クッチャロ湖

Lake Kutcharo

所在地 (Location) 浜頓別町 (Hamatonbetsu Town)
成因 (Origin) 海跡湖 (lagoon lake)
湖面標高 (Elevation) 0 m
湖面積 (Surface area) 13.44 km2
最大水深 (Max. depth) 3.3 m
容積 (Volume) 21030 ×103 m3
集水域面積 (Watershed area) 147.50 km2

湖の北東から南西方向を撮影。左の写真が南の大沼、右の写真が北の小沼。大沼と小沼は水路でつながっている。(2023年6月22日撮影)

クッチャロ湖は道北の浜頓別町北部に位置する海跡湖である。明治始めの頃は「頓別沼」と称されていたらしく、クッチャロ湖と称されたのは1900年以降であると推察されている。クッチャロはアイヌ語の「トクッチャㇻ」に由来し「湖・喉」の意である [1]。沼の水が川になって流れ出す口の所がトクッチャㇻと呼ばれていたので、和人がそれを採ってクッチャロ湖と呼ぶようになったものらしい。

クッチャロ湖は南の大沼と北の小沼とからなり、両者は狭い水路で繋がっている。湖面標高0 m、湖面積13.44 km2の汽水湖である。国土地理院の湖沼調査(1985・1987年測量)によれば最大水深は大沼東側の流出口付近の3.3 mである [2]。水深が1 mを超えるのはこの流出口付近のみであり、大沼の大部分は0.5~1 m程度と浅い。小沼は大沼に比べて全体的に深いものの、湖盆の最深部は1.7 mと浅い [2]

クッチャロ湖は東側から北側にかけて標高10~30 m、南側から西側にかけて標高30~70 m程度の浜頓別台地と呼ばれる砂礫台地に挟まれている [3]。主な流入河川として、小沼にクッチャロ川、ヤスベツ川、オビンナイ川、ポン仁達内(にたちない)川、ポン沼川が、大沼にルカシュナイ川が流入する。最大流入河川はクッチャロ川である。

クッチャロ湖の集水域面積は約148 km2であり、湖面積のおよそ10倍である。集水域の土地利用は、森林が全体の約56%と最も大きいが、農用地も約26%と比較的大きい。農用地は各流入河川の中流域から下流域にかけての台地から低地に分布しており、そのほとんどが牧草地である [4]。2000年に行われた流域調査の結果から、クッチャロ湖流域に飼育されている乳牛は3,372頭、乳牛飼育密度は25.5 頭/km2であり、人口密度の1.51 人/km2に比べてはるかに大きかった。特にポン沼川流域の飼育牛密度が149 頭/km2と高いことが特徴的であった。荒地は主にヨシやハンノキなどの湿原、沼沢林で [4]、特にクッチャロ川の小沼への流入口付近や、小沼と大沼との接続水路付近にまとまって分布している。

2023年の調査は、6月22日の潮位30~40 cm(枝幸)の下げ潮の時間帯に実施した [5]。この時、採水地点(St-3)の水深は1 mであった。塩化物イオン濃度は約12,000 mg/L(塩分換算で約22‰ [6])であり、海水の影響を受けている状況にあった。水質鉛直プロファイルでは表層より底層で塩分が高くなっており、淡水より密度の大きい海水が底の方から流入している状況がうかがえた。過去の測定では塩化物イオン濃度は100未満から約16,000 mg/Lと幅広く、そのときの淡水の流入と海水の逆流の状況によって大きく変動するものと思われる。過去の測定値を含めるとCOD濃度は6~16 mg/Lと大きくばらつくが、ポロ沼のような塩化物イオン濃度との明確な負の相関関係は見られない。

クッチャロ湖はこれまで、流域河川からの牧場土壌や栄養塩類の流入などによる環境悪化が懸念されてきた。当所(旧北海道環境科学研究センター)が2000・2001年に実施したクッチャロ湖流域の調査 [7] によれば、河川のTN濃度は集水域の飼育牛密度に比例し、特に、集水域の乳牛飼育密度が高いポン沼川で高いTN濃度が観測されている。しかし、負荷量では、流量の大きいクッチャロ川が大きい。河川のTP濃度は、北海道の他地域の傾向と異なり、TNと同様に集水域の飼育牛密度にほぼ比例していた。この地域は降雨の日が多く、懸濁態リンの流出が起きやすいことが原因の一つと考えられている。

