湧洞沼

Lake Yudo

所在地 (Location) 豊頃町 (Toyokoro Town)
成因 (Origin) 海跡湖 (lagoon lake)
湖面標高 (Elevation) 1.0 m
湖面積 (Surface area) 3.49 km2
最大水深 (Max. depth) 3.5 m
容積 (Volume) 5860 ×103 m3
集水域面積 (Watershed area) 70.68 km2

沼の北部から南西方向を撮影。写真右奥から勇洞川が流入する。写真中央付近には流入河川が作った澪筋(みおすじ)が見える。太平洋とは砂州で隔たれているが、増水時などに砂州が切れて太平洋に流出する。(2022年9月8日撮影)

湧洞沼(ユウドウヌマ)は、豊頃(トヨコロ)町南端の太平洋岸に位置する。この沼は、北端から流入する湧洞川が封じ込められて形成された海跡湖である。

「湧洞」の語源は、この沼に温泉があったため、アイヌ語の「ユト(温泉・沼)」に由来すると言われている [1]

湧洞沼は、湖面標高1 m、最大水深3.5 mの浅い汽水湖である。湖面積は3.49 km2と十勝海岸湖沼群の中で最も大きい。

この沼は、海岸部と沼の北側を除き、標高50~70 m程度のローム台地に囲まれている [2]。主な流入河川は、沼の北端に北西方向から入る湧洞川で、流出水は春先や増水期に、砂州の出口が切れて、太平洋に注がれる。

集水域の土地利用は、森林が全体の7割以上を占めており、シラカンバ-ミズナラ群落を中心として落葉広葉樹二次林が流域全体に広く分布するほか、トドマツやカラマツの植林地が所々に見られる [3]。森林に次いで、農用地が1割強を占めており、湧洞川沿いの低地や沼周辺の台地上に、牧草地や畑地が分布している [3]。湧洞沼の北側の湖岸や流入河川沿いにはヨシやスゲなどから成る湿原(土地利用図では「荒地」)が広がっており、その周りにはハンノキ群落から成る沼沢林が分布する。また、海岸沿いは砂丘植生(土地利用図では「荒地」)となっている [3]

これまでに行われた水質調査のうちSt-1の結果を表に示す。2022年9月の調査時は全水深は0.4 mと浅かった。塩化物イオン濃度は1000~13000 mg/L程度と、同じ十勝海岸湖沼群である生花苗沼やホロカヤントウ、長節湖に比べて高い傾向が見られた。2022年の調査時には約13000 mg/L(塩分換算で約23‰ [4])とこれまでの調査で最も高く、海水の影響を比較的強く受けている状況にあった。底生生物などの調査から、湧洞沼は貧・中鹹性汽水域に区分されている [5]

湖水は淡褐色を呈し、腐植物質の影響を受けていると思われる。COD濃度はこれまで8~9 mg/L程度の値を示していたが、2022年の調査時には海水の影響のためか、これまでで最も低い5.3 mg/Lであった。

2022年9月のTNとTP濃度はそれぞれ0.61 mg/Lと0.051 mg/Lであり、富栄養レベルにあった。調査回数が少ないため経年変化の傾向は不明であるが、1990年代以降は概ね富栄養レベルで推移している。Chl-a濃度は1980年代に46 μg/Lの高い値を記録しているが、2022年は6.2 μg/Lとこれまでで最も低かった。

湧洞沼では、大津漁業協同組合がワカサギやニシンの漁獲を得ており、ワカサギの孵化事業も行われている。湧洞沼と海とを隔てる砂丘には美しい原生花園が広がっており、町の天然記念物「湧洞湖畔野生植物群落」に指定されている [6]。また、湧洞沼を含む十勝海岸湖沼群はガンカモ類や湿地性鳥類など野鳥の宝庫となっており、湧洞沼周辺は鳥獣保護区に指定されている。

水質データ(表層)
調査日 地点 全水深
[m]
透明度
[m]
pH Cl-
[mg/L]
アルカリ度
[meq/L]
DO
[mg/L]
COD
[mg/L]
TOC
[mg/L]
TN
[mg/L]
TP
[mg/L]
Chl-a
[μg/L]
1979-08-22 St-1 1.3 9.0 9.6 9.6
1982-08-02 St-1 3.0 1.5 7.4 2660 7.7 7.7 0.66 0.006 16
1985-10-15 St-1 1.0 8.2 3200 10.7 46
1991-07-30 St-1 1.7 8.3 2950 0.422 8.7 9.3 0.7 0.44 0.032 22
1993-08-04 St-1 1.6 1.0 6.9 1170 10.1 0.49 0.028 6.8
1998-06-16 St-1 2.5 0.7 7.6 4780 0.518 9.6 8.9 5.7 0.60 0.042 7.8
2022-09-08 St-1 0.4 >0.4 7.7 12800 1.53 6.8 5.3 0.61 0.051 6.2
調査地点図
集水域の土地利用
栄養度の推移(表層)
水質鉛直プロファイル

[1] 北海道環境生活部アイヌ政策推進局アイヌ政策課,2021.アイヌ語地名リスト.URL: https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/ass/new_timeilist.html(2024年12月13日時点)

[2] 国土交通省.国土数値情報(20万分の1土地分類基本調査「地形分類図」).URL: https://nlftp.mlit.go.jp/kokjo/inspect/landclassification/land/l_national_map_20-1.html(2024年10月8日取得)

[3] 環境省生物多様性センター.自然環境調査Web-GIS(第6-7回自然環境保全基礎調査,1/25,000植生図).URL: http://gis.biodic.go.jp/webgis/(2022年6月2日取得)

[4] 環境省,2014.日本の汽水湖.URL: https://www.env.go.jp/water/kosyou/brackish_lake/index.html(2024 年12 月13日時点)

[5] 園田武・中尾繁・清重悟・千葉晋,2003.十勝沿岸海跡湖沼群のマクロベントス群集.陸水学雑誌,64:11–20.https://doi.org/10.3739/rikusui.64.11

[6] 豊頃町.豊頃町観光サイト 湧洞湖畔野生植物群落.URL: https://www.toyokoro.jp/site/kanko/1496.html(2024年12月13日時点)