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第29話 赤いダイヤも省力化栽培の時代へ~新品種「きたいろは」への期待~

十勝農業試験場 豆類畑作グループ 藤田涼平

ロークロップヘッダコンバイン(左)とリールヘッダコンバイン(右)

写真1 ロークロップヘッダコンバイン(上)とリールヘッダコンバイン(下)

北海道を代表する農作物のひとつである小豆ですが、かつては冷害や病気により、収量の変動が著しく大きい作物でした。しかし、日本の貴重な文化である“和菓子”生産に欠かせないことから引き合いが強く、商品先物取引と言えば真っ先に名前が挙がった時代もあります。
 そんな希少性と高い価値が相まって“赤いダイヤ”と呼ばれたことも今は昔。関係者の不断の努力もあり、単に収穫量が増加しただけではなく、より生産性が安定した品種が開発されてきました。さらに、様々な病気に対する抵抗性を持つ品種も増えています。

言うまでもなく、新品種には多くの優れた特性を持たせることが理想ですが、近年、十勝農業試験場において力を入れているのが“省力化”です。
 省力化は、文字通り手間や労力を“省く”ことが目的になりますが、小豆の栽培は様々な作業において時間がかかり、同じ豆類の大豆に比べて40%程度多いという統計データがあります。
 特に、小豆は収穫作業に手間がかかるのが大きな問題で、大豆の2倍以上の作業時間が必要になります。小豆では“ピックアップ収穫”と呼ばれる体系が主流で、2023年の調査ではおよそ40%を占めていますが、この体系は、①ビーンカッターで小豆を地際から刈り倒し、②ピックアップスレッシャ等で拾い上げて脱穀を行うという2段階の工程が必要になります。

 

海外製リールヘッダコンバインによる「きたろまん」収穫ロス

写真2 海外製リールヘッダコンバインによる「きたろまん」収穫ロス

一方、大豆での収穫体系は、コンバインによる“ダイレクト収穫”が主流となっており、刈り取りから脱穀までを1工程で済ませることが可能です。このため、小豆でもダイレクト収穫の導入が進んでおり、非常に関心が高まっています。
 ただ、豆専用のロークロップヘッダコンバインであれば問題は少ないのですが、水稲や小麦の収穫にも利用できる汎用性の高いリールヘッダコンバインの場合、刈り取り位置を地際ギリギリに設定することが難しいという問題があります(写真1)。現在作付けされている小豆の品種は、最も下に着く莢(さや)の位置が低いため、リールヘッダコンバインで収穫すると、莢が切れて粒がこぼれ落ちる“収穫ロス”が多くなってしまいます(写真2)。

そこで開発された新品種が「きたいろは」です。この品種は、地際から初生葉節(しょせいようせつ・莢が着く最も低い位置)までの長さである“胚軸長(はいじくちょう)”がこれまでの品種より長いという特性があり、「きたろまん」と比較すると一目瞭然です(写真3)。また、試験においては“地上10cm莢率”という指標を設定し、全体の莢数に対して文字通り地際から高さ10cmまでに入る莢の割合を調べましたが、「きたいろは」は明らかに低い結果となりました。
 さらに、実際にロークロップヘッダコンバイン、リールヘッダコンバインによる収穫を行った試験においても、「きたいろは」の収穫ロスは、比較した品種「きたろまん」よりも低い事例が多く見られました。
 すなわち「きたいろは」は、コンバイン収穫適性が高く、省力化に大きく貢献することが期待できる品種と言えます。

左:「きたろまん」、右:「きたいろは」

写真3 左:「きたろまん」、右:「きたいろは」白矢印が胚軸長

その他にも、「きたいろは」は落葉病(らくようびょう)や茎疫病(くきえきびょう)、萎凋病(いちょうびょう)という土壌病害に強いという特徴があります。
 品質という点でも期待は高く、「きたいろは」は北海道産小豆として製餡・和菓子業者の評価も上々です。多くの武器を手にして、今後広く普及することを期待しています。

さて、近年は度々“猛暑”となり、今年の7月は北海道でも多くの地点で真夏日どころか猛暑日を記録したのは記憶に新しいところです。道東の北見市では7月24日に39℃を記録し、十勝農業試験場が所在する芽室町でも7月22日から25日まで4日連続の猛暑日を記録しました。小豆において高すぎる気温は、花が落ちて莢が実らないことによる低収の要因となります。
 冒頭で冷害に苦しめられた歴史に触れましたが、このような気象変動により、小豆においても“高温耐性”が問題になるとは隔世の感があります。今後の品種開発に向けた新たなキーワードになりそうです。

[2025年12月23日 公開]

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