糠平ダム湖

Lake Nukabira Dam

所在地 (Location) 上士幌町 (Kamishihoro Town)
成因 (Origin) ダム湖 (reservoir)
湖面標高 (Elevation) 520 m
湖面積 (Surface area) 8.22 km2
最大水深 (Max. depth) 60.0 m
容積 (Volume) 160500 ×103 m3
集水域面積 (Watershed area) 387.77 km2

湖の南西部から北東方向を撮影。ぬかびら源泉郷の先に糠平ダム湖南部の一部が写っている。(2022年9月3日撮影)

糠平ダム湖(ヌカビラダムコ)は上士幌町の十勝川水系音更川に設けられた人造ダム湖である。ダムは発電を目的として1956年に完成した重力式コンクリートダムである。糠平ダム湖を利用する糠平発電所は十勝川水系の水力発電所11カ所の中核として運用され、道東地域の重要な電源となっている。

「糠平」の語源は、アイヌ語の「ノカピラ」(人の姿の崖)に由来するとされ、その崖は人造湖の中に沈んだという[1]

糠平ダム湖は湖面標高520 m、湖面積8.22 km2、最大水深60.0 mの淡水湖である。

糠平ダム湖流域は大雪山国立公園区域に属しており、石狩岳(1967 m)、ニペソツ山(2013 m)などの山々に囲まれている。糠平ダム湖の流入河川のうち最大のものは、流域北西部の石狩岳、音更山(1932 m)などを源とする音更川で、音更川の流域面積は糠平ダム湖流域の面積の7割以上を占めている[2]。音更川の主な支流として、流域北部の三国山(1541 m)などを源とする中の川、及び流域西部のニペソツ山、ウペペサンケ山(1848 m)などを源とする幌加川がある。音更川のほか、糠平川、タウシュベツ川などの河川が糠平ダム湖に流入する。

集水域の土地利用は、森林が全体の約97%を占め、その大部分はエゾマツやトドマツなどの亜高山帯針葉樹林から成る自然植生である[3]。湖畔のほとんどは森林で覆われており、南側の一部に建物用地(ぬかびら温泉郷)がある。

糠平ダム湖は類型指定湖沼であり、環境基準は湖沼のA及びⅡ類型(リン)が指定されている。1985年から現在まで公共用水域の水質モニタリングが行われているが、全リン(TP)の環境基準値(0.01 mg/L)を超過する年が時々出現している。

当所では、糠平ダム湖のTPが環境基準を超過する原因を明らかにするため、2020・2021年に湖内3地点と流域河川18地点で水質調査を行うとともに、流域の地質や土壌、植生など様々な環境要因との関係について解析した[4]。糠平ダム湖流域北部にある三股付近の盆地は、約100万年前の大規模噴火でできたカルデラ地形であると言われており[5]、周囲の火山から流れてきた火山噴出物(湖成堆積物)が地表付近に堆積している。解析の結果、この堆積物が多く分布する河川ほど溶存無機リン(DIP)濃度が高いことが明らかとなり、地質からの自然的なリンの供給が、糠平ダム湖で環境基準を超過しやすい要因のひとつになっている可能性が考えられた [2]

2020・2021年のTNとTP濃度はそれぞれ0.2 mg/L前後及び0.01 mg/L以下で、貧栄養から中栄養レベルにあった。Chl-a濃度は3 μg/L前後、COD濃度は2 mg/L前後の値となっている。水質の経年変化グラフを見ると、有機汚濁の指標であるCODは、近年概ね環境基準値(3 mg/L)を下回って推移していることが見て取れる。

ダムの堤体に近い湖心における2021年8月の水質鉛直プロファイルでは、水温は水深5 m付近から35 m付近まで低下が見られ、上層で高水温、下層で低水温の成層構造となっていた。このとき、溶存酸素は湖底付近まで60%程度維持されていた。夏の成層期に深い層の溶存酸素がそれほど低下しないのは、天然の湖沼ではあまり見られておらず、取水による湖水の流動が影響している可能性がある[4]。一方、10月下旬の観測では、水深約40 m以深では、溶存酸素は10%未満となっており[4]、糠平ダム湖では、秋に深いところで貧酸素になりやすいようである。

