春採湖

Lake Harutori

所在地 (Location) 釧路市 (Kushiro City)
成因 (Origin) 海跡湖 (lagoon lake)
湖面標高 (Elevation) 0.6 m
湖面積 (Surface area) 0.36 km2
最大水深 (Max. depth) 9.0 m
容積 (Volume) 993 ×103 m3
集水域面積 (Watershed area) 4.46 km2

湖の南部から北方向を撮影。湖の周囲は住宅地であることがわかる。写真左側が流出河川で500メートル程度で太平洋とつながる。流出口には遊歩道の橋がかかっており、そのすぐ下流には春採湖への海水の逆流を抑制するための潮止め堰がある。(2023年10月26日撮影)

春採湖(ハルトリコ)は、釧路市内の市街地南東部に位置し、周囲は住宅地に囲まれている。春採湖の南方は標高4~5 m、延長500 mの砂浜堤で塞がれ、長さ500 mの水路で太平洋につながっている。溺れ谷の河口部が砂嘴によって閉ざされた海跡湖である。

春採の語源は、アイヌ語の「ハルウトル」(食料とする草・沼の意。クロユリ、エンゴサク等の草が多かったため。)とする説や、「ハルトゥル」(向う地の意。シレトゥ岬の向うの地をいう。)とする説がある [1]

春採湖は、湖面標高0.6 m、湖面積0.36 km2、最大水深9.0 mの汽水湖である。

主な流入河川は、武佐地区や春採地区等から排水される春採排水で、流出水は南方から海に流れ出る。集水域の土地利用はほとんどが市街地であり、建物用地が全体の約5割を占める。湖の北側には春採公園(土地利用図の「その他」)があり、南側は湖岸に沿ってオオヨモギ群落の二次草原(土地利用図の「荒地」)が帯状に分布する [2]

春採湖には、時折海水が進入し、流出口が最深部よりも浅いために、網走湖と同様に、強固な塩分成層を形成している部分循環湖である。そのため、下層部は嫌気環境となっている。

1995年の春採湖は、2~2.5 mに好気嫌気境界層が形成されていた[3]。また、嫌気層には硫化水素(H2S)が蓄積していた。春採湖には、嫌気層上端に、硫化水素を電子供与体とする光合成細菌が増殖していることが古くから知られており [4]、1995年の調査でも、嫌気層上部に、光合成細菌の光合成色素であるバクテリオクロロフィル(Bchl-a, Bchl-d)の存在が確認された[3]。この光合成細菌は、嫌気層に高濃度で溶存している栄養塩類が好気層へ拡散供給するのを軽減させており、環境保全に貢献している。

春採湖は、水深が浅い環境で、塩分躍層が形成されているため、魚類などの好気性生物の生存空間は表層2 mしか無い。また、結氷期は大気からの酸素供給が制限されるため、生物にとって、厳しい環境であると言える。

春採湖は類型指定湖沼であり、環境基準は湖沼のB類型およびV類型(窒素・リンとも)が指定されている。図に、公共用水域調査結果データから、St-1表層における各項目(透明度、pH、COD、TN、TP、Chl-a)の経年変化を示した。

部分循環湖という特異的な環境下に加え、市街地集水域からの生活排水の負荷により、春採湖はかつて極度に富栄養化していた。このため、北海道湖沼環境保全基本指針に基づき、1990年に重点対策湖沼に指定され [5]、春採湖環境保全計画 [6] によって、下水道の整備、底泥の浚渫のほか、海水の進入を防止する堰の設置などがなされてきた。その結果、1990年から2000年まで、COD、TN、TP、Chl-a、塩化物イオンの各濃度は、減少傾向が見られている。これらについて、総合的に現象を解釈すると、海水の流入量が減少したために、好気層(上層)の水質が嫌気層(下層)の影響を受けにくくなり、流入河川水の影響を強く受けるようになって塩分濃度が低下し、かつ、流入河川水の水質も下水道の整備などで改善し、栄養塩負荷も軽減されたためと考えることができる。すなわち、様々な対策をした結果、春採湖の水質が改善したことを示している。

