屈斜路湖
Lake Kussharo
所在地 (Location) | 弟子屈町 (Teshikaga Town) |
成因 (Origin) | カルデラ湖 (caldera lake) |
湖面標高 (Elevation) | 121 m |
湖面積 (Surface area) | 79.54 km2 |
最大水深 (Max. depth) | 117.5 m |
容積 (Volume) | 3330000 ×103 m3 |
集水域面積 (Watershed area) | 320.84 km2 |

屈斜路湖北部の藻琴峠付近から南方向を撮影。屈斜路湖は、この藻琴峠のほかに写真右端付近の美幌峠、写真右にある中島の延長方向の津別峠の高台から湖の眺望を楽しめる。写真左端の平地には川湯の温泉街や、強酸性な流入河川の湯川がある。(2023年10月24日撮影)
屈斜路湖(クッシャロコ)は弟子屈町北部の屈斜路カルデラ内に形成されたカルデラ湖である。屈斜路はアイヌ語の「クッチャㇻ」に由来し「のど口」の意である [1]。この湖のクッチャロのすぐ北に昔から有力なコタン(村)があり、和人がその名を採って湖名にしたものと言われている。
屈斜路湖は湖面標高121 m、湖面積79.54 km2、最大水深117.5 m、容積3.33 km3の大きく深い淡水湖である。道内天然湖沼のうち、湖面積は2番目、最大水深は5番目、容積は3番目に大きい。国土地理院の湖沼調査(1970・71年測量)によれば湖の南部で深くなっており、最深部は和琴半島と対岸の池の湯の中間付近にある [2]。湖面中央部には溶岩円頂丘である中島(標高355 m、周囲12 km、面積5.7 km2)が浮かんでいる。
流入河川の一つに北東からの湯川があり、この川は屈斜路湖に、アトサヌプリ火山(硫黄山)からの硫酸イオンに富んだ酸性の水を注いでいる。また、その他の流入河川として、南方に尾札部(オサッペ)川やエネトコマップ川など、西方から北方にかけてオンネシレト川、シケレペンベツ川、オンネナイ川などがある。流出河川は湖南端の釧路川である。
集水域の土地利用は、森林が全体の6割以上を占める。農用地が7%あり、湖北東側の流入河川沿いを中心に牧草地が、湖南側の流入河川や流出河川沿いを中心に畑地が分布している [3]。
屈斜路湖は類型指定湖沼であり、環境基準は湖沼のAA及びⅠ類型(リンのみ)が指定されている。屈斜路湖の水は1917年には多くの魚の種類が報告されており中性近くだったと推察される。しかし1930年代には1938年の地震前後にpH5~6台の数値が報告されており、やや酸性化していたと考えられる [4]。その後、しばらく調査のない期間が続き、1960年の調査でpH4.0の強い酸性となっていることが報告された [5]。1980年代中頃までは酸性(pH4~5)であったが、1980年代後半から2000年頃にかけてpHが中性付近まで上昇してきた。屈斜路湖の堆積物の分析から [6]、屈斜路湖では数十年単位でのpH変動があると推察されており、上記の変動もその一環と思われる。pHが中性付近まで回復し調和型湖沼となった今日、今度は、富栄養化が進行する可能性が出てくる。CODは1990年代までは環境基準の1 mg/L前後で推移していたが、1990年代後半に上昇し、1998年から現在まで環境基準を超過している。
過去に行われた水質調査のうちSt-2(水深約45 m)の結果と、2021年9月に実施した最深部の調査結果を表に示した。2021年の透明度は13 mと過去に比べて高い値を示した。北海道庁が実施している公共用水域のモニタリングデータ(時系列グラフ)によれば、pHが低かった1980年代までは季節により大きく変動し、夏に低下する傾向が見られていた。これは夏の水温上昇の結果、河川から流入する鉄、アルミニウム、イオウなどの無機イオンが溶け込んで、湖水が白濁し、透明度を低下させるためと言われている。近年では季節変動は小さくなって来ている。
2021年のTNとTP濃度はそれぞれ0.09及び0.007 mg/Lと貧栄養レベルであった。時系列グラフによれば、TN、TPとも明確な経年変化は見られていない。TPの環境基準(0.005 mg/L以下)は概ね達成されている。2021年のChl-a濃度は1 μg/L未満と1970・80年代に比べて若干低いものの、時系列グラフではばらつきの範囲内にある。
2021年9月の水質鉛直プロファイル(水深110 mまで観測)では、水温は水深20~25 m付近で急激な低下(水温躍層)が見られ、上層で高水温、下層で低水温の成層構造が見られた。溶存酸素は水深20 m付近で100%超のピークをとり、その後深度とともに徐々に低下し最深部で75%程度となっていた。摩周湖と同様に、水深20 m付近で植物プランクトンが活発に増殖していたと思われる。電気伝導度は水温とは逆に下層でやや高い値を示していた。
中性化した屈斜路湖は、酸性であった以前に比べ富栄養化しやすいと思われる。栄養塩濃度にはその傾向は現れていないが、COD値は上昇傾向にある。今後、モニタリングの継続と、実態の解明が必要である。
屈斜路湖の湖面と集水域は阿寒摩周国立公園に指定されている。湖畔には、和琴(ワコト)、仁伏(ニブシ)、砂湯(スナユ)、赤湯(アカユ)、池の湯(イケノユ)など多くの温泉が湧出しており、多くの観光客が訪れる。湖畔にはキャンプ場やホテルなど多くの宿泊施設があり、湖面はカヌーやヨット、釣りなどに利用されている [7]。
調査日 | 地点 | 全水深 [m] |
透明度 [m] |
pH | Cl- [mg/L] |
アルカリ度 [meq/L] |
