北海道 地質由来有害物質情報システム GRIP

H23-25 重点研究 報告書「北海道内における自然由来有害物質の分布状況」

有害物質の濃集・拡散過程

内陸域から海域への自然由来有害物質の移動

堆積物の特性

溶出/含有リスクが「堆積物の特性」に影響される地質体は,内陸域堆積物の「泥炭堆積物」,「湖沼堆積物」,沿岸堆積物の「炭質物層およびその周辺層」が該当する.

泥炭は,植物遺体からなる有機物を主体とし,砂層・泥層など無機物質を主体とする堆積物とはその特性が大きく異なる.強い還元状態で形成され,かつ含水量が非常に高く,腐植酸の影響により酸性を示すことなどが,泥炭の大きな特性である.このような堆積物の特性に起因した有害物質の溶出/含有リスクへの影響について,以下に記述する.

泥炭は,内陸域・沿岸域堆積物と比較すると,砒素全岩含有量が高い(図10).泥炭などの高有機質層は,砂層・泥層などの堆積物に比べ,砒素に富む事例が数多く報告されているが(山崎ほか,2000;応用地質研究会ヒ素汚染研究グループほか,2000など),道内の「泥炭」においても同様の結果であった.また,沿岸域に分布する泥炭は,陸成のものに比べ砒素溶出量が高い傾向があり(図11),砒素の溶出リスクが高い.

泥炭は,有機物を主体としているが,表流水によって無機成分である懸濁物質も供給される.前項に記述した通り,砒素はコロイド等の懸濁粒子に選択的に収着することから,泥炭には懸濁物質とともに砒素が供給されることになる.また,沿岸域では,前述した凝集沈殿の影響により,懸濁物質には多くの砒素が収着していると思われる.このような場合,懸濁粒子の運搬媒体である水は,泥炭中を容易に移動し得るが,固相である懸濁物質は泥炭がフィルター材となり堆積物中にトラップされる.泥炭の堆積後も,供給される表流水が濾過されることによって懸濁物質が泥炭中に蓄積していくことが考えられる.泥炭は堆積速度が小さく,北海道の低地における泥炭の堆積速度は1mm/年程度とされている(五十嵐,2001).したがって,泥炭への砒素供給がわずかな量であっても,厚い泥炭は濾過作用を長期にわたり繰り返していることになり,徐々に泥炭中の砒素濃度を上昇させ得る.

このように泥炭というフィルターに捕捉された砒素は,泥炭外に流出しにくいため,高い砒素溶出量/全岩含有量となるものと推定される.