厚岸湖

Lake Akkeshi

所在地 (Location) 厚岸町 (Akkeshi Town)
成因 (Origin) 海跡湖 (lagoon lake)
湖面標高 (Elevation) 0.0 m
湖面積 (Surface area) 32.70 km2
最大水深 (Max. depth) 11.0 m
容積 (Volume) 48600 ×103 m3
集水域面積 (Watershed area) 777.58 km2

湖の西部から北東方向を撮影。赤い橋は、厚岸湖と厚岸湾の間にかかる厚岸大橋。厚岸湖内には多くの浅瀬があることがわかる。写真中央右には牡蠣島弁天神社が見える。(2023年10月25日撮影)

厚岸湖(アッケシコ)は、厚岸町市街地の東部にある、東西にやや長い円形をした海跡湖である。厚岸湖北西側の港町付近から湖の中央部にかけて、牡蠣殻の堆積による島礁が大小65分布している。また、厚岸湖の南西部の奔度(ポント)町付近には、1781年(天明元年)以前に建立されたといわれる「牡蠣島弁天神社」(弁天島)があり、ここの地域の人々と牡蠣との長年にわたる深い関係が推察される。

「アッケシ」の語源として、アイヌ語の「アッケウㇱイ」(あつし皮を剥ぐ所の意)、「アッケㇱト」(楡(ニレ)下の沼の意)、「アッケシ」(牡蠣の意)の説がある [1]

厚岸湖は、湖面標高0 m、湖面積 32.70 km2、最大水深11.0 mの汽水湖である。

流入河川は、北方から流入する別寒辺牛(ベカンベウシ)川が最も大きい。また、東方からトキタイ川が、南東からは東梅川が流入している。厚岸湖の西側は外海である厚岸湾と幅約500 mでつながっている。

集水域の土地利用は、森林が全体の6割弱を占め、カラマツやトドマツの植林地のほか、シラカンバ-ミズナラ群落の落葉広葉樹二次林が広がっている [2]。森林に次いで農用地が約2割を占め、流域の西側を中心に牧草地が広がる [2]。別寒辺牛川をはじめとする流入河川沿いにはヨシやハンノキなどの湿原植生(土地利用図では「荒地」)が広く分布しており [2]、国道44号線とJR根室本線(花咲線)が湿原内を通っている。土壌図によれば、流入河川沿いには泥炭土が広く分布している [3]

厚岸湖は、類型指定湖沼であり、環境基準は、海域のB類型が指定されている。厚岸湖におけるCODの環境基準(3 mg/L以下)は近年達成されていない。流域に広がる湿原の影響で、厚岸湖に流入する河川水は褐色を呈し、難分解性の有機物である腐植物質を多く含んでいる。この自然由来の有機物が、湖内のCOD濃度を高める要因になっていると考えられる。一方で、湖心部や湖奥部の底質のCOD濃度は高く、水深が浅いため湖底にたまった有機物の巻き上げの影響も受けやすい[4]。また、湖内の養殖やアマモ場からの有機物の供給も示唆されている[5]

環境基準点であるSt-1の栄養度は、2010・2011年時点で、TNで中栄養、TPで富栄養レベルであった。TN濃度は別寒辺牛川の河口付近で高く、窒素は主に流入河川から供給されていると推察されている[4]。河川の硝酸態窒素の濃度は、その集水域の飼育牛の密度に比例することが隣の風蓮湖の調査の例で明らかになっていることから、別寒辺牛川流域においても、多かれ少なかれ、酪農地帯からの窒素の供給があると思われる。河川沿いに広がる湿原の水質浄化作用によって、流域の農地面積の割には窒素濃度は低い特徴があるとされている[6] [7]。一方、リン濃度は湖奥部(St-3)で高い。湖奥部は水の交換が悪く底質が還元状態になりやすいため、底にたまった泥から湖水中にリンが供給されていると推察されている[4]。窒素とリンのバランスから、厚岸湖では窒素が植物プランクトン増殖の制限因子になっていると言われている[7]

厚岸湖奥部の底泥などからのリンの供給と流域河川からの窒素の供給が湖内で混合したとき、厚岸湖の植物プランクトンの増殖が促進され、場合によっては富栄養化が進んでしまう恐れがある。現在のところ、Chl-a濃度の経年傾向からは、植物プランクトンの現存量はそれほど大きくない。湖内で養殖されているカキやアサリによる摂取[8] [9]とそれらの漁獲によって、湖内で生産される有機物の一部は系外に出て行っているためかも知れない。

湖内ではカキやアサリの養殖が盛んで、特に厚岸のカキと言えば、粒が大きく全国的にも有名である。厚岸町で人工的に採苗した種苗(シングルシードカキ)を使った養殖も行われており[10]、「かきえもん」をはじめとする貝類ブランドは全国的に高い評価を得ている[11]。1993年5月に、厚岸湖と別寒辺牛湿原は、霧多布湿原と共に、ラムサール条約登録湿地に登録された。さらに、2021年3月には厚岸霧多布昆布森国定公園に指定されている。約240種の鳥類が確認されており、冬も全面結氷しない厚岸湖は日本有数のオオハクチョウの越冬地になっている[12]。豊かな自然環境を背景に、カヌーツーリングやバードウォッチングなどのエコツーリズムが盛んである。

