倶多楽湖
Lake Kuttara
所在地 (Location) | 白老町 (Shiraoi Town) |
成因 (Origin) | カルデラ湖 (caldera lake) |
湖面標高 (Elevation) | 258 m |
湖面積 (Surface area) | 4.70 km2 |
最大水深 (Max. depth) | 148.0 m |
容積 (Volume) | 491000 ×103 m3 |
集水域面積 (Watershed area) | 8.12 km2 |

湖の北西側から南東方向を撮影。湖は標高400~500 m程度の外輪山に囲まれている。写真右奥には、のぼりべつクマ牧場がある四方嶺が見える。(2022年8月4日撮影)
倶多楽湖(クッタラコ)は、白老(シラオイ)町南西部、登別温泉の東に位置する。湖畔を通る道路は観光道路として、登別温泉に通じている。登別市と白老町にまたがる火山群(クッタラ火山群)は、約8万年前から4万5千年前までの期間に複数の火口で火砕流を伴う大規模な噴火が繰り返され、約4万年前までの活動によって直径3 kmの円形のカルデラを生じた [1] [2]。このカルデラに水が溜まってできたのが倶多楽湖である。
「倶多楽湖」の語源は、アイヌ語の「クッタルシト(虎杖浜の・湖)」とされている [3]。
倶多楽湖は、湖面標高258 m、湖面積4.70 km2、最大水深148.0 mの淡水湖である。道内天然湖沼のうち、湖面積は18番目ながら、最大水深は3番目に深い。国土地理院の湖沼調査(1978年測量)によれば、周囲のカルデラ壁に沿うように、湖岸から水深およそ125 m付近まで急に深くなっている [4]。湖の中央から東側にかけて水深140 mを越えて深くなっており、最深部は東側の湖岸から中心に向けておよそ900 mのところにある。底質は、湖岸から30 mまでは砂礫、110 mまでは砂質泥、120 m以深では黒灰色の軟泥とされている [5]。
倶多楽湖は、標高400~500 m程度の外輪山に囲まれており、最高点は湖東側の窟太郎(クッタラ)山(534 m)である。主だった流入河川や流出河川は無い。中尾ら [6] は1960年代に湖の水収支調査を行い、1日あたり6 mm前後の地下水漏出(流出)があると述べている。
集水域の土地利用は、湖面を除き全て森林で占められており、エゾイタヤ-ミズナラ群落の針広混交林やダケカンバ群落の落葉広葉樹二次林で覆われている [7]。
これまでに行われた水質調査のうち、概ね最深部にあたるSt-1の結果を、2022年8月の最深部の結果と合わせて表に示した。透明度は10~20 m程度で推移しており、非常に清澄であると言える。2022年8月の透明度は19.3 mで、高い透明度は維持されているようである。CODは1 mg/L前後と低く、有機物は比較的少ない。COD値による湖沼水質の全国ベスト5に選ばれるほどである [8]。
倶多楽湖は類型指定湖沼であり、環境基準は湖沼AA類型(COD 1 mg/L以下)およびI類型(リンのみ;TP 0.005 mg/L以下)が設定されている。近年、TPの環境基準は達成されているが、COD(75%値)は年により基準を超過している。北海道庁が実施している公共用水域のモニタリングデータ(時系列グラフ)によれば、COD(75%値)は、2000年代中頃まで概ね1 mg/L未満であったが、2000年代後半以降は1 mg/L前後で推移している。
2022年のTNとTP濃度はそれぞれ0.11 mg/L及び0.003 mg/L未満と、貧栄養レベルにあった。時系列グラフによれば、TP濃度は定量下限値(0.003 mg/L)付近で推移しているが、TN濃度は1990年代から2010年代後半にかけて上昇傾向が見られ、2017年には0.2 mg/L程度となった。その後、現在にかけて明確な濃度上昇は見られていない。一方、Chl-a濃度は2022年に0.30 μg/Lであり、1970~90年代と大きな変化は見られていないようである。
湖面積に対する集水域面積の比は1.7と、摩周湖と同様に1に近く、湖に入る水のうち、湖面への直接降雨の割合が比較的大きい。こうした特徴から、当所(旧北海道環境科学研究センター)では、酸性雨のモニタリング湖沼として、過去に調査を行ってきた。倶多楽湖のアルカリ度は0.3 meq/L程度とそれ程低くない。また、湖水のpHは、1990年代から現在まで7~8の中性付近で推移し、明確な変化傾向は見られていない。直接降雨による影響が大きくとも、倶多楽湖は、水深も大きく、滞留時間も長いため、湖水の環境は、変わりにくいと考えられる。
2022年8月の水質鉛直プロファイルでは、水温は水深5~25 m付近で急激な低下(水温躍層)が見られ、上層で高水温、下層で低水温の成層構造が見られた。溶存酸素は水深10 m付近で飽和度110%超のピークをとり、その後深度とともに徐々に低下していた。溶存酸素は水深が170 m付近でも80%程度と比較的高い値が維持されていたが、湖底付近で急減し、底部(148 m)では25%となっていた。表層より少し深い中層域で溶存酸素がピークをとるのは貧栄養湖に見られる特徴であり、中層域での植物プランクトンの増殖によるものと思われる。
倶多楽湖は、20世紀までは冬季に完全結氷していたが、21世紀に入って完全結氷しない年が現れており、今後の温暖化の進行によって、将来、永年不凍湖になる可能性があることが指摘されている [9]。
