ウトナイ沼
Lake Utonai
所在地 (Location) | 苫小牧市 (Tomakomai City) |
成因 (Origin) | 海跡湖 (lagoon lake) |
湖面標高 (Elevation) | 2 m |
湖面積 (Surface area) | 2.10 km2 |
最大水深 (Max. depth) | 1.0 m |
容積 (Volume) | 1540 ×103 m3 |
集水域面積 (Watershed area) | 184.21 km2 |

沼の西側から東方向を撮影。沼の周囲は湿地帯やハンノキ林に囲まれている。中央手前の河川は流入河川の勇払川。写真左奥側から美々川が流入する。左には国道36号線と道の駅ウトナイ湖が見える。(2022年10月25日撮影)
ウトナイ沼(「ウトナイ湖」とも呼ぶ)は、苫小牧市東部に位置する海跡湖である。かつては海の入江だったが、3000年ほど前から河口に砂丘が発達し、海と切り離されたとされている [1]。
「ウトナイ」の語源は、アイヌ語の「ウッナイ(肋骨・川)」に由来する [2]。ウトナイ湖(ウトナイ沼)から流れ出て、勇払川に注ぐ川で、勇払川の脇腹から肋骨のように細長く突き出てウトナイ湖(ウトナイ沼)に入り込んでいるため、とされている [1]。
ウトナイ沼は、湖面標高2 m、湖面積2.10 km2、最大水深1.0 mの浅い淡水湖である。国土地理院の湖沼調査(1999年測量)によれば、沼の中心からやや東側に最深部がある [3]。
ウトナイ沼は、勇払平野北部の三角州性低地に位置し、東側と西側のローム台地に挟まれている [4]。このローム台地には、支笏、恵庭、樽前の火山噴出物が厚く堆積している [1]。主な流入河川は、北方から入る美々川と、西方から入る勇払川である。勇払川は、元々、沼の南側を流れていたが(現在の旧勇払川)、周辺の開発に伴い低下したウトナイ沼の水位を上昇させるために、ウトナイ沼に流入させる切り替えが1997年に行われた [5]。沼の水は、南方から勇払川として流出する。ウトナイ沼の水位低下を防止するため、勇払川には堰(ウトナイ堰)が設置されている [1]。勇払川は安平川に合流した後太平洋に通じている。
集水域の土地利用は、森林が全体の8割弱を占めている。沼の周囲や流入河川沿いにはイワノガリヤス‐ツルスゲ群落やムジナスゲ‐ヤチスゲ群落などの湿原植生(土地利用図の「荒地」)やハンノキ群落などの沼沢林が分布する[6]。勇払地方の湿原面積は、1970年代以降の開発によってその約8割が失われており、ウトナイ沼の湖岸部や周辺に残存する湿原群は貴重な自然空間となっている [7]。一方、美々川の東側の集水域界沿いには牧草地や畑地などの農用地が分布する [6]。また、美々川の上流域には新千歳空港や工業団地など(土地利用図の「その他」または「建物用地」)がある。
過去に行われた水質調査のうちSt-2の結果と、2023年6月に実施した湖心(最深部より西に約440 m)の調査結果を表に示す。2023年の調査時には、湖水は淡褐色~無色を呈しており、周囲の環境から、腐植物質の影響を受けていると思われた。
2023年6月のTNとTP濃度はそれぞれ0.20 mg/Lと0.010 mg/Lであり、中栄養レベルにあった。調査回数が少ないため経年変化の傾向は不明であるが、TNは中栄養、TPは貧栄養~中栄養レベルで推移している。2023年6月のChl-a濃度は0.73 μg/Lと、これまでで最も低い値であった。
ウトナイ沼は、安平川水域として、環境基準の河川A類型が指定されている [8]。沼内には河川としての補助点が定められており、北海道庁により水質のモニタリングがされている。そのデータによると、勇払川の流入地点に近いSt-1よりも、美々川の流入地点に近いSt-3の方が、TNとTPのいずれの濃度も高い傾向が見られる。TN濃度は、特にSt-3において、1980年代から2000年代はじめ頃にかけて上昇傾向が見られ、それ以降は2 mg/L前後の過栄養レベルで推移している。
美々川流域は、火山灰土壌のため降雨の浸透性が高く、地下水や湧水に土地利用改変の影響が強く現れる特徴がある [1]。美々川では、湧水量・流量の減少や水質の悪化(高濃度の硝酸態窒素)、植生繁茂による河道水面の減少が問題となっている。また、ウトナイ沼周辺では湿原の減少や樹林の増大が進行しており、鳥類などへの影響が懸念されている。こうしたことを背景に、平成13年度に「美々川自然再生事業」が開始され、ウトナイ沼を含む美々川流域の自然の再生と保全に向けた取組が進められている。
