水産研究本部

試験研究は今 No.560「人工衛星からみえるスルメイカのイカ釣り漁場」(2006年1月12日)

はじめに

図1
図1 人工衛星からみた2005年8月10日の 北海道周辺の夜の可視画像

(NOAA-NGDCからデータ提供、MAFFIN-SIDaBから配布)

イカ独特の漁法として「イカ釣り」があります。いろいろな漁法の中で、一番たくさんスルメイカを漁獲しています。イカ釣りに欠かせないのが、イカを船の周りに集め、逃がさないようにする集魚灯です。近年では、メタルハライド灯という集魚灯が広く使われています。

  メタルハライド灯の集魚灯は大変明るい光を発します。夏の夜に、イカ釣りの集魚灯で海が明るく光っているのを、陸上から見たことのある方も多いと思います。驚くことに、この光が人工衛星からもよく見えることが、最近の研究で知られるようになりました。水産試験場でもイカ釣り漁場のモニタリングに活用できるかどうか、検討してみました。

  ここでは、人工衛星から見える集魚灯の画像を紹介し、スルメイカのイカ釣り漁場の季節変化を見ていきたいと思います。

人工衛星からの画像

  人工衛星からの画像には、雲と地球上の光が白く映し出されます。地球上の光には、海上の集魚灯と都会の街灯りがあります。図1は雲が少なく鮮明な北海道周辺の画像例です。札幌、函館、旭川、帯広など都会の街灯りのほか、海の上にも集魚灯の光が見えます。

  北海道周辺海域では、日本海や津軽海峡の光は、ほぼ間違いなくスルメイカのイカ釣りの集魚灯だと判断できます。道東太平洋では、サンマ棒受網の集魚灯との区別ができない場合もありますが、水揚げ状況や聞き取り調査による漁場情報などから判別できることもあります。

  図1の夜では、イカ釣り漁場は武蔵堆周辺からその南西沖合、積丹半島周辺、奥尻島西沖、檜山沿岸、津軽海峡西口周辺、津軽海峡などだと推定されます。

  少し余談になりますが、イカの街と呼ばれる函館では、街灯りとイカ釣りの集魚灯の光が連続して見えています。都市とイカ釣り漁場が非常に近い距離にあることが分かると思います。

月別のイカ釣り漁場

  人工衛星の画像をもとに推定した月別のイカ釣り漁場を図2に示しました。ここでは近年で平均的な漁場が形成された2001年について示しました。なお、サンマ棒受網が操業する道東太平洋とイカ釣り漁業がほとんど行われていないオホーツク海は除きました。
    • 図2
1.初漁期(6~7月)
  北海道のイカ釣り漁業が始まり、しだいに日本海側と津軽海峡で最盛期を迎える時期です。まず、津軽海峡西口から檜山沿岸と奥尻島周辺などの道南日本海で漁場が形成され、その後、津軽海峡、積丹半島沿岸に広がり、武蔵堆周辺にも漁場が形成されました。
2.夏場(8~9月)
  スルメイカの水揚げがやや減少することが多いこの時期、イカ釣り漁場は最も海域を広げていました。日本海沿岸では津軽海峡西口から利尻・礼文島周辺まで北に広がり、さらに武蔵堆や日露境界線に沿った日本海沖合海域にも広がりました。津軽海峡では漁場が断続し、太平洋側の南茅部~室蘭~日高の沿岸にも漁場が形成されました。
3.秋~冬(10-12月)
  スルメイカの水揚げが再び活発になり、漁期の最後までの時期です。11月までは、漁場は広い海域を維持しつつも、日本海の北部や太平洋側の日高の沿岸で徐々に縮小していました。漁期最後の12月には、日本海沖合と太平洋側の漁場はなくなり、日本海の沿岸と津軽海峡の漁場が残りました。

まとめ

  今回推定されたイカ釣り漁場の特徴は以下のとおりでした。
  • イカ釣り漁場は6-7月に日本海沿岸を南から北へ、さらに沿岸から沖合へ、津軽海峡を西から東へ太平洋まで広がりました。10-12月には、ほぼこの逆方向で縮小しました。
  • イカ釣り漁場は大陸棚域に形成されることが多く、日本海沿岸、太平洋沿岸、日本海の島、半島、堆などの周辺海域にみられました。
  • 日本海沖合にのみ、水深の深い海域に漁場が形成されました。

  人工衛星の画像を用いることで、これまで漠然としていたイカ釣り漁場の変化を、詳細にかつ視覚的にとらえることができました。これからも水揚げ状況や聞き取りなどの情報と合わせることで、高精度にイカ釣り漁場をモニタリングできるようになると考えられます。
なお、人工衛星の画像は一般の方でもインターネットにつながっているパソコンを使って、農学情報資源システムのページ(http://rms1.agsearch.agropedia.affrc.go.jp/menu_ja.html)から入手することができます。今後さらに活用の可能性が広がるかもしれません。
(釧路水産試験場 資源管理部 坂口健司)