糠平ダム湖の湖面とその集水域は大雪山国立公園に含まれている。湖畔にあるぬかびら温泉郷は東大雪エリアの利用拠点となっており、源泉かけ流しの温泉として親しまれている[6]。また、湖岸には、タウシュベツ川橋梁をはじめ、昭和初期に木材を運んだ鉄路の橋(旧国鉄士幌線コンクリートアーチ橋梁群)が保存されており、北海道遺産にも選定されている[7]。湖畔にはキャンプ場やスキー場があるほか、冬には結氷した湖面でワカサギ釣りを楽しむことができる [8]

水質データ(表層)
調査日 地点 全水深
[m]
透明度
[m]
pH Cl-
[mg/L]
アルカリ度
[meq/L]
DO
[mg/L]
COD
[mg/L]
TOC
[mg/L]
TN
[mg/L]
TP
[mg/L]
Chl-a
[μg/L]
2020-10-21 [4] St-2 22.0 2.5 7.3 9.8 1.8 0.24 0.010 1.5
2020-10-29 [4] St-2 24.7 3.9 7.3 9.9 1.8 0.24 0.006 0.92
2020-11-09 [4] St-2 25.0 2.8 7.2 10 2.1 0.25 0.009 2.9
2021-07-14 [4] St-2 31.0 3.5 8.3 9.1 2.2 0.20 0.008 3.6
2021-08-18 [4] St-2 31.0 4.1 8.0 8.9 2.4 0.15 0.007 4.0
2021-10-26 [4] St-2 29.9 4.2 7.7 9.5 1.8 0.16 0.006 3.2
調査地点図
集水域の土地利用
栄養度の推移(表層)
水質鉛直プロファイル
水質の経年変化

[1] 北海道環境生活部アイヌ政策推進局アイヌ政策課,2021.アイヌ語地名リスト.URL: https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/ass/new_timeilist.html(2025年3月29日時点)

[2] 木塚俊和・鈴木啓明・長谷川祥樹・濱原和広・三上英敏, 2023. 北海道東部の森林流域河川の溶存無機リン(DIP)濃度を左右する地質特性 ―大雪山国立公園糠平ダム湖流域の事例―. 陸水学雑誌, 84: 37–52. https://doi.org/10.3739/rikusui.84.37

[3] 環境省生物多様性センター.自然環境調査Web-GIS(第6-7回自然環境保全基礎調査,1/25,000植生図).URL: http://gis.biodic.go.jp/webgis/(2022年6月2日取得)

[4] 北海道立総合研究機構 エネルギー・環境・地質研究所, 2022, 令和3年度(2021年度)糠平ダム湖環境基準未達成原因究明調査報告書, 地方独立行政法人北海道立総合研究機構 産業技術環境研究本部 エネルギー・環境・地質研究所, 札幌, 50p.

[5] 石井英一・中川光弘・齋藤宏・山本明彦, 2008. 北海道中央部、更新世の十勝三股カルデラの提唱と関連火砕流堆積物:大規模火砕流堆積物と給源カルデラの対比例として. 地質学雑誌, 114: 348-365. https://doi.org/10.5575/geosoc.114.348

[6] 環境省. 大雪山国立公園 見どころガイド.URL: https://www.env.go.jp/park/daisetsu/guide/view.html(2025年4月1日時点)

[7] NPO法人北海道遺産協議会事務局. 旧国鉄士幌線コンクリートアーチ橋梁群.URL: https://www.hokkaidoisan.org/kamishihoro_arch.html(2025年4月1日時点)

[8] 上士幌町観光協会. ぬかびら源泉郷.URL: https://www.kamishihoro.jp/sp/nukabira(2025年4月1日時点)