水産研究本部

試験研究は今 No.571「宗谷岬弁天島におけるトド調査始まる」(2006年6月21日)

宗谷岬弁天島におけるトド調査始まる

  H16年度から稚内、釧路および中央水産試験場では食性を主としたトドに関する委託調査が始まっておりますが(試験研究は今 第538号),これらの調査が進むにつれ,稚内水試のある宗谷管内で,弁天島という島にトドが多数上陸することが注目されるようになりました(図1)。宗谷岬先端から約1キロメートル足らずの距離に位置し,直径約70メートルの小さな島です(図2)。ここ10数年は12-4月の冬期間に,月に数回程度,せいぜい20頭のトドが上陸することが地元の関係者の間では知られていました。ところが,H16年頃からトドの上陸数と頻度が増加し始めました。いつ,何頭のトドが,どのくらいの頻度で弁天島に来遊しているのか記録がなかったため,H17年度から弁天島におけるトドの上陸数や食性について定期的に調査をすることになりました。
    • 図1
      図1 弁天島の位置 . 図中矢印. 国土地理院より .
    • 図2
      図2 2月の弁天島調査風景 . 左端がトド,右端 が調査員.
  H17年11月〜H18年4月まで毎週,陸からトドの上陸数をカウントしたところ,1,3月に最大70頭を記録しました。しかし,2月にボートで接近して調査したところ,120頭を確認しました(図3)。事前に陸から数えた頭数は40頭あまりだったため,陸からの調査は過小評価であることが分かりました。陸から遠いことや,地形的な障壁がその原因でした。そこで,島の中腹付近に自動撮影のデジタルカメラを設置し,連続的に約2週間記録しました。

   
    • 図3
      図3 弁天島に上陸したトドの近景 .
 その結果,1)時化の時は上陸せず,週に2,3回程度の頻度で上陸すること,2)夕方頃から上陸するケースが多かったこと,3)雌や幼獣の頭数が予想以上に多かったこと等が分かりました。今後はさらに長期間,近距離から撮影することで,群の構成や標識の有無を調べ,他海域との関連性を明らかにしたいと考えています。
    • 図4
      図4 弁天島におけるトドの糞採集風景 . 右上はトド.
  さらに,2,3月の弁天島上陸時にはトドの糞を採集しました(図4)。内容物には魚の骨や耳石、頭足類のビーク(トンビ)等が含まれ、これらを分析することでどんな生物をどのくらいの量を食べていたのか調べることができます。これまで弁天島周辺海域でトドが何を食べているのか,ほとんど知られていませんでした。なぜ近年,弁天島での上陸数が増えているのか,島周辺における餌環境がその主要な原因の一つとして考えられます。また、かつて宗谷管内では礼文島や鬼志別のトド島が大きな上陸場でしたが,現在はほとんどか,あるいは全く上陸しなくなっています。この両島については恐らく追い払い等との関連により、上陸しなくなったと考えられますが、数10年単位で道内の上陸場の分布が変遷しているようです。トドの被害が拡大しないよう、未然に防ぐためにも、これら上陸場の実態やその要因に関する調査を進めて行きたいと考えています。
( 稚内水産試験場 資源管理部 和田昭彦)

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