馬主来沼

Lake Pashikuru

所在地 (Location) 白糠町 (Shiranuka Town)
成因 (Origin) 海跡湖 (lagoon lake)
湖面標高 (Elevation) 1.0 m
湖面積 (Surface area) 0.28 km2
最大水深 (Max. depth) 4.0 m
容積 (Volume) 280 ×103 m3
集水域面積 (Watershed area) 29.26 km2

沼の東部から西方向を撮影。沼の水位が上昇すると海岸の砂州が崩れて不定期に海とつながる。海岸沿いに国道38号線が通っているほか、沼の北東には根室本線が走っており、特急おおぞらなどの車窓からも間近に見ることができる。(2023年9月7日撮影)

馬主来沼(パシクルヌマ)は、白糠(シラヌカ)町と釧路市音別(オンベツ)町にまたがった、国道38号線のすぐそばの太平洋沿岸に位置している。この沼は、標高30~60 mの海岸段丘で囲まれ、南東側が太平洋に通じている海跡湖である。

「馬主来」の語源は、アイヌ語の「パㇱクㇽ」(カラスの意)に由来する。昔、アイヌが漁のため沖合に出て、霧が深くかかって方角を失った時、この沼の辺にカラスの啼く声がするのを幸いに、目当にし、ここへ上陸したことによる、とされている [1]

馬主来沼は、湖面標高1.0 m、湖面積0.28 km2、最大水深4.0 m、集水域面積29.26 km2の浅く小さな汽水湖である。湖面積に対する集水域面積の比は105と大きいことから、馬主来沼は集水域の影響を受けやすい湖沼であると言える。

主な流入河川は北方から入る馬主来川であり、流出水は砂浜を通じて海に出る。

集水域の土地利用は、森林が全体の6割以上を占め、カラマツの植林地が広く分布している [2]。森林に次いで農用地が2割弱を占め、馬主来川沿いの低地を中心に牧草地が広がる [2]。沼の周囲にはヨシなどの湿原植生(土地利用図では「荒地」)が広く分布しており [2]、湿原内をJR根室本線が通っている。土壌図によれば、沼の周囲や流入河川沿いに泥炭土が分布している [3]

過去に行われた水質調査のうちSt-2の結果と、2022年9月に実施した湖心(St-1とSt-2の間)の調査結果を表に示す。透明度は0.2~2.2 mと調査時により大きく変動していた。塩化物イオン濃度は2000 mg/L前後で比較的安定していた。湖水は茶褐色を呈し、CODやTOC濃度も高く、腐植物質の影響を大きく受けていると思われる。

2022年のTNとTP濃度はそれぞれ0.71 mg/Lと0.073 mg/Lであり、富栄養レベルにあった。調査回数が少ないため経年変化の傾向は不明であるが、富栄養~過栄養レベルで推移している。Chl-a濃度0.90~46 μg/Lと調査時によって大きく異なり、2022年には41 μg/Lと、比較的高い状態にあった。

2022年9月の水質鉛直プロファイルでは、水深1 m以深で塩分上昇が見られた。逆に、溶存酸素は1 m以深で低下し、湖底付近では35%前後となっていた。塩分による密度成層により、上層と下層で水が混ざりにくい状態が生じていたと考えられる。

国道沿いにパシクル自然公園があり、解説サインや望遠鏡が整備されている [4]。パシクル湖畔の夕日は音別新八景のひとつに数えられ、パシクル湖畔近くの砂浜で美しい夕日を眺めることができる [5]

水質データ(表層)
調査日 地点 全水深
[m]
透明度
[m]
pH Cl-
[mg/L]
アルカリ度
[meq/L]
DO
[mg/L]
COD
[mg/L]
TOC
[mg/L]
TN
[mg/L]
TP
[mg/L]
Chl-a
[μg/L]
1979-06-29 St-2 2.2 7.2 8.6 11
1985-09-17 St-2 0.2 7.6 2650 9.3 8.9
1991-09-03 St-2 0.9 >0.9 8.1 2450 0.638 13.1 12.8 7.3 0.68 0.284 46
1994-07-20 St-2 1.3 >1.3 7.2 1920 0.876 7.4 10.0 5.4 0.49 0.036 8.9
1999-10-04 St-2 1.2 >1.2 6.9 2940 0.894 11.0 14.0 10.0 1.10 0.105 0.90
2022-09-07 湖心 1.9 0.8 8.5 1300 0.750 10.8 11.0 0.71 0.073 41
調査地点図
集水域の土地利用
栄養度の推移(表層)
水質鉛直プロファイル

[1] 北海道環境生活部アイヌ政策推進局アイヌ政策課,2021.アイヌ語地名リスト.URL: https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/ass/new_timeilist.html(2024年12月6日時点)

[2] 環境省生物多様性センター.自然環境調査Web-GIS(第6-7回自然環境保全基礎調査,1/25,000植生図).URL: http://gis.biodic.go.jp/webgis/(2022年6月2日取得)

[3] 農研機構農業環境変動研究センター,2019.縮尺20万分の1土壌図(2019年6月版).URL: https://soil-inventory.rad.naro.go.jp/download20.html(2021年10月18日取得)

[4] 白糠町.馬主来(パシクル)自然公園.URL: https://www.town.shiranuka.lg.jp/section/keizai/qvum4j000000092y.html(2024年12月6日時点)

[5] 釧路市.音別新八景.URL: https://www.city.kushiro.lg.jp/shisei/gaiyou/1006797/1006798/1006811.html(2024年12月6日時点)