北海道 地質由来有害物質情報システム GRIP

H23-25 重点研究 報告書「北海道内における自然由来有害物質の分布状況」

今後の活用

北海道内の自然由来有害物質に関する地質情報システム「GRIP」を通じて,地質体の自然由来有害物質リスク情報が公開されることにより,1)掘削作業を伴う建設工事の計画立案や有害残土の処分法の検討が行いやすくなる.また,2)人為汚染の判定基準として利用できる可能性がある.さらに,3)自然界における元素の集積・拡散に関する研究への寄与も期待される.

北海道内における土木/建築工事への活用

土壌汚染対策法では,3,000㎡以上の「土地の形質変更」を伴う掘削工事が行われる場合は,自然由来有害物質を含む建設残土の対策が必要となる.一般に建設工事は,計画段階・予備調査・概略調査・施行時調査・施行後調査と進行する.本研究で構築した「GRIP」の主たる情報提供の時期は,概略調査段階以前を想定している.

もし,「土地の形質変更」が始まる前の調査段階にリスク情報が入手できれば,溶出量/含有量試験の効率的なサンプリング方法を検討することができる.例えば,地質体のリスク情報に基づいて試験頻度を調整することで,限られた予算の中で効率的に要処分残土の発生量を把握することができる.また,非常に高リスクな地質体が存在するのであれば,費用対効果を考慮した建設計画自体の見直しも可能となる.さらに,要処理残土の処分方法も,費用削減のために高リスクと低リスクの地質体で異なる処分方法を採用するなどの計画立案が可能となる.

人為汚染判定のための背景値としての利用

土地取引では,有害物質による汚染の有無が問題となる可能性がある.もし,人為汚染であれば,浄化もしくは不溶化処置が行われなければ,売買契約が不成立となる場合もある.このような場合に,売買対象区域内の土壌・岩盤中に含まれる自然由来有害物質の溶出量/含有量は,人為汚染判定のための目安の1つとなる.もし,対象とする土地で得られた溶出量/含有量試験値が,自然由来有害物質の溶出量/含有量よりも明らかに高い値であれば人為汚染の影響による可能性が高いと判定できる.「GRIP」が提供するリスク情報は,地質体にもともと含まれる自然由来有害物質の溶出量/含有量に関する情報であり,人為汚染判定のための背景値として利用できる場合もある.

有害物質の拡散過程に関する研究へ

本研究では,北海道内の地質体について自然由来有害物質の挙動に関する情報提供のための地質情報システムを構築・公開した.ここで分類した「リスクパターン(巻末資料を参照)」は,上流域から下流域を経て海域への有害物質の運搬・拡散過程であるとも言える.

本研究では,現世における堆積環境ごとの拡散現象の把握を目指したが,過去の堆積環境が保存されたと考えられる地質体も同様に扱うことができるであろう.地質体は,空間的に断片的な情報となりやすいが,河床底や湖底,海底など現世において観察や試料採取が困難な環境,さらには現世には存在していない堆積環境についても,元素の拡散過程を知るための貴重な資料になりうる.反対に,有害元素やその他の微量元素の溶出挙動は,堆積学や環境科学における古環境復元のためのデータとしての活用も期待される.