水産研究本部

試験研究は今 No.574「 前浜で漁獲された魚の特徴を知る」(2006年8月28日)

はじめに

  最近,市場に出回っている魚の中には、漁獲された日時、場所や漁獲した漁業者についての情報が添付されたものを見受けるようになりました。釧路水産試験場では,漁獲された魚の成分なども,そのような情報の一部に加えることが必要ではないかと考え,「道産水産物のトレーサビリティシステム導入促進費(平成16~17年・北海道水産林務部施策)」の中で,魚に含まれる栄養成分や機能成分を分析しました。

  ここでは,アキサケとクロガシラガレイについて時期別に成分分析を行った結果について紹介します。

情報蓄積のための栄養成分の分析

  アキサケとクロガシラガレイは,道東の重要魚種です。また,一般家庭ではアキサケが焼き魚や鍋物として,クロガシラガレイが煮付けとして馴染み深い魚であり,その成分的特徴を知ることは重要なことと考えられます。

  アキサケは2004年標津産の銀毛を対象として,漁期となる8月下旬から11月上旬まで2週毎に計8回,個体別に成分を分析しました。この時期のアキサケは産卵回遊期であるため,栄養成分の中でも脂肪分が失われています。そこで,成分として水分とたんぱく質の時期別変化を見てみました。漁期を通して,水分は雌が雄より高く,逆にたんぱく質は雄が雌より高い傾向がみられました。また,雄の水分とたんぱく質は変化が少ないのに対し,漁期の後半に向かい雌の水分は増加し,たんぱく質は減少しました。しかし,アキサケは,漁期を通して雌雄いずれも20パーセント以上のたんぱく質含量を示し,高たんぱく質でヘルシーと言えます(図1)。
アキサケの機能性成分としては,アミノ酸の一種であるアンセリンがあります。アンセリンは疲労回復を助け,抗酸化力があり,ガン,高血圧,及び糖尿病の予防に効果があるといわれています。図2に示すように,アンセリンは漁期を通じ雌雄に関係なく,800ミリグラム/100グラム以上含有していることがわかります。

  クロガシラガレイは2005年根室湾産を対象としました。漁獲時期は春の産卵期と秋の索餌・成長期の大きく2つに分かれていますが,圧倒的に春の漁獲量が多い魚です。分析試料として春が4~6月,秋が9~11月のそれぞれ各月1回計8回,アキサケと同様に個体別の成分を分析しました。一般にカレイ類は,白身魚で脂肪量が少ないため,アキサケと同様に水分とたんぱく質の時期別変化を見てみました。水分はサイズに関係なく,4~6月(産卵期)で77~83パーセントと高いものでしたが,9~11月(索餌・成長期)で74~78パーセントと低くなりました。また,雌雄別に水分を比較してみると,4月と5月でいずれのサイズにおいても,雌で高い値となりました。一方,たんぱく質は水分とは逆に,4~6月(産卵期)で16~21パーセントと低いものでしたが,9~11月(索餌・成長期)で20~24パーセントと高くなりました。また,雌雄別にたんぱく質を比較してみると,4月と5月で水分とは逆にいずれのサイズにおいても,雄で高い値となりました(図3)。したがって,クロガシラガレイは春よりも秋の方で水分が少なく,たんぱく質が高いことから身が締まっていると考えられます。しかしながら,春先の子持ちガレイも根強い人気があります。

  また,機能性成分としては,コレステロールの低下や血圧の正常化,肝臓での解毒作用の向上等の効果があるとされているアミノ酸の一つであるタウリンが,漁期を通して140~220ミリグラム/100グラムと比較的多く含有しています(図4)。
    • 図1
    • 図2
    • 図3
    • 図4

おわりに

  以上のような魚種別の成分的特徴は,魚の付加価値を高めるためのアピール材料の一つとなります。地域で水揚げされる魚の特徴を上手に宣伝することにより,地域の魚を「ブランド化」していくことにつながっていくものと考えます。
(釧路水産試験場 利用部 菅原 玲)

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