくなり、より精度の高い調査を行います(図1)。これらの試験と並行して病害虫への抵抗性を確かめる調査、栽培条件を変えた試験を行います。選抜した系統がその能力を広い北海道で発揮できるか、全道の主産地で栽培試験も行います。こうして交配から数えて短くとも11年の時を経て品種が育成されます。毎年品種がリリースされるわけではないので、1つの品種ができるまでには膨大な手間暇がかかることが分かります。このような先達の努力の結果として、でん粉原料用の「コナフブキ」、生食用の「スノーマーチ」、ポテトチップスなど油加工用の「オホーツクチップ」といった北海道の馬鈴しょ生産を彩った、また現役で栽培される数々の品種が道総研から発表されました。

交配に使う親も品種改良の歴史の中で生まれたものです。道総研の前身である旧道立農業試験場が馬鈴しょの品種改良を始めた1957年、在来種といった遺伝資源の利用も考えれば、更にさかのぼって人類が馬鈴しょ栽培を始めた約7,000年前から脈々と受け継がれてきた歴史の延長線上に現在の馬鈴しょの品種改良があると言えます。

長い道総研の馬鈴しょ品種改良の取り組みの中、一番新しくリリースされた品種が「ゆめいころ」です。おそらく日本で最も有名な馬鈴しょ品種である「男爵薯(だんしゃくいも)」は明治時代にイギリスで購入された種いもが、日本に持ち込まれ普及したものです。この男爵薯は、早生(わせ)なので栽培可能な地域が広く、やや粉質で独特の食味を好む人が多い一方で、北海道で発生が問題となっているジャガイモシストセンチュウに弱く、加工面では目(いもの表面の芽が出てくるくぼみ)が深くて皮がむきにくいなど改良の余地がありました。この品種の置き換えを目指して男爵薯を母親、その欠点の改良が見込める系統の「北系39号」を父親とする交配から誕生したのが、後のゆめいころです。

写真3 「ゆめいころ」の見た目

     写真3 「ゆめいころ」の見た目

ゆめいころも先に説明した品種改良の工程を経て、何人もの職員の調査、選抜の末誕生しました。2010年に人工交配を行い、4,039粒の真性種子を得てそのうちの2,000粒を播種し、最終的に選ばれました。ゆめいころは男爵薯と同じ熟期の早生で、ジャガイモシストセンチュウに抵抗性を持ち、目も浅くて、更に収量も多いなど男爵薯より優れた点が評価されて交配から11年後の2021年に北海道の優良品種に認定されました。ゆめいころの“味“は、「メークイン」や「きたかむい」などに比べ男爵薯に近いですが、男爵薯より風味が弱いために”あっさり“、男爵薯より煮崩れしにくく”しっとり“しているのが特徴です(写真3)。令和6年から一般栽培が開始され、栽培面積も順調に広がりつつあります。スーパーなどの青果売り場やお惣菜コーナーで「ゆめいころ」やその調理品を見かけましたら、手に取っていただけると嬉しいです。

[2025年11月18日 公開]

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