然別湖

Lake Shikaribetsu

所在地 (Location) 鹿追町・上士幌町 (Shikaoi Town / Kamishihoro Town)
成因 (Origin) 堰止湖 (dammed lake)
湖面標高 (Elevation) 805 m
湖面積 (Surface area) 3.59 km2
最大水深 (Max. depth) 98.5 m
容積 (Volume) 193000 ×103 m3
集水域面積 (Watershed area) 49.27 km2

湖南部から北方向を撮影。左側の湖岸に然別湖畔温泉がある。中央奥に見える小島は弁天島。(2022年9月1日撮影)

然別湖(シカリベツコ)は、石狩山地に続く然別火山群の南部、鹿追町と上士幌町とにまたがっている。成因は、溶岩円頂丘の貫入による火山堰止湖という考えと、陥没や沈降によってカルデラを生じ、その後カルデラ壁に沿って噴出した安山岩質の溶岩円頂丘群によって現在の不規則な形の湖が生じたという考えとがある。

然別はアイヌ語の「シリカペッ」に由来し「自分を・回す・川(回っている川)」の意である [1]

然別湖は湖面積3.59 km2の淡水湖である。湖面標高は805 mであり、湖面積1 km2以上の北海道の天然湖沼の中で最も高い位置にある。最大水深は98.5 mと、北海道の天然湖沼の中で6番目に大きい。国土地理院の湖沼調査(2006年測量)によれば、流入河川のある北側を除き湖岸線からすぐ深くなり、湖面の大部分は水深50 m以上ある [2]。90 m以深の湖底は概して平坦で、最深部は南側にある [2]

然別湖は周囲を標高1000~1400 mの中起伏山地に囲まれている [3]。主な流入河川として、北方からのヤンベツ川が最も集水域面積が大きく、その他に、湖の東西方向からいくつかの沢が入っている。このうち、湖南東部の12の沢川の上流には東雲(シノノメ)湖がある。流出水は、南方より然別川に注いでいる。

集水域面積のおよそ9割が森林であり、エゾマツ-トドマツ群集やダケカンバ-エゾマツ群落を中心とした自然植生が広がっており、一部にアカエゾマツ植林地がある [4]

然別湖は類型指定湖沼であり、環境基準は湖沼のA類型(COD 3 mg/L以下)およびII類型(リンのみ; TP 0.01 mg/L以下)が指定されている。CODの環境基準は継続的に達成されており、濃度の変化傾向も見られていない。

過去に行われた水質調査のうちSt-1の結果と、2022年9月に実施した最深部の調査結果を表に示した。透明度は10 m前後の比較的高い値で推移しており、1985年8月には19.5 mを記録している。2022年9月の透明度は10.8 mと高い透明度が維持されていた。

2022年のTNとTP濃度はそれぞれ0.13 mg/Lと0.003 mg/L未満となり、貧栄養レベルにあった。公共用水域の水質測定データによれば、TPは2000年代後半まで環境基準を超過する年が見られていたが、2010年以降は環境基準が達成されており、その濃度も低下傾向にある。一方、TN濃度には経年変化の傾向は見られず、0.1 mg/L前後で推移している。2022年のChl-a濃度は0.66 μg/Lと、過去の測定値の範囲内であった。然別湖では富栄養化の進行は見られておらず、環境基準から見て良好な水質が保たれている。

2022年9月の水質鉛直プロファイルでは、水温は水深約5 m~20 mにかけて急激な低下(水温躍層)が見られ、上層で高水温、下層で低水温の成層構造が見られた。溶存酸素は水深約7 m~10 m付近で100%超のピークをとり、その後深度とともに徐々に低下した。水深がおよそ95 mより深くなるとDOは急減し、最深部で4%弱となっていた。また、水深95 mくらいまでは15 mS/m程度だったECは、95 m以深で急増し、最深部では100 mS/m以上となっていた。湖畔には温泉があることから、湖底から高濃度の溶存成分が湧出している可能性が指摘されている [5]

然別湖の湖面とその集水域は大雪山国立公園に指定されている。オショロコマの亜種であるミヤベイワナは然別湖にのみ生息しており、北海道の天然記念物に指定されている。また、然別湖はとかち鹿追ジオパークを構成しており、火山や凍れ(しばれ)に特徴付けられる地形や生態系を観察するツアーが行われている [6]。冬は完全結氷する湖面を利用して、雪と氷によるイグルーや氷上露天風呂などが楽しめる「しかりべつ湖コタン」が開催されている [6]

水質データ(表層)
調査日 地点 全水深
[m]
透明度
[m]
pH Cl-
[mg/L]
アルカリ度
[meq/L]
DO
[mg/L]
COD
[mg/L]
TOC
[mg/L]
TN
[mg/L]
TP
[mg/L]
Chl-a
[μg/L]
1979-08-21 St-1 10.0 7.0 8.2 2.37 0.14
1982-06-01 St-1 104.5 10.5 7.2 11.2 10.0 1.0 0.08 0.003 1.3
1982-07-21 St-1 9.0 7.6 12.3 9.5 1.3 0.11 0.003 0.95
1982-08-24 St-1 9.0 7.7 10.2 7.2 1.4 0.005 1.5
1982-10-27 St-1 5.5 7.0 6.2 9.6 2.4 0.05 0.006 2.8
1985-08-29 St-1 19.5 7.8 16.3 8.2 1.0 0.06 0.005 0.71
1991-06-18 St-1 8.6 7.8 11.8 0.608 9.4 1.5 1.3 0.27 0.022 3.1
2022-09-02 最深部 98.2 10.8 7.1 6.98 0.448 8.7 1.3 0.13 <0.003 0.66
調査地点図
集水域の土地利用
栄養度の推移(表層)
水質鉛直プロファイル
水質の経年変化

[1] 北海道環境生活部アイヌ政策推進局アイヌ政策課,2021.アイヌ語地名リスト.URL: https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/ass/new_timeilist.html(2024年11月21日時点)

[2] 国土地理院,2017.湖沼データ(然別湖).URL: https://www.gsi.go.jp/kankyochiri/koshouchousa-list.html(2024年11月21日時点)

[3] 国土交通省.国土数値情報(20万分の1土地分類基本調査「地形分類図」).URL: https://nlftp.mlit.go.jp/kokjo/inspect/landclassification/land/l_national_map_20-1.html(2024年10月8日取得)

[4] 環境省生物多様性センター.自然環境調査Web-GIS(第6-7回自然環境保全基礎調査,1/25,000植生図).URL: http://gis.biodic.go.jp/webgis/(2022年6月2日取得)

[5] 大八木英夫・知北和久・澤田結基・金森晶作,2022.北海道・然別湖における水温・水質の季節変化.2022年度日本地理学会秋季学術大会発表要旨,セッションID:310.https://doi.org/10.14866/ajg.2022a.0_74

[6] 日本ジオパークネットワーク.北海道 とかち鹿追ジオパーク.URL: https://geopark.jp/geopark/tokachi-shikaoi/(2024年11月21日時点)