倶多楽湖水系の湧水や地下水は、白老町の上水道水源となっている [10]。また、倶多楽湖の湖面と集水域は支笏洞爺国立公園に指定されている。倶多楽湖は、高い透明度を含め、優れた自然環境を有している。このすばらしい環境を永久に保全して行かなくてはならない。
調査日 | 地点 | 全水深 [m] |
透明度 [m] |
pH | Cl- [mg/L] |
アルカリ度 [meq/L] |
DO [mg/L] |
COD [mg/L] |
TOC [mg/L] |
TN [mg/L] |
TP [mg/L] |
Chl-a [μg/L] |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1979-08-10 | 湖心 | 22.5 | 7.3 | 9.4 | 0.16 | |||||||
1982-07-29 | St-1 | 146.0 | 14.0 | 7.7 | 4.6 | 8.1 | 0.8 | 0.003 | 0.4 | |||
1984-05-24 | St-1 | 143.0 | 14.0 | 7.1 | 8.0 | 12.0 | 0.7 | 0.16 | <0.005 | |||
1984-07-09 | St-1 | 140.0 | 10.5 | 7.7 | 3.0 | 9.1 | 0.8 | <0.05 | <0.005 | |||
1984-08-14 | St-1 | 146.0 | 14.0 | 7.5 | 4.0 | 7.9 | 0.8 | <0.05 | 0.005 | |||
1984-10-16 | St-1 | 148.0 | 12.5 | 7.7 | 4.0 | 10.0 | 1.5 | <0.05 | <0.005 | |||
1985-05-09 | St-1 | 142.0 | 21.5 | 6.5 | 3.0 | 12.0 | 0.5 | <0.05 | 0.006 | 7.2 | ||
1985-10-17 | St-1 | 18.0 | 7.2 | 9.8 | 1.0 | <0.05 | <0.005 | 1.5 | ||||
1991-08-06 | St-1 | 22.0 | 7.3 | 8.0 | 0.31 | 9.0 | 1.0 | <0.05 | <0.003 | 0.39 | ||
2022-08-04 | 最深部 | 147.6 | 19.3 | 7.5 | 3.91 | 0.270 | 8.0 | 0.7 | 0.11 | <0.003 | 0.30 |
[1] 気象庁, 倶多楽(くったら) Kuttara【常時観測火山】, URL: https://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/sapporo/111_Kuttara/111_index.html(2024年10月27日時点)
[2] 森泉美穂子, 1998, クッタラ火山群の火山発達史, 火山, 43: 95-111. https://doi.org/10.18940/kazan.43.3_95
[3] 北海道環境生活部アイヌ政策推進局アイヌ政策課, 2021, アイヌ語地名リスト, URL: https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/ass/new_timeilist.html(2024年12月27日時点)
[4] 国土地理院, 2020, 湖沼データ(倶多楽湖).URL: https://www.gsi.go.jp/kankyochiri/koshouchousa-list.html(2024年10月27日時点)
[5] 北川礼澄, 1975, 北海道南部の5湖沼 (支笏湖, 倶多楽湖, 洞爺湖, 半月湖, 渡島大沼) の底生動相物の研究, 陸水学雑誌, 36: 48-54. https://doi.org/10.3739/rikusui.36.48
[6] 中尾欣四郎・大槻栄・田上龍一・成瀬廉二, 1967, 閉塞湖からの分水界漏出ー倶多楽湖ー, 北大地球物理学研究報告, 17: 47-64.
[7] 環境省生物多様性センター.自然環境調査Web-GIS(第6-7回自然環境保全基礎調査,1/25,000植生図).URL: http://gis.biodic.go.jp/webgis/(2022年6月2日取得)
[8] 環境省, 水環境総合情報サイト 湖沼の水質ベスト5、ワースト5, URL: https://water-pub.env.go.jp/water-pub/mizu-site/sitemap.asp(2024年12月27日時点)
[9] 知北和久・大八木英夫・山根志織・相山忠男・板谷利久・岡田操・坂元秀行, 2017, 気候変動に対する深い温帯湖の熱的応答―北海道・倶多楽湖―, 日本水文科学会誌, 47: 73-86. https://doi.org/10.4145/jahs.47.73
[10] 北海道白老町, 2022, 白老町環境基本計画 第3期(改訂版)(令和3年度~令和7年度), URL: https://www.town.shiraoi.hokkaido.jp/docs/page2022051000011.html(2024年12月27日時点)