H23-25 重点研究 報告書「北海道内における自然由来有害物質の分布状況」
有害物質の濃集・拡散過程
火山活動に伴う有害物質
マグマが冷却固化した岩石全体を火成岩と呼称し,地表もしくは海底で噴出して破砕作用を受けた岩石を火山岩類,地下深部で破砕作用を受けなかったものを深成岩類とよぶ(久城ほか,1989).地下深部から上昇する高温(600〜1200℃)のケイ酸塩溶融体であるマグマにはもともと自然由来有害物質が含まれている.このマグマの上昇に伴う減圧・温度低下により水銀や砒素などの気化しやすい元素が分離する(中川,1985;坂元,2008).また,マグマの通り道にある壁岩はマグマによる加熱のために移動しやすい元素が抽出されて,流体(熱水やガスなど)に集積する.このような流体により元素が濃集した領域が鉱床であるが,これについては次項で述べる.
マグマ中には微量ながら砒素が含まれている.徐冷により脱ガスが進んだ場合には,砒素もガスとして放出されるため岩石中に残存する量は小さくなるものと思われる.しかし,急冷により形成された火山ガラスには脱ガスができずに砒素が残存している可能性が高くなる.また,その存在形態は明確ではないが,微細な構成粒子の表面に収着している可能性もある.
通常,このような砒素は問題となることは少ない.しかし,急冷ガラスが大量に存在するケース,すなわちカルデラ噴火等に伴う大規模火砕流堆積物は,堆積物全体で考えるとかなりの量の砒素が含まれていることになる.このような厚層火山灰層直下の透水層と難透水層の境界面付近で砒素が溶出基準値を超過する事例が知られている(図13;高橋ほか,2012).このような透水性が高く,厚層の火山灰中を流れる地下水は,砒素を溶存態,もしくはコロイド等に収着した状態で運搬していくことになる.このわずかに砒素を含む地下水が,厚層火山灰層直下の透水層と難透水層の境界面付近で集積することで,同境界面周辺の砒素の溶出リスクが高まることが考えられる.
以上のことから大規模火砕流堆積物の分布域では,基本的に自然由来有害物質の溶出量が問題となることはないが,大規模火砕流堆積物の直下など厚層火山灰層の下位に難透水層が存在するような特定の環境でやや高めの砒素溶出量を示すことがある.