生花苗沼

Lake Oikamanai

所在地 (Location) 大樹町 (Taiki Town)
成因 (Origin) 海跡湖 (lagoon lake)
湖面標高 (Elevation) 0 m
湖面積 (Surface area) 1.75 km2
最大水深 (Max. depth) 3.6 m
容積 (Volume) 2600 ×103 m3
集水域面積 (Watershed area) 107.97 km2

沼の北部から南方向を撮影。沼の周囲は湿地と原生花園に囲まれている。(2022年9月7日撮影)

生花苗沼(オイカマナイヌマ。オイカマナイトーとも呼ばれる)は、大樹(タイキ)町東部の太平洋岸に位置している。この沼は、海岸沿いに堆積した長さ3 kmの砂州によって、生花苗川の河口がふさがれてできた海跡湖である。

「生花苗」の語源は、アイヌ語の「オイカオマイ」(越えて入るの意)を由来し、この沼に高波が越えて入るためと解釈されている [1]

生花苗沼は、湖面標高0 m、湖面積1.75 km2、最大水深3.6 mの浅い汽水湖である。

主な流入河川は、北方から入る生花苗川であり、その他、いくつかの小河川がある。生花苗川の支流であるキモントウ川の源流部にはキモントウ沼がある。生花苗沼の水は春先や増水期に沼尻が破れて、太平洋に注がれる。

集水域の土地利用は、森林が全体の7割以上を占めており、流入河川の上流域を中心に、トドマツの植林地やシラカンバ-ミズナラ群落の落葉広葉樹二次林が広がっている [2]。森林に次いで、農用地が約16%を占めており、流入河川沿いの低地に牧草地や畑地が分布している [2]。沼の周囲にはヨシやスゲなどの湿原植生やハンノキ群落から成る沼沢林が広がっている [2]

これまでに行われた水質調査のうちSt-1の結果を表に示す。塩化物イオン濃度は、数十mg/L程度の淡水レベル(塩分0.5未満 [3]、塩化物イオン濃度換算で277 mg/L未満 [4])から3000 mg/L以上まで、調査時によって大きく変動していた。COD濃度は7~9 mg/L程度と比較的高く、また湖水は淡褐色を呈することから、腐植物質の影響を受けていると思われる。流入河川の一つであるキモントウ川の河川水は、集水域の泥炭地の影響を受けて、フミン酸濃度やCOD、紫外部吸光度などの溶存有機物指標が高いとの報告がある [5]

2022年9月のTNとTP濃度はそれぞれ0.58 mg/Lと0.031 mg/Lであり、富栄養レベルにあった。調査回数が少ないため経年変化の傾向は不明であるが、中栄養~富栄養レベルで推移している。Chl-a濃度は0.38~14 μg/Lと調査時によって大きく異なっており、2022年には7.7 μg/Lであった。過去に当所(旧北海道環境科学研究センター)が実施した調査では、湖水のTN濃度は湖奥部よりも海岸部で高く、これは海岸部に流入する生花苗川の影響と見られている [6]。一方で、植物プランクトンの種や量は湖奥部の方が海岸部より大きく、必ずしも海岸部の高いTN濃度が植物プランクトン増殖に直結していない。生花苗沼はリン制限と推察され、河川からの窒素の過剰供給は、それほど、植物プランクトン増殖に地点的差異を与えるほどの要因になっていないと推察されている。

生花苗沼では漁業者によりヤマトシジミ漁が行われており、資源保護のため、漁は年1回に制限されている。そのため、殻の大きさが5 cm以上の特大サイズのシジミが採取される [7]。生花苗沼を含む十勝海岸湖沼群はガンカモ類や湿地性鳥類など野鳥の宝庫であり、沼の西側には野鳥観察施設が設けられている。

水質データ(表層)
調査日 地点 全水深
[m]
透明度
[m]
pH Cl-
[mg/L]
アルカリ度
[meq/L]
DO
[mg/L]
COD
[mg/L]
TOC
[mg/L]
TN
[mg/L]
TP
[mg/L]
Chl-a
[μg/L]
1979-08-22 St-1 1.5 >1.5 8.8 9.2 1.57 0.38
1982-08-02 St-1 1.0 1.0 7.5 3210 6.9 7.3 0.57 0.006 3.2
1985-10-14 St-1 0.3 7.1 29 9.7 1.7
1991-07-30 St-1 1.0 0.8 7.0 65 0.330 7.6 9.4 4.5 0.51 0.065 14
1996-07-31 St-1 1.5 >1.5 7.3 1300 0.490 9.0 7.1 3.6 0.40 0.023 3.8
2001-07-30 St-1 1.3 >1.3 7.8 47 0.484 9.1 7.3 5.3 0.43 0.040 2.5
2022-09-08 St-1 1.1 >1.1 7.9 985 0.400 8.7 7.2 0.58 0.031 7.7
調査地点図
集水域の土地利用
栄養度の推移(表層)
水質鉛直プロファイル

[1] 北海道環境生活部アイヌ政策推進局アイヌ政策課,2021.アイヌ語地名リスト.URL: https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/ass/new_timeilist.html(2024年12月11日時点)

[2] 環境省生物多様性センター.自然環境調査Web-GIS(第6-7回自然環境保全基礎調査,1/25,000植生図).URL: http://gis.biodic.go.jp/webgis/(2022年6月2日取得)

[3] 日本陸水学会(編集),2006.陸水の事典.講談社,東京.

[4] 環境省,2014.日本の汽水湖.URL: https://www.env.go.jp/water/kosyou/brackish_lake/index.html(2024年12月11日時点)

[5] 谷昌幸・近藤錬三・筒木潔,1999.十勝太平洋沿岸泥炭地における湖沼・河川の水質特性.水環境学会誌,22:232–237.https://doi.org/10.2965/jswe.22.232

[6] 田中敏明・五十嵐聖貴・園田武・尾島孝男・福山龍次,2010.生花苗沼の巨大シジミの生態学的考察(1).北海道環境科学研究センター所報,36:35–40.URL: https://www.hro.or.jp/upload/29469/annual_ies_2009.pdf(2024年12月11日時点)

[7] 大樹町.大樹産鮮魚入荷情報(幻の巨大しじみ特集).URL: https://www.town.taiki.hokkaido.jp/soshiki/norinsuisanka/4/1/1/1/740.html(2025年5月19日時点)