水産研究本部

試験研究は今 No.556「アサリに卵を産ませる!-アサリ種苗生産技術開発試験II 産卵誘発方法の検討-」(2005年10月24日)

はじめに

  北海道のアサリは,道東地域を中心として年間約1,500トンの漁獲があります。この資源維持のために,資源管理や稚貝移殖といった対策がとられていますが,他地域からの稚貝移殖は,寄生虫や遺伝的な問題から規制される傾向にあります。そこで,安全な放流用の稚貝を確保するためにも,北海道のアサリを用いた種苗生産技術の開発が望まれています。前回(試験研究は今 No.549)で紹介したように,栽培漁業総合センターでは能取湖産アサリを用いて,種苗生産技術の開発試験を行っています。今回は,アサリに適した産卵誘発方法について紹介します。

産卵誘発方法の検討

1.アサリ親貝の準備

  能取湖で採集して栽培センターへ搬入後,約14度の海水で数日間蓄養したアサリを誘発試験に用いました。試験を行う前日にアサリを洗い,水槽へしばらく収容して砂出しをします。その後,アサリをしめらせたタオルに包み,飼育水温と同じ温度で干出処理を一晩しておきました。

2.アンモニア注射法と水温上昇法の検討

  アンモニア注射が産卵誘発に有効かどうかを確かめるため,アンモニア水をアンモニア濃度が0.05Mとなるようにリン酸塩溶液へ加え,これを前日より干出させていたアサリに1個体当たり0.1ミリリットルずつ注射し,UV照射した26度の海水へ収容しました(アンモニア区)。その結果,30個体のアサリから562万個の卵を得ることができました(表1および図1)。一方,アンモニア処理をしなかった区(UV区)では,卵が得られませんでした。また同時に,加温法の有効性を確認するため,干出しておいたアサリを18度の海水を入れた水槽へ入れ,1時間あたり2度(+2度区),4度(+4度区),8度(+8度区)上昇させました。26度に達した後,1時間その水温を維持し,産卵が見られなければ,再び18度の海水へアサリを戻し,再び水温上昇を行いました。また,水温を18度のままの水槽(低水温区),はじめから26度の水槽(高水温区)も準備しました。しかしながら,これらの水温上昇を行っても,卵を得ることができませんでした。これらのことから,北海道のアサリを用いて産卵誘発を行う場合,水温を上昇させるよりも,アンモニア注射がより効果的であることがわかりました。
    • 表1
    • 図1

3.精子添加法の検討

  先の試験から,アサリにアンモニア注射をすることにより,卵を得ることができることがわかりました。しかしながら,この方法では,1個体1個体注射をする手間がかかること,産卵誘発を行った後にアサリ親貝が死んでしまうことなど,問題があります。そこで,他の方法として,アサリ精子の産卵誘発水槽への添加を試しました。外見から雌雄の判別がつかないため,10個体ほどのアサリから軟体部を採りだして細かくきざみ,海水に混ぜて45ミクロンのメッシュで軟体部と卵を取り除いたものを精子液としました。この精子液の精子密度をあらかじめ計数しておき,目的の濃度となるように誘発水槽へ混ぜました。この試験では,1ミリリットルあたり1,000個,10,000個,100,000個となるように精子を加えました。誘発に用いた海水はあらかじめ紫外線を照射し,水温は26度としました。その結果,精子を混ぜたすべての区で30個体のアサリから1千万個以上の卵を得ることができました(表2)。一方,アンモニア処理をした30個体のアサリからは42万個の卵しか得られませんでした。このことから,誘発水槽へ精子を混ぜる方法は,より簡便でより効果的な方法であることが分かりました。
    • 表2

今後の課題

今回の試験から,北海道産のアサリを用いて卵を得る場合,産卵誘発水槽へ精子を添加する方法が有効で,簡単にたくさんの卵を得ることができることがわかりました。今後は,これらの卵から幼生を得て稚貝にまで育てるための,卵管理や幼生飼育技術が必要であり,栽培センターではこの技術開発を行っていく予定です。
(栽培センター 貝類部 清水洋平)

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