ウトナイ沼は日本有数の渡り鳥の越冬地、中継地で、マガンやオオハクチョウなど数万羽が飛来する [9]。また、周辺の湿地や樹林帯を含め、多くの野鳥が生息しており、270種以上の鳥類が確認されている。1981年、日本野鳥の会は、ウトナイ沼周辺の湿地と森林を日本初のバードサンクチュアリとした。また、国指定鳥獣保護区に指定されるとともに、1991年には、当時、釧路湿原、クッチャロ湖に次いで、道内で3番目となるラムサール条約登録湿地となった。湖畔にはウトナイ湖野生鳥獣保護センターとウトナイ湖サンクチュアリネイチャーセンターがあり、野鳥の観察等の拠点となっている。また、湖岸には自然観察路や観察小屋等が整備されている。野生鳥獣保護センターに隣接する道の駅ウトナイ湖(苫小牧市ウトナイ交流センター)には展望施設が併設しており、ウトナイ沼とその周辺を一望できる [10]。
調査日 | 地点 | 全水深 [m] |
透明度 [m] |
pH | Cl- [mg/L] |
アルカリ度 [meq/L] |
DO [mg/L] |
COD [mg/L] |
TOC [mg/L] |
TN [mg/L] |
TP [mg/L] |
Chl-a [μg/L] |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1979-07-22 | St-2 | 0.5 | >0.5 | 8.2 | 9.3 | 1.6 | ||||||
1985-09-17 | St-2 | 0.5 | >0.5 | 7.0 | 6.8 | 5.7 | 0.33 | 0.011 | 2.5 | |||
1991-09-05 | St-2 | 0.8 | >0.8 | 9.1 | 19.0 | 0.710 | 9.9 | 5.3 | 0.29 | 0.004 | 3.6 | |
2023-06-08 | 湖心 | 0.9 | >0.9 | 7.9 | 6.82 | 0.532 | 10.3 | 2.6 | 0.20 | 0.010 | 0.73 |
[1] 北海道室蘭土木現業所,2007.美々川自然再生計画書~水環境と地域の共生に向けて~.URL: https://www.iburi.pref.hokkaido.lg.jp/fs/1/9/7/1/4/6/6/_/bibikeikakusyoH1903.pdf(2024年12月24日時点)
[2] 北海道環境生活部アイヌ政策推進局アイヌ政策課,2021.アイヌ語地名リスト.URL: https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/ass/new_timeilist.html(2024年12月24日時点)
[3] 国土地理院,2017.湖沼データ(ウトナイ湖).URL: https://www.gsi.go.jp/kankyochiri/koshouchousa-list.html(2024年12月24日時点)
[4] 国土交通省.国土数値情報(20万分の1土地分類基本調査「地形分類図」).URL: https://nlftp.mlit.go.jp/kokjo/inspect/landclassification/land/l_national_map_20-1.html(2024年10月8日取得)
[5] 櫻井善文,2023.寒冷地における水生植物群落の保全と再生を目的とした河川および湖沼のデザインのための基礎研究(ウトナイ湖).札幌市立大学学位論文.URL: https://scu.repo.nii.ac.jp/records/258(2024年12月24日時点)
[6] 環境省生物多様性センター.自然環境調査Web-GIS(第6-7回自然環境保全基礎調査,1/25,000植生図).URL: http://gis.biodic.go.jp/webgis/(2022年6月2日取得)
[7] 永美暢久・矢部和夫・中村太士,2010.北海道勇払地方における安平川河道閉鎖後の残存フェン群落の種組成と分布パターンの変化.保全生態学研究,15:29–38.https://doi.org/10.18960/hozen.15.1_29
[8] 北海道環境保全局循環型社会推進課水環境係,2024.北海道水質関連データ集.URL: https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/jss/99058.html(2024年12月25日時点)
[9] 環境省,2022.日本のラムサール条約湿地―豊かな自然・多様な湿地の保全と賢明な利用―.URL: https://www.env.go.jp/nature/ramsar/conv/pamph02/index.html(2024年12月25日時点)
[10] 苫小牧市.苫小牧市観光情報 道の駅「ウトナイ湖」.URL: https://www.city.tomakomai.hokkaido.jp/kankojoho/kankoannai/michinoeki_utonaiko.html(2024年12月25日時点)