水産研究本部

試験研究は今 No.553「非破壊分析による乾燥コンブの品質評価について」(2005年9月14日)

非破壊分析による乾燥コンブの品質評価について

水産物の品質評価

  従来、果物や米などの品質(おいしさ)の評価に用いられてきた近赤外分光法が水産物にも実用化され始めました。島根県水産試験場の広報誌によると、島根県水試は前浜で獲れたマアジのブランド化を支援するために近赤外分光法を用いた試験を行い、脂の含量を測るポータブルタイプの測定器の実用化に成功しました。近赤外分光法は、対象物に光を当てるだけで目的とする成分量が分かるため、化学分析のように薬品等で試料が破壊されることはありません(非破壊分析)。さらに、測定値は瞬時に得られるため、現場での食品の品質管理にも有用と考えられます。

  島根県ではマアジの脂の含量が10パーセント以上であることをブランド化に当たっての規格としています。一方、消費者を含む購入者は商品情報としてより詳しい成分表示を求めています。表示による品質保証によって、仲買人や消費者にとってはハズレのない商品を安心して購入できるというメリットがあり、こうした取り組みが消費の拡大に結びついていくものと考えます。

  このような考え方は、北海道の水産物の品質保証にも応用できます。すでに、ホタテガイについては道立工業試験場と網走水産試験場との共同研究が行われており、釧路水産試験場においても乾燥コンブの品質評価技術の開発というテーマで今年度から試験を進めております。ここでは釧路水試での取り組みを紹介します。

コンブの品質評価

  生産量が全国の80パーセントを占める道産乾燥コンブの場合、実入りや色、白粉、異物等の官能検査により等級付けが行われ、すでに十分な信頼が得られています。しかし、コンブに関しても上述したように生産者から成分量の表示によってブランド化を進めたいとの要望があり、非破壊分析法である近赤外分光法の適用を計画しました。

  乾燥コンブのだし汁の味はグルタミン酸とマンニトール含量が多いほど良好であるといわれています。グルタミン酸は代表的な旨味成分で調味料としても用いられ、マンニトールはコンブ表面に現れる白粉の主成分でさわやかな甘味を有します。この試験では特にこれらの成分について、近赤外分光法が適用できないか当面、乾燥コンブの粉末を試料として行う予定です。

近赤外分光法について

  最近、スーパーの果物売場で糖度という表示をよく見かけます。近赤外線という波長の短い赤外線を果物1つずつに照射すると、内部に入った光が果物の成分によって変化して外に出てきます。この光の波長や強度を測定して、実際に化学分析した値との関係式(検量線)を導き出します。この関係式により、果物は光を当てると瞬時に糖度が数値化され、選別されるという仕組みです。

  コンブの場合はまず、粉砕して均一にしたものを容器に詰め、近赤外線スペクトルを測定します。このスペクトルから化学分析値のグルタミン酸やマンニトールと相関の高い波長を求め、検量線を作成します。次にこの検量線を用いて新たな試料を測定し、化学分析値と比較し、検量線を評価します。この結果を基にコンブの成分が近赤外分光法で測定可能かどうか判断します(図1)。

  乾燥コンブの近赤外分光法の適用に関しては今まで知見がないため、しばらく手探り状態が続きますが、将来的には乾燥コンブを直接測定する技術開発をめざし、生産者や消費者の要望に応えたいと考えています。
(釧路水産試験場 利用部 宮崎亜希子)
    • 図1
      図1 近赤外分光法によるコンブの成分の非破壊分析法の検討

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