DO [mg/L] |
COD [mg/L] |
TOC [mg/L] |
TN [mg/L] |
TP [mg/L] |
Chl-a [μg/L] |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1979-07-24 | St-2 | 2.8 | 3.9 | 6.6 | 1.20 | 3.0 | ||||||
1985-08-28 | St-2 | 8.0 | 4.5 | 8.2 | <0.5 | |||||||
1991-07-09 | St-2 | 6.0 | 6.7 | 36.0 | 0.065 | 9.6 | 1.4 | 0.6 | 0.28 | <0.003 | 0.82 | |
1991-10-8 [8] | St-2 | 40.0 | 11.0 | 6.6 | 49 | 9.6 | 1.0 | 0.08 | <0.003 | 0.16 | ||
1992-06-16 [9] | St-2 | 39.5 | 6.5 | 6.7 | 39 | 0.094 | 13.1 | 0.8 | <0.05 | <0.003 | 0.8 | |
1992-09-17 [9] | St-2 | 6.0 | 6.6 | 35 | 0.098 | 9.1 | 1.1 | 0.05 | 0.006 | 1.7 | ||
1998-07-07 [10] | St-2 | 38.0 | 10.0 | 7.1 | 9.4 | 1.6 | <0.05 | 0.007 | 0.59 | |||
1998-09-17 [10] | St-2 | 38.0 | 5.0 | 7.4 | 1.9 | 0.06 | 0.011 | 1.2 | ||||
1999-06-01 [10] | St-2 | 41.0 | 6.0 | 7.2 | 12.5 | 1.5 | 0.15 | 0.004 | 0.76 | |||
1999-07-07 [10] | St-2 | 37.0 | 11.0 | 7.4 | 8.5 | 1.5 | 0.16 | 0.005 | 0.23 | |||
1999-08-10 [10] | St-2 | 42.0 | 9.5 | 7.6 | 8.6 | 1.4 | <0.05 | 0.008 | 0.28 | |||
1999-09-28 [10] | St-2 | 34.3 | 8.0 | 7.3 | 8.1 | 1.2 | 0.08 | 0.006 | 0.62 | |||
2011-06-21 [11] | St-2 | 12.0 | 7.1 | 10.1 | 3.1 | 0.10 | 0.006 | 1.5 | ||||
2011-09-13 [11] | St-2 | 43.4 | 15.1 | 7.4 | 1.7 | 0.10 | <0.003 | 1.1 | ||||
2021-09-29 | 最深部 | 13.3 | 6.6 | 41.4 | 0.296 | 9.1 | 1.3 | 0.09 | 0.007 | 0.86 |
[1] 北海道環境生活部アイヌ政策推進局アイヌ政策課,2021.アイヌ語地名リスト.URL: https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/ass/new_timeilist.html(2024年10月16日時点)
[2] 国土地理院,2019.湖沼データ(屈斜路湖).URL: https://www.gsi.go.jp/kankyochiri/koshouchousa-list.html(2024年10月16日時点)
[3] 環境省生物多様性センター.自然環境調査Web-GIS(第6-7回自然環境保全基礎調査,1/25,000植生図).URL: http://gis.biodic.go.jp/webgis/(2022年6月2日取得)
[4] 奥田節夫・倉田亮・長岡正利・沢村和彦,1991.空からみる日本の湖沼,理科年表読本.丸善,238p.
[5] 下田信男・遠藤信也,1967.湖水の化学成分の地球化学的研究 (第4報): 屈斜路湖の水質の化学的特性.室蘭工業大学研究報告.理工編,6(1):21–26.https://muroran-it.repo.nii.ac.jp/records/7564
[6] 望月誠・阿部利弘・福島和夫,1996.屈斜路湖堆積物にみる環境変動II.Researches in Organic Geochemistry,11:33–38.https://doi.org/10.20612/rog.11.0_33
[7] 弟子屈なび.屈斜路湖~国内最大のカルデラ湖.URL: https://masyuko.or.jp/enjoy/kussharoko/(2024年10月16日時点)
[8] 北海道保健環境部環境対策課, 1991, 平成3年度屈斜路湖環境基準未達成原因解明調査結果報告書, 北海道保健環境部環境対策課, 札幌, 35p.
[9] 北海道保健環境部環境対策課, 1992, 平成4年度屈斜路湖環境基準未達成原因解明調査結果報告書, 北海道保健環境部環境対策課, 札幌, 14p.
[10] 北海道環境科学研究センター, 2000, 平成11年度環境基準未達成原因解明調査報告書ー屈斜路湖ー, 北海道環境科学研究センター, 札幌, 48p.
[11] 北海道立総合研究機構 環境科学研究センター, 2012, 平成23年度屈斜路湖に係る環境基準未達成原因究明調査報告書, 地方独立行政法人北海道立総合研究機構 環境・地質研究本部 環境科学研究センター, 札幌, 21p.