宮島沼
Lake Miyajima
所在地 (Location) | 美唄市 (Bibai City) |
成因 (Origin) | 不明 (unknown) |
湖面標高 (Elevation) | 12 m |
湖面積 (Surface area) | 0.36 km2 |
最大水深 (Max. depth) | 2.4 m |
容積 (Volume) | 600 ×103 m3 |
集水域面積 (Watershed area) | 1.66 km2 |

沼の東側から北西方向を撮影。周囲はヨシ原に囲まれているが、写真左下方向の宮島沼水鳥・湿地センターから沼岸まで遊歩道が伸びており、飛来するマガンを観察することができる。(2022年9月22日撮影)
宮島沼(ミヤジマヌマ)は、美唄市西端を流れる石狩川の東約500 mに位置する。成因は不明であるが、石狩川の洪水の流れによって地面がえぐられてできた「押掘(おっぽり)」との説がある [1]。
宮島沼の名は、1891年(明治23年)に、新潟県からこの地に入植した宮島佐次郎氏に由来する [1]。
宮島沼は、湖面標高12 m、湖面積0.36 km2、最大水深2.4 mの浅く小さな淡水湖である。2011年7月に行われた音波による測量によれば、沼の大部分は水深1 m程度と浅く、最深部は沼の北西にある流入水路の流出口付近にある [2]。2.4 mの最大水深は1970年代の記録であり [3]、現在は水深の減少(浅底化)と水面の縮小が課題となっている [4]。
宮島沼周辺の土壌は泥炭となっている [5]。かつて、石狩川下流の低地には、現在の釧路湿原やサロベツ湿原をしのぐ北海道最大の湿原(石狩湿原)が広がっていたが、農地化等によってその99%が消失したと言われている [6]。その中で、宮島沼を含む残存湖沼群は、かつての原風景を留める貴重な自然空間となっている [7]。
流入・流出河川は特に見られないが、沼の東側にある農業用の幹線排水路と接続されており、排水路の水位によって、排水路の水が沼に流入したり、沼の水が排水路に流出したりする [8]。沼の水位は水田の灌漑期(5月上旬~8月下旬)に高く、非灌漑期に低い。
集水域の土地利用は、田と農用地を合わせた農地が全体の6割以上を占めている。農地は、元々、水田として整備されたが、畑作地としての利用が進み、宮島沼の周辺では、水稲のほか、秋まき小麦や大豆などが作付けされている [8]。沼と農地との間には、ヨシなどから成る湿原植生が帯状に広がっており、一部に樹林が見られる。
過去に行われた水質調査のうちSt-2の結果と、2022年6月に実施した湖心(St-1とSt-2の間)の調査結果を表に示す。2022年6月の調査時には、湖心の全水深は0.7 m、透明度は0.2 mであった。この時、Chl-a濃度は350 μg/Lと非常に高く、湖面にはアオコが見られた。植物プランクトンの増殖に伴い、DOは15.6 mg/Lと高く、pHは9.7とアルカリ性を示していた。
宮島沼のように泥炭地にできた湖沼では、周囲の泥炭から染み出る腐植物質によって、湖水のCODが高い特徴がある。宮島沼周辺の泥炭地湖沼群では10~20 mg/L程度の比較的高いCOD濃度を示す [9]。これに対し、宮島沼のCOD濃度は50 mg/L程度と著しく高いことから、植物プランクトンによる有機物の内部生産の影響を強く受けているものと思われる。
2022年6月のTNとTP濃度はそれぞれ3.90 mg/Lと0.520 mg/Lであり、過栄養レベルにあった。過去の調査データは限られているものの、1984年や1990年にはTNが1 mg/L程度、TPは0.1 mg/L未満と、富栄養と過栄養の境界付近にあったもの思われる。その後、1995年、2000年とTN、TP濃度が大きく上昇し、高止まりしている状況がうかがえる。
宮島沼の水質の悪化と浅底化を招いている要因として、周辺農地から排水とともに流入する土砂や栄養分が挙げられる。平成25年度から令和4年度に実施された道営農地整備事業では、環境配慮の一環として、宮島沼に流入する農業用排水路が迂回化された [4]。これにより、沼への栄養分等の流入は削減されたものの、湖水の滞留に伴う水質濃度の上昇など、新たな課題が指摘されている [10]。
宮島沼には毎年、春と秋、ガンやカモ、ハクチョウなどの多くの水鳥が飛来する。宮島沼は、日本における最も重要な渡り鳥の中継地の一つと言われており、ラムサール条約登録湿地となっている [11]。とくに、国の天然記念物に指定されているマガンは7~8万羽程度飛来し [12]、多くの観光客が訪れる。また、宮島沼は水鳥の観察だけでなく、子供たちが水辺の生物や環境について学ぶ教育の場にもなっている。湖岸には宮島沼水鳥・湿地センターがある。
美唄市は、宮島沼とその周辺が抱える課題解決と、湿地と共生する地域づくりに向けた指針として、「宮島沼の保全と再生に関するマスタープラン」(みやぷら)を策定した [4]。宮島沼では現在、湖岸部の陸地化した箇所を掘削し、かつて沼に生育していたとされる沈水植物を試験的に移植するなど [13]、水環境の保全と再生に向けた様々な取組が進められている。
調査日 | 地点 | 全水深 [m] |