春採湖におけるTNとTPの環境基準(TN 1 mg/L以下、TP 0.1 mg/L以下)は達成されている。CODの環境基準(COD 5 mg/L以下)は達成されていないが、環境基準よりやや高い濃度で漸減傾向にある。最近の調査では、流入河川である春採排水路付近の底泥などからCODやリンの供給が確認されている [7]。COD濃度のさらなる低下のためには、春採排水路やその周辺沿岸域の環境対策が有効と考えられる [7]

春採湖にはヒブナが生息しており、そのヒブナの生息地として春採湖は1937年12月に天然記念物に指定されている [8]。春採湖周囲には春採公園が整備され、湖を1周できる周遊園路は散策等に利用されており、市民の憩いの場となっている [9]。公園内には釧路市立博物館があり、文教的な環境も有している。

水質データ(表層)
調査日 地点 全水深
[m]
透明度
[m]
pH Cl-
[mg/L]
アルカリ度
[meq/L]
DO
[mg/L]
COD
[mg/L]
TOC
[mg/L]
TN
[mg/L]
TP
[mg/L]
Chl-a
[μg/L]
1979-07-17 St-1 0.3 7.6 6.2 0.98 19
1982-05-11 St-1 5.0 1.5 7.9 340 8.5 7.6 1.09 0.153 8.0
1982-07-28 St-1 4.7 0.7 8.4 8.1 7.8 1.12 0.099 62
1982-09-07 St-1 5.0 0.8 8.6 680 13.0 14.0 1.80 0.225 80
1982-11-18 St-1 1.2 7.3 8.7 9.1 1.76 0.169 35
1985-09-04 St-1 0.5 9.3 1420 13.1 18.0 1.80 0.282 130
1991-08-21 St-1 5.0 0.5 9.3 2.37 8.3 12.0 8.7 1.89 0.113 49
2019-06-18 [7] St-1 4.8 0.9 8.5 10.9 6.1 0.35 0.040 28
2019-09-10 [7] St-1 4.4 0.8 8.6 9.4 5.1 0.28 0.032 18
2019-10-16 [7] St-1 4.3 0.6 8.4 11.0 5.7 0.43 0.052 42
2020-07-15 [7] St-1 4.4 0.9 8.4 8.1 6.2 0.31 0.032 9.1
2020-08-19 [7] St-1 4.1 0.9 8.7 5.9 0.48 0.039 33
2020-09-16 [7] St-1 4.2 0.8 8.8 10.7 7.7 0.52 0.046 29
調査地点図
集水域の土地利用
栄養度の推移(表層)
水質の経年変化

[1] 北海道環境生活部アイヌ政策推進局アイヌ政策課,2021.アイヌ語地名リスト.URL: https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/ass/new_timeilist.html(2024年12月6日時点)

[2] 環境省生物多様性センター.自然環境調査Web-GIS(第6-7回自然環境保全基礎調査,1/25,000植生図).URL: http://gis.biodic.go.jp/webgis/(2022年6月2日取得)

[3] 三上英敏・石川靖,1998.春採湖の光合成細菌について.北海道環境科学研究センター所報,25:67-70.

[4] Takahashi, M., & S. Ichimura, 1968. Vertical distributuion and organic matter production of photosynthetic sulfur bacteria in Japanese lakes. Limnology and Oceanography,18:644–655.https://doi.org/10.4319/lo.1968.13.4.0644

[5] 北海道,1989.北海道湖沼環境保全基本指針.北海道,札幌.

[6] 春採湖環境保全対策協議会,1992.春採湖環境保全計画.

[7] 北海道立総合研究機構 エネルギー・環境・地質研究所, 2021, 令和2年度(2020年度)春採湖環境基準未達成原因究明調査報告書, 地方独立行政法人北海道立総合研究機構 産業技術環境研究本部 エネルギー・環境・地質研究所, 札幌, 51p.

[8] 釧路市博物館,2010.春採湖のヒブナ.

[9] 釧路市.春採公園.URL: https://www.city.kushiro.lg.jp/machi/kouen/1004517/1004529/1004530.html(2024年12月6日時点)