達古武沼

Lake Takkobu

所在地 (Location) 釧路町 (Kushiro Town)
成因 (Origin) 海跡湖 (lagoon lake)
湖面標高 (Elevation) 3.6 m
湖面積 (Surface area) 1.31 km2
最大水深 (Max. depth) 1.8 m
容積 (Volume) 1300 ×103 m3
集水域面積 (Watershed area) 26.09 km2

湖の東側から西方向を撮影。写真左側は達古武湿原とその中を流れる流入河川・達古武川。流出口は写真右奥にある。写真右奥には釧路湿原が広がっている。(2022年10月12日撮影)

達古武沼(タッコブヌマ)は釧路町北部にあり、釧路湿原東部、塘路湖の南方に位置する淡水湖である。達古武の語源は、アイヌ語のタプコブ(盛り上がった小山の意)によるという [1]

湖面積1.31 km2の海跡湖で、国土地理院の湖沼調査(1992年測量)によれば最深部は湖北側にあり、最大水深は1.8 mである [2]。NPO法人トラストサルン釧路によると、2003年に行った等深線調査からの最大水深は2.25 mと報告している。達古武沼は水位変動が大きく、状況によって、最大水深は2 m付近を前後していると思われる。湖岸には湿原が広がっており、場所によっては水面に近づくことは困難である。最大の流入河川である達古武川が湖の南東部から流入し、その集水域面積は達古武沼の全集水域の75.2%を占める。流出は北西側の達古武川からで、約1 kmで釧路川に合流する。達古武沼は、塘路湖やシラルトロ湖と同様に、釧路川流域に降雨があった時や融雪時に、釧路川の河川水が逆流し達古武沼に流入するが、当所(旧北海道環境科学研究センター)が2003~2004年に行った観測では釧路川からの逆流水は流出量の2~3%程度であった[3]

集水域の土地利用は、森林が全体の約70%を占める。また、荒地が約19%と比較的大きく、湖岸や達古武川沿いに湿原植生が広がっている [4]。畜産農家が幾つか存在し、2003年の調査では、集水域全体で乳牛203頭、肉牛2262頭、豚4934頭の飼育が確認されている。

湖水のCODはシラルトロ湖や塘路湖と同様に10 mg/L前後の高い値で推移しており、それは溶存態成分の割合が大きく、腐植物質の影響を受けていると思われる。2022年10月の調査時、St-2は水深が2 m程度で、水質は鉛直方向に概ね混合していたが、底泥付近ではDOの若干の低下が見られた。過去からの栄養度の推移をみると、TPは1982年に0.016 mg/Lと中栄養レベルにあったが、1990年代以降は0.03~0.09 mg/L程度と富栄養レベルにある。TNについては明確な変化傾向はなく、2022年10月には0.43 mg/Lの富栄養レベルにあった。2022年10月の調査時にはアオコは確認されなかったが、Chl-aは24 μg/Lと、2000年8月に記録した43 μg/Lに次ぐ高い値を示した。

塩化物イオン濃度は1980年代に上昇し、現在では35 mg/L程度である。これは、流入河川である達古武川の下流付近に、高塩分の温泉水が流入しているためである。

当所(旧北海道環境科学研究センター)による集水域から達古武沼への栄養塩負荷の見積もりによれば、農業活動に由来する負荷が、窒素、リンともに大きな寄与率を占めると考えられた。また、達古武川上流部の湿地帯の涵養水には高濃度の溶存無機態リンが存在しており [5]、自然由来のリン負荷も比較的大きな寄与があると言われている [6]

達古武沼の湖畔にはキャンプ場があり、達古武沼でのカヌー体験や遊歩道の散策、サイクリング、冬にはワカサギ釣りを楽しむことができる [7]。達古武沼の湖面及び集水域の一部は釧路湿原国立公園に指定されているほか、湖面はラムサール条約指定区域となっている。達古武沼ではシラルトロ湖と同様に、近年、浮葉植物であるヒシの分布域拡大が報告されている [8]

水質データ(表層)
調査日 地点 全水深
[m]
透明度
[m]
pH Cl-
[mg/L]
アルカリ度
[meq/L]
DO
[mg/L]
COD
[mg/L]
TOC
[mg/L]
TN
[mg/L]
TP
[mg/L]
Chl-a
[μg/L]
1979-06-28 St-2 2.0 >2.0 7.8 8.0 1.10 2.5
1982-07-26 St-2 2.0 1.5 7.2 6.3 8.5 8.4 0.72 0.016 4.2
1985-09-19 St-2 1.4 7.4 34.0 5.6 10
1991-09-18 St-2 1.2 >1.2 46.5 0.657 9.7 10.5 6.2 0.59 0.087 1.8
1996-09-04 St-2 1.6 1.1 9.1 53 0.652 12.0 8.8 4.3 0.44 0.034 4.1
2000-08-10 St-2 2.3 1.5 8.2 45 0.729 8.5 11 8 0.92 0.080 43
2022-10-12 St-2 2.0 1.2 7.9 34.7 0.656 10.1 10.1 0.43 0.063 24
調査地点図
集水域の土地利用
栄養度の推移(表層)
水質鉛直プロファイル

[1] 「角川日本地名大辞典」編纂委員会(編),1987.角川日本地名大辞典 1 北海道 上巻.角川書店,東京.

[2] 国土地理院,2019.湖沼データ(達古武湖).URL: https://www.gsi.go.jp/kankyochiri/koshouchousa-list.html(2024年9月19日時点)

[3] 三上英敏・石川靖・上野洋一・高村典子・若菜勇,2004.釧路湿原達古武沼における釧路川からの逆流水について.日本陸水学会第69回大会 新潟大会 講演要旨集.https://doi.org/10.14903/jslim.69.0.63.0

[4] 環境省生物多様性センター.自然環境調査Web-GIS(第6-7回自然環境保全基礎調査,1/25,000植生図).URL: http://gis.biodic.go.jp/webgis/(2024年9月18日時点)

[5] 三上英敏・石川靖・上野洋一,2007.達古武川上流部湿地帯における水質環境特性.陸水学雑誌,68:65–80.https://doi.org/10.3739/rikusui.68.65

[6] 環境省自然保護局・東北海道地区自然保護事務所・株式会社野生生物総合研究所(2005):平成16年度釧路湿原東部湖沼自然環境調査業務報告書,札幌.

[7] 釧路湿原国立公園連絡協議会.達古武オートキャンプ場.URL: https://www.kushiro-shitsugen-np.jp/fureai/takkobu/(2024年9月19日時点)

[8] 尾山洋一・松下文経・福島武彦,2017.衛星画像から観測した国内6湖沼におけるヒシ属Trapa L. の長期分布変化.保全生態学研究,22:171–185.