2023年のTNとTP濃度はそれぞれ0.21及び0.030 mg/Lで、それぞれ中栄養及び中栄養から富栄養レベルにあった。淡水と海水の流入・混合度合いで栄養塩濃度が変動すると考えられ、過去からの栄養度の変化傾向の評価は困難である。海水の影響が比較的弱かった1996年10月時点では富~過栄養湖のレベルにあった。クッチャロ湖をこれ以上富栄養化させないようにするためには、降雨頻度の多いこの地域であるがゆえに、牧場土壌や牛糞が雨によって直接流出しないようにすることが非常に重要である。

クッチャロ湖はラムサール条約指定区域となっており [8]、また、猿払川水系のカムイト沼、モケウニ沼、瓢箪沼とともに北オホーツク道立自然公園に指定されている [9]。水鳥の渡り鳥の中継地として重要で、ガンカモ類を中心に300種を超える鳥類が確認されている [8]。大沼の湖畔にはキャンプ場や温泉宿泊施設、水鳥観察館などがある。湖内ではスジエビやシジミ、ワカサギなどの漁業が行われている [8]

水質データ(表層)
調査日 地点 全水深
[m]
透明度
[m]
pH Cl-
[mg/L]
アルカリ度
[meq/L]
DO
[mg/L]
COD
[mg/L]
TOC
[mg/L]
TN
[mg/L]
TP
[mg/L]
Chl-a
[μg/L]
1979-08-02 St-3 1.0 >1.0 8.2 8.0 0.81
1982-07-07 St-3 1.2 >1.2 7.9 1440 6.8 5.5 0.56 0.006 1.1
1985-08-20 St-3 1.0 >1.0 9.3 15800 8.1 1.0
1991-07-16 St-3 0.8 >0.8 8.2 5520 0.492 10.2 6.1 3.5 0.31 0.70
1991-09-10 St-3 0.7 >0.7 8.4 7540 8.5 7.9 0.62 0.060 2.5
1996-10-01 St-3 0.6 >0.6 8.3 65.0 0.480 9.6 16.1 8.0 0.70 0.098 10
2023-06-21 St-3 1.0 >1.0 8.3 11970 1.37 8.6 6.0 0.21 0.030 4.3
調査地点図
集水域の土地利用
栄養度の推移(表層)
水質鉛直プロファイル

[1] 北海道環境生活部アイヌ政策推進局アイヌ政策課,2021.アイヌ語地名リスト.URL: https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/ass/new_timeilist.html(2024年10月11日時点)

[2] 国土地理院,2019.湖沼データ(クッチャロ湖(小沼)・クッチャロ湖(大沼)).URL: https://www.gsi.go.jp/kankyochiri/koshouchousa-list.html(2024年10月11日時点)

[3] 国土交通省.国土数値情報(20万分の1土地分類基本調査「地形分類図」).URL: https://nlftp.mlit.go.jp/kokjo/inspect/landclassification/land/l_national_map_20-1.html(2024年10月8日取得)

[4] 環境省生物多様性センター.自然環境調査Web-GIS(第6-7回自然環境保全基礎調査,1/25,000植生図).URL: http://gis.biodic.go.jp/webgis/(2024年10月11日時点)

[5] 気象庁,潮位表(枝幸).URL: https://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/db/tide/suisan/index.php(2024年10月11日時点)

[6] 環境省,2014.日本の汽水湖.URL: https://www.env.go.jp/water/kosyou/brackish_lake/index.html(2024 年10 月10日時点)

[7] 北海道環境科学研究センター,2002.平成13年度流域対策基礎調査報告書 クッチャロ湖流域.

[8] 環境省,2022.日本のラムサール条約湿地―豊かな自然・多様な湿地の保全と賢明な利用―.URL: https://www.env.go.jp/nature/ramsar/conv/pamph02/index.html(2024年10月11日時点)

[9] 北海道環境生活部自然環境局,2024.北オホーツク道立自然公園.URL: https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/skn/environ/parks/northernokhotsk-prefecturali-nationalpark.html(2024年10月11日時点)