透明度 [m] |
pH | Cl- [mg/L] |
アルカリ度 [meq/L] |
DO [mg/L] |
COD [mg/L] |
TOC [mg/L] |
TN [mg/L] |
TP [mg/L] |
Chl-a [μg/L] |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1979-08-30 | St-2 | 1.1 | 7.3 | 8.6 | 4.8 | |||||||
1984-06-04 | St-2 | 1.2 | 0.8 | 7.4 | 15.5 | 9.3 | 10.0 | 1.15 | 0.049 | 16 | ||
1985-10-07 | St-2 | 0.8 | 7.2 | 10.9 | 16 | |||||||
1990-07-13 | St-2 | 1.2 | 0.7 | 7.7 | 13.0 | 8.4 | 15.0 | 9.1 | 1.00 | 0.091 | 28 | |
1995-09-25 | St-2 | 0.7 | 0.2 | 8.7 | 8.4 | 0.461 | 10.8 | 29.0 | 11.6 | 1.86 | 0.132 | 98 |
2000-08-28 | St-2 | 0.6 | 0.2 | 8.5 | 5.0 | 0.498 | 12.0 | 53.0 | 25.0 | 7.20 | 0.470 | 300 |
2022-06-30 | 湖心 | 0.7 | 0.2 | 9.7 | 8.09 | 0.372 | 15.6 | 48.0 | 3.90 | 0.520 | 350 |
[1] 牛山克巳,2024.宮島沼の成り立ち.宮島沼LOVE!ラムサール登録20年を越えて,牛山克巳・仮屋志郎[編集]:73–77.北海道新聞社,札幌.
[2] 横山諒・山田浩之・木塚俊和・海津裕・遊佐健・牛山克巳,2019.農業活動がラムサール条約湿地宮島沼の水質の時空間変動に及ぼす影響.湿地研究,9:3–16.https://doi.org/10.24785/wetlandresearch.WR009002
[3] 北海道,1979.第2回自然環境保全基礎調査 湖沼調査報告書.
[4] 美唄市.宮島沼の保全と再生に関するマスタープラン ~みやぷら~.URL: https://www.city.bibai.hokkaido.jp/soshiki/6/847.html(2024年12月15日時点)
[5] 農研機構農業環境変動研究センター,2019.縮尺20万分の1土壌図(2019年6月版).URL: https://soil-inventory.rad.naro.go.jp/download20.html(2021年10月18日取得)
[6] 宮地直道・神山和則,1997.石狩泥炭地における湿原の消滅過程と土地利用の変遷.財団法人自然保護助成基金1994・1995年度研究助成報告書 北海道の湿原の変遷と現状の解析―湿原の保護をすすめるために―,北海道湿原研究グループ[編集]:49–57.財団法人自然保護助成基金,東京.URL: https://www.pronaturajapan.com/archive/urgent/hokkaidowetland.html(2024年12月15日時点)
[7] 木塚俊和,2017.泥炭地湖沼の役割.湿地の科学と暮らし―北のウェットランド大全,矢部和夫・山田浩之・牛山克巳[監修]:193–200.北海道大学出版会,札幌.
[8] 木塚俊和・山田浩之・平野高司,2012.石狩泥炭地宮島沼の水・物質収支に及ぼす灌漑の影響.応用生態工学,15:45–59.https://doi.org/10.3825/ece.15.45
[9] Kizuka T., Yamada H., Yazawa M. & Chung H. H., 2008. Effects of agricultural land use on water chemistry of mire pools in the Ishikari Peatland, northern Japan. Landscape and Ecological Engineering, 4: 27–37.https://doi.org/10.1007/s11355-008-0037-4
[10] 中谷暢丈,2024.宮島沼と周辺湖沼の水質.宮島沼LOVE!ラムサール登録20年を越えて,牛山克巳・仮屋志郎[編集]:96–101.北海道新聞社,札幌.
[11] 環境省,2022.日本のラムサール条約湿地―豊かな自然・多様な湿地の保全と賢明な利用―.URL: https://www.env.go.jp/nature/ramsar/conv/pamph02/index.html(2024年12月15日時点)
[12] 牛山克巳,2024.飛来数の変化でわかること.宮島沼LOVE!ラムサール登録20年を越えて,牛山克巳・仮屋志郎[編集]:69–72.北海道新聞社,札幌.
[13] 片桐浩司,2024.宮島沼と周辺湖沼の水草.宮島沼LOVE!ラムサール登録20年を越えて,牛山克巳・仮屋志郎[編集]:107–113.北海道新聞社,札幌