水産研究本部

試験研究は今 No.566「マツカワ全雌化の試み」(2006年5月1日)

はじめに

  一般に、カレイ類では雌の方が大きくなることが知られています。雌雄の成長差の出る時期や成長差の大小は魚種によって違いますが、マツカワでは、孵化後およそ1年半、体重400グラム位から雌の方が大きくなることが分かっています。雌は雄よりも大型・肉厚で、同じ年齢で比べてみると刺身の量は明らかに雄よりも多くとることができます(図1)。さらに、雌は雄よりも短期間で出荷サイズに到達することができるので、マツカワ養殖においては、雌が多いほど経費節減と生産効率の向上につながると考えられます。従って、マツカワの全雌化技術開発は養殖生産性向上のための重要な課題の一つであるといえます。全雌あるいは雌を高率に得る手段として雌性発生という方法があります。これは、精子の関与なしに卵だけで発生させる方法です。この方法は海産魚ではヒラメで既に技術開発されています。中央水産試験場ではこのヒラメの技術を応用し、マツカワ雌性発生の技術開発試験に取り組んできました。
    • 図1

雌性発生法

  マツカワの雌性発生は、図2に示した様な方法で可能であることが分かりました。すなわち、紫外線処理した精子を卵に受精し、ある最適な時間(およそ7分)を経過した後、卵を1時間程度、冷海水(-1.5度)に浸すという方法です。このような方法では、卵の孵化率は通常受精の場合の20~50パーセントまで低下しましたが、生き残った魚のDNA を調べてみると精子の影響がなく、卵だけで発生したことが分かり、雌性発生が成功したことが確認されました。
    • 図2

マツカワの性比は変動しやすい

  マツカワも人間と同じように雌(女性)がXX、雄(男性)がXYという性の様式を持っているとすれば、卵(XX)だけで発生したものは全て雌になると考えられます。人間の場合、性は生涯、変わることはありません。ところが、マツカワは仔魚~稚魚期の環境(特に水温など)によって性が変わってしまいます。すなわち、卵の段階で雌(XX)だとしても、成長時における環境などの影響で雄に転換してしまうことがよくあるのです。この場合の雄はXYの雄ではなくXXの雄、これをにせ雄と呼んでいます。現在までに、雄に転換しないような条件の一つとして水温を14度以下で管理するということが分かってきました。しかし最近の研究で、飼育密度やペーハーなど様々な条件によって性比は変動することも明らかになってきています。従って、今後は性比に影響する様々な条件をつきとめ、性転換が起こらず、性比が安定するような最適な飼育条件を明確にする必要があります。

高率の雌を含む群は高成長を示す

  今回、雌性発生を試みた結果では、使用した親魚によって雌比率に変動がみられました(数パーセント~90パーセント)。これは水温だけでなく、親の遺伝的影響や他の環境要因などが影響したためと考えられます。前述したように、性比の変動する要因についてはもう少し詳しく調べる必要があります。しかしながら、雌比率90パーセントの群の成長を通常発生群と比較してみると、大変優れた成長を示すことが分かりました(図3)。このことから、雌性発生により生じた高率の雌を含む群を養殖に用いた場合、大変有利であることが実証されたと考えています。
    • 図3

今後に向けて

  にせ雄はXXなのでその精子を用いて通常の卵(XX)と受精させれば、受精卵は全て雌(XX)になるはずです。すなわち、このようなにせ雄を用いることにより、精子や卵に処理を行わずに通常の受精で全雌生産が可能になると考えられます。従って、このにせ雄を使用することで、高い雌比率の種苗を得ることができるかどうかの確認が今後の課題です。さらに、このようなにせ雄を迅速かつ効率的に選別するため、にせ雄(XX)か通常の雄(XY)かをDNAを調査して判別する手法の開発も今後の重要課題となるでしょう。
(中央水産試験場 資源増殖部 森 立成)

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