摩周湖

Lake Mashu

所在地 (Location) 弟子屈町 (Teshikaga Town)
成因 (Origin) カルデラ湖 (caldera lake)
湖面標高 (Elevation) 351 m
湖面積 (Surface area) 19.22 km2
最大水深 (Max. depth) 211.4 m
容積 (Volume) 2860000 ×103 m3
集水域面積 (Watershed area) 32.41 km2

摩周湖北部から南西方向を撮影。湖の周囲は湖面からの高さが140〜350 mの急峻なカルデラ壁に囲まれ、湖面積に対する集水域面積はとても小さい。カルデラ壁の内側は国立公園の特別保護地区となっており、立ち入りは規制されている。写真中央左の山は摩周岳。写真中央右には摩周湖唯一の島、カムイシュ島が見える。(2022年8月24日撮影)

摩周湖(マシュウコ)は弟子屈町東部にあるカルデラ湖である。屈斜路カルデラの南東外輪山に摩周火山が噴出した後、南北7.5 km、東西5.5 kmのカルデラが生じ、寄生火山である摩周岳が噴出し、カルデラの東部が埋積された。この摩周岳は急峻な円錐形をなしてカルデラ壁を覆っており、山頂には約2 kmのほぼ円形をした火口があって、崖錐に覆われる。

摩周湖はアイヌ語では、「キンタン・カムイ・ト(kim-ta-an-kamui-to、山・に・ある・神の・湖)、と呼ばれており、摩周岳も同様に、別名「カムイ・ヌプリ(神・山)」と呼ばれている。

摩周湖は湖面標高351 m、湖面積19.22 km2、最大水深211.4 m、容積2.86 km3の深い淡水湖である。道内天然湖沼の中で最大水深は2番目、容積は4番目に大きい。湖のほぼ中央に溶岩円頂丘のカムイッシュ(神岩)の小島(カムイシュ島:長径110 m、短径40 m、高さ25 m)がある。国土地理院の湖沼調査(1986年測量)によれば湖岸線からすぐ深くなり、湖面の大部分は水深100 m以上ある [1]。湖底は概して平坦で、最深部はカムイシュ島から北に約1 kmの所にある。

摩周湖は標高500~800 m程度の外輪山に囲まれている。目に見える流入河川や流出河川は存在せず、外部への流出は、地下を経由して行われていると考えられる。流出先として、摩周の湖水に由来する幾つかの湧水があることが知られている [2]

湖面積に対する集水域面積の比は約1.7と他の多くの湖沼に比べ小さい。このことは、湖への水の供給に、湖面への直接降水の寄与が大きいことを意味する。摩周湖の集水域は保全されており、展望台などの施設を除いて、全て山林などの自然地である。

摩周湖は、湖岸に近づくことが困難なため、水質調査も多くの人力を要する。当所の水質調査は、過去数回実施されている。国立環境研究所は地球環境モニタリングプロジェクトとして1980年から摩周湖水の調査を開始し、1994年には国際的な淡水水質監視プログラムであるGEMS/Waterのベースラインモニタリングとして継続的な調査を実施した [3]。国立環境研究所による調査は2018年で終了したが、その後は摩周湖周辺の5町(清里町、別海町、中標津町、標茶町、弟子屈町)と関係機関で構成される摩周湖環境保全連絡協議会による水質モニタリングが継続されている。

当所がこれまでに実施した水質調査のうち、最深部にあたるSt-2の結果を表に示した。透明度は20~35 mと高く、非常に清澄な湖沼である。過去の調査報告では、1931年に41.6 mという記録があり、これは、湖沼では当時の世界一の透明度と言われている。2022年の透明度は20.3 mであった。摩周湖では5月と12月に透明度が上昇し、夏期に透明度が低下する季節変動があり [4]、2022年の透明度はこの時期の平均的な透明度の範囲であったと考えられる。

2022年のTNとTP濃度はそれぞれ0.09 mg/L及び0.003 mg/L未満と非常に低く、貧栄養レベルにある。栄養度について1980・90年代から明確な変化は見られていない。また、Chl-a濃度について、2022年の調査時は0.35 μg/Lであり、過去の測定値の範囲内にあった。

2022年8月の水質鉛直プロファイルでは、水温は主に水深20~50 m付近で急激な低下(水温躍層)が見られ、上層で高水温、下層で低水温の成層構造が見られた。溶存酸素は水深20 m付近で110%弱とピークをとり、その後深度とともに徐々に低下し最深部で約80%を示した。貧栄養湖では、透明度が高いことから光が深いところまで到達し、中層域での植物プランクトンの増殖が可能である。水深20 m付近の過飽和は植物プランクトンの増殖によるものと思われる。

