
第39話 道産樽で開くオリジナル熟成酒
北海道における酒類製造は、近年、ワイン、ウイスキー、クラフトビール、クラフトジンなどの新規参入者が相次いでおり、製造企業数の増加と製造品目の多様化が大きな特徴です。これらの背景には、北海道の強みである、広大な土地と冷涼な気候が、ブドウや米などのお酒の原料となる農作物の栽培に適していること、お酒造りには欠かせない良質な水が豊富であること、製造したお酒の貯蔵環境が適していることなどがあげられます。
一方で、国内における酒類市場の動向は、少子高齢化や若年層の「アルコール離れ(お酒をあえて飲まない選択の定着)」、さらにコロナ禍を経たライフスタイルの変化により、大勢で大量に飲む「飲み会文化」から、家で少量の上質なお酒を楽しむスタイルや、ノンアルコール・低アルコール飲料へと需要が移ってきています。そのため、国内市場全体としては縮小しながらも、クラフト酒や樽熟成酒のような「新しい付加価値をもつ商品」に注目が集まる市場へと変化しています。
樽で熟成するお酒と言えば、ワインやウイスキー、ブランデーなどを思い浮かべると思います。これらのお酒の製造に使われる樽にはオークという広葉樹が使われ、アメリカンオーク(ホワイトオーク)とヨーロピアンオークが主流です。しかし近年、世界中から絶大な称賛を集めているのが、日本国内に広く分布し、特に北海道が主産地とされている「ミズナラ(ジャパニーズ・オーク)」です。ミズナラの樽で熟成させたウイスキーは、他のオークにはない、白檀(びゃくだん)や伽羅(きゃら)といった香木を思わせるオリエンタルで気品のある香りが宿ると言われています。この香りの成分の正体と言われているのが、「オークラクトン」という化学物質です。食品加工研究センターでは、これを確かめるために、ミズナラとホワイトオークのチップ(木を破砕したもの)を赤ワインにそれぞれ漬け込んで貯蔵し、ワインから揮発してくる香りの成分を経時的に分析しました。その結果、ホワイトオークを漬け込んだワインと比べて、ミズナラを漬け込んだワインの香りにはオークラクトンが多く含まれていました(図)。

お酒を樽で熟成することは、ワインやウイスキーをはじめほとんどの洋酒では一般的です。一方、日本で樽酒と言えば、杉などの木製の樽に清酒が詰められたもので、祝いの席や鏡開きなどで目にする方も多いかと思います。樽酒は貯蔵中に木の香りが清酒に移り、風味のあるお酒になりますが、樽を用いて熟成させるウイスキーやワインとは目的が異なります。しかし、近年は熟成させた清酒の製造に取り組む酒造会社が増加しています。食品加工研究センターでは、道内の酒造会社が取り組んだ「ミズナラ樽で熟成した純米大吟醸酒の開発」に協力し、その香りの特徴を解析しました。解析の結果、純米大吟醸酒に含まれている吟醸香の成分(カプロン酸エチルなど)は樽熟成後も含まれたままで、オークラクトンは樽熟成後の純米大吟醸酒に含まれており、ミズナラの樽から純米大吟醸酒に付与されたことが分かりました(表)。そのお酒を試飲したところ、大吟醸酒の風味も感じつつ、ウイスキーの風味を強く感じることができました(写真)。


北海道にはミズナラ以外にも多くの種類の木が生育しており、酒類用の樽として使うことができれば、オリジナルの熟成酒の製造に活用できる可能性があります。林産試験場と食品加工研究センターは、令和8年度から、これらの道内に自生する木に注目し、樽への利用技術の開発と、木の種類がお酒の香りに与える特徴を明らかにする試験研究に取り組んでいます(重点研究)。この研究の成果により、北海道らしい、様々な木の酒類の樽と、その樽に漬け込んだオリジナルの熟成酒の開発に貢献していきます。
[2026年9月24日 公開]
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