水質データ(表層)
調査日 地点 全水深
[m]
透明度
[m]
pH Cl-
[mg/L]
アルカリ度
[meq/L]
DO
[mg/L]
COD
[mg/L]
TOC
[mg/L]
TN
[mg/L]
TP
[mg/L]
Chl-a
[μg/L]
1979-07-17 St-1 1.8 8.0 8.4 1.64 0.44
1985-10-22 St-1 2.2 8.0 16900 8.4 2.0 0.62 0.049
1991-05-22 St-1 1.3 8.0 9.8 2.8 0.28 0.013 0.67
2010-05-19 [2] St-1 1.5 0.9 8.1 10.8 4.8 0.25 0.045 5.5
2010-06-29 [2] St-1 1.9 1.9 8.2 6.5 7.3 0.41 0.099 3.6
2010-08-05 [2] St-1 3.4 1.3 8.1 7.5 4.8 0.28 0.056 1.4
2010-09-01 [2] St-1 3.6 1.8 8.1 6.7 6.6 0.27 0.078 0.7
2011-05-25 [2] St-1 3.8 2.0 8.1 10.5 3.1 0.20 0.037 2.2
2011-07-20 [2] St-1 3.8 1.8 8.1 8.2 3.6 0.31 0.054 1.5
2011-08-23 [2] St-1 5.0 2.2 8.1 8.2 3.9 0.21 0.077 0.7
2011-09-28 [2] St-1 4.7 1.2 8.0 8.3 4.3 0.37 0.064 1.9
調査地点図
集水域の土地利用
栄養度の推移(表層)
水質の経年変化

[1] 北海道環境生活部アイヌ政策推進局アイヌ政策課,2021.アイヌ語地名リスト.URL: https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/ass/new_timeilist.html(2024年11月29日時点)

[2] 環境省生物多様性センター.自然環境調査Web-GIS(第6-7回自然環境保全基礎調査,1/25,000植生図).URL: http://gis.biodic.go.jp/webgis/(2022年6月2日取得)

[3] 農研機構農業環境変動研究センター,2019.縮尺20万分の1土壌図(2019年6月版).URL: https://soil-inventory.rad.naro.go.jp/download20.html(2021年10月18日取得)

[4] 北海道立総合研究機構 環境科学研究センター, 2012, 平成23年度厚岸湖に係る環境基準未達成原因究明調査報告書, 北海道立総合研究機構 環境・地質研究本部 環境科学研究センター, 札幌, 22p.

[5] Isada T., Abe H., Kasai H. & Nakaoka M., 2021. Dynamics of nutrients and colored dissolved organic matter absorption in a wetland-influenced subarctic coastal region of northeastern Japan: contributions from mariculture and eelgrass meadows. Frontiers in Marine Science, 11. https://doi.org/10.3389/fmars.2021.711832

[6] Woli K. P., Nagumo T., Kuramochi K. & Hatano R., 2004. Evaluating river water quality through land use analysis and N budget approaches in livestock farming areas. Science of The Total Environment, 329: 61-74. https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2004.03.006

[7] Hayakawa A., Shimizu M., Woli K. P., Kuramochi K. & Hatano R., 2006. Evaluating stream water quality through land use analysis in two grassland catchments. Journal of Environmental Quality, 35: 617-627. https://doi.org/10.2134/jeq2005.0343

[8] 梶原瑠美子・菅夏海・小森田智大・柴沼成一郎・山田俊郎・大橋正臣・門谷茂,2017.炭素・窒素安定同位体比を用いた亜寒帯沿岸浅海域の低次生物生産への河川影響評価.土木学会論文集B3(海洋開発),73:I_869-I_874.https://doi.org/10.2208/jscejoe.73.I_869

[9] 阿部博哉,2016.亜寒帯汽水湖における低次生産過程に果たす基礎生産者の多様性と懸濁物食性二枚貝の役割に関する研究 : 現地観測と数値モデルの融合.北海道大学学位論文.URL: https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/handle/2115/63808(2025年5月10日時点)

[10] 地方独立行政法人北海道立総合研究機構 水産研究本部.北海道の漁業図鑑「マガキ:かき養殖漁業」.URL:https://www.hro.or.jp/fisheries/h3mfcd0000000gsj/marine/o7u1kr000000019q/o7u1kr000000d0kz/o7u1kr000000d4fu/o7u1kr000000crzy.html(2025年5月10日時点)

[11] 北海道水産林務部森林海洋環境局成長産業課.北海道お魚図鑑「厚岸漁業協同組合」.URL:https://www.pref.hokkaido.lg.jp/sr/gid/gok039.html(2025年5月10日時点)

[12] 環境省,2022.日本のラムサール条約湿地―豊かな自然・多様な湿地の保全と賢明な利用―.URL: https://www.env.go.jp/nature/ramsar/conv/pamph02/index.html(2025年5月10日時点)