北海道 地質由来有害物質情報システム GRIP

H23-25 重点研究 報告書「北海道内における自然由来有害物質の分布状況」

溶出/含有量試験値の追加・収集

土壌汚染対策法では,有害元素の地下水への拡散リスクを評価するための「溶出試験(改正 平成二十年五月九日環境省告示第四十八号)」,土壌の経口摂取に伴う健康被害リスクを評価するための「1規定塩酸含有量試験(改正 平成二十年五月九日環境省告示第四十九号)」が公定法として定義されている.また,同法の対象となる特定有害物質は,第1種特定有害物質(揮発性有機化合物)11種,第2種特定有害物質(重金属等)9種,第3種特定有害物質(農薬等)5種である.このうちシアン化合物を除く第2種特定有害物質(重金属等)8種が自然界に微量ながら普遍的に存在する.

本研究は,土壌・岩盤にもともと含まれる有害物質について検討したものであり,人為的に有害物質が土壌に付加されたいわゆる「人為汚染」については取り扱わないこととした.そこで本研究では,土壌汚染対策法が指定する第2種特定有害物質のうちシアン化合物を除いた砒素・セレン・鉛・カドミウム・クロム・水銀・ホウ素・フッ素の計8種を対象とした(表1).このうちクロムは三価態として自然界に普遍的に存在するが,土壌汚染対策法で指定されている六価態は自然界にほとんど存在しないと考えられている.本報告書には参考までに三価クロムの値を掲載しているが,全ての地質体において溶出/含有量リスクは低いと判断している.

試料採取方法と前処理

土壌汚染対策法に基づく試料採取は,対象となる領域全体を代表した値を取得することを目指している.このために汚染が疑われる対象領域をグリッドに分割し,各グリッドから採取した試料を混合し均質化したものが検体として使用される.

一方,本研究は地質体を構成する1つもしくは複数の岩相の溶出量/含有量を確認することを目的としている(図2).そのため,モデルとした地質体を構成する代表的な岩相から数100gの土壌もしくは岩石を採取し,これを風乾(もしくは恒温器で35〜40℃で1〜2日乾燥)後,篩い分け(径2mm以下)もしくは微粉砕したものを検体とした.

本研究で実施した分析方法

溶出試験(簡便法)

本研究では遠沈管に検体3g,蒸留水30mLを入れて6時間振とうした後,20分間静置後,20分間遠心器にかけて生成した上澄み液を検液とした.この検液を質量分析計(ICP-MS:独立行政法人産業技術総合研究所)もしくは原子吸光法(外部委託)を用いて有害物質8種および目的に応じてその他の元素を測定した.

全岩含有量試験

土壌汚染対策法が定める含有量は,経口摂取リスクを考慮した1規定塩酸含有量試験である.これは,試料中に含まれている全岩含有量に対して1規定に調整した塩酸に溶出してくる量であるため,全岩含有量≧1規定塩酸含有量の関係がある.そこで本研究では蛍光X線分析法を使用して全岩含有量試験を求め,この値を1規定塩酸含有量の代替値としてリスク評価に用いた.試料採取で述べた試料を検体とし,これを蛍光X線分析装置(独立行政法人産業技術総合研究所/国立大学法人北海道教育大学)を使用して測定した.

既存資料からのデータ収集

北海道内で実施されている橋梁・道路・ダムなどの土木工事現場では概略調査時もしくは施工時に土壌汚染対策法に基づき溶出試験および1規定塩酸含有量試験が実施されている.各現場のご好意によりこれらの貴重な試験値の提供を受け,これをデータベースに登録した.

北海道内では金属鉱業事業団(現 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物試験機構:JOGMEC)による鉱床探査が精力的に行われてきた.この探査結果は広域地質構造調査報告書として公開されており,砒素・鉛・カドミウム・水銀などの元素の全岩含有量が掲載されている(例えば,金属鉱業事業団,1990).地方独立行政法人産業技術総合研究所では河川底質について全国的な調査を実施し,地球化学図をとりまとめている(今井ほか,2004).また,北海道立地下資源調査所でも北海道中央部と北部において土壌地化学探査を実施し,報告書にとりまとめている(菅・黒沢 ,1987;菅・黒沢 ,1996).また,鉱床関連の研究論文にも鉱脈や周辺部についての全岩含有量が掲載されている(例えば,石原・寺島 ,1977;斉藤・藤原 ,1957).さらに,北海道内に分布する火成岩に関する研究論文では,重金属等の元素分析結果が含まれていたり(例えば,高坂,1975),鉛同位体比の計測時に鉛の全含有量が測定されていることがある(佐藤,1974).これらの論文・報告書等に掲載されているデータについてもデータベースに登録した.