摩周湖の湖面と集水域は阿寒摩周国立公園の特別保護地区に指定され、その原始性と良好な水質を維持するため、カルデラ内への一般立入りは制限されている [5]。世界有数の透明度と美しい乳白色の霧の風景で知られる「神秘の湖」として北海道遺産にも登録されている [6]

摩周湖外輪山の観光道路には3ヶ所の展望台がある(第一展望台、第三展望台、裏摩周展望台)。また、摩周湖の東に位置する摩周岳(標高857 m)は登山道が整備されており、山頂から摩周湖の眺望が楽しめる [7]。摩周湖の雄大な眺めは霧に隠れてその姿をなかなか見せてくれないこともあるが、ひとたび霧が晴れれば神秘に満ちたその全貌を見ることができる。

水質データ(表層)
調査日 地点 全水深
[m]
透明度
[m]
pH Cl-
[mg/L]
アルカリ度
[meq/L]
DO
[mg/L]
COD
[mg/L]
TOC
[mg/L]
TN
[mg/L]
TP
[mg/L]
Chl-a
[μg/L]
1979-07-25 St-2 33.2 7.6 10.6 1.10 0.04
1982-10-13 St-2 210 35.0 7.7 4.5 8.4 1.0 <0.05 <0.003 0.56
1984-06-12 St-2 25.8 7.2 10.0 12.8 <0.5 0.06 0.007 0.18
1984-08-21 St-2 27.2 7.4 8.7 9.0 0.7 0.07 0.003 0.21
1984-09-18 St-2 8.0 7.6 9.4 0.7 <0.05 <0.003 0.43
1984-10-09 St-2 25.5 7.4 8.7 9.7 0.6 <0.05 <0.003 0.11
1985-06-18 St-2 25.0 7.1 8.1 11.2 0.5 <0.05 <0.003 0.33
1985-10-15 St-2 21.0 7.3 8.1 10.4 0.8 <0.05 <0.003 0.33
1987-06-17 St-2 24.0 7.7 6.4 12.1 0.7 0.06 0.003 0.22
1990-07-03 St-2 25.0 7.6 6.9 10.6 0.6 0.5 0.17 <0.003 0.19
1991-06-25 St-2 26.0 7.3 6.7 0.890 9.1 <0.5 <0.5 <0.05 <0.003 0.20
1995-08-22 St-2 25.0 7.8 6.9 0.799 9.0 0.9 0.8 0.09 <0.003 0.14
2022-08-24 St-2 212.4 20.3 8.0 6.40 0.772 8.9 0.7 0.09 <0.003 0.35
調査地点図
集水域の土地利用
栄養度の推移(表層)
水質鉛直プロファイル

[1] 国土地理院,2019.湖沼データ(摩周湖).URL: https://www.gsi.go.jp/kankyochiri/koshouchousa-list.html(2024年10月15日時点)

[2] 大八木英夫・浅井和由・田中 敦, 2019. 摩周湖およびその周辺の山麓湧水の滞留時間の推定. 日本地理学会発表要旨集, 134. https://doi.org/10.14866/ajg.2019a.0_134

[3] 国立環境研究所地球環境研究センター、北見工業大学、北海道環境科学研究センター,2004.GEMS/Water摩周湖モニタリングデータブック.URL: https://www.cger.nies.go.jp/publications/report/m016/M016.html(2024年10月15日時点)

[4] 五十嵐聖貴・藤江 晋・深澤達矢・濱田浩美・小林 拓・南 尚嗣・武内章記・田中 敦, 2011. 摩周湖における透明度の季節変動とその要因. 日本陸水学会第76回大会講演要旨集, 77. https://www.jslim.jp/wp-content/uploads/2018/10/76th.pdf(2024年10月15日時点)

[5] 環境省,2017.阿寒摩周国立公園 公園計画書.URL: https://www.env.go.jp/park/akan/intro/files/plan_akan_5th.pdf(2024年10月15日時点)

[6] NPO法人北海道遺産協議会.各地の北海道遺産(摩周湖).URL: https://www.hokkaidoisan.org/teshikaga_masyuko.html(2024年10月15日時点)

[7] 川湯ビジターセンター.摩周岳登山道.URL: https://www.kawayu-eco-museum.com/mtmashutrail/(2025年5月2日時点)