水産研究本部

試験研究は今 No.576「ワカサギ卵に繁茂するミズカビは防げるか~」(2006年9月14日)

試験研究は今 No.576「ワカサギ卵に繁茂するミズカビは防げるか?」(2006年9月14日)

ページ内目次

はじめに

  水産孵化場ではシシャモやワカサギなどの小型卵をビン式孵化器に収容し、孵化まで管理する技術を確立しております。この技術を用いて石狩湾漁業協同組合石狩支所が行っているワカサギ孵化事業の効率化に取り組んできました(「試験研究は今No.520」を参照)。ワカサギ卵管理で最大の課題は死卵へのミズカビの繁茂です。これまではミズカビ抑制の特効薬としてマラカイトグリーン(以下、MG)が使われてきました。しかし、平成15年の薬事法改正によりMGが使用できなくなりました。ワカサギ卵は著しくミズカビが繁茂した場合(図1と図2)、死卵が増えて孵化率が低下してしまいます。そこで、MGに替わる水産用医薬品として認可された商品名「パイセス」を用いて、ワカサギ卵に繁茂するミズカビを抑制できないか調べました。パイセスは合成抗菌性保存剤ブロノポールを有効成分とする無色透明な溶液で、サケ・マス類の卵ではミズカビに対する効果が明らかにされています。
    • 図1

方法

図2
  試験には江別漁業協同組合より提供されたワカサギ親魚雌44尾から採卵した140グラムの卵を使用しました。受精後、卵の粘着性を白陶土で除去した後に70グラムずつ2群に分け、一方をパイセスで処理を行う群(以下、パイセス処理)、もう一方を何も処理をしない群(以下、無処理)としました。各群を6リットルビン式孵化器(図1)に収容し、水温10度、毎分2リットルの流水下で管理しました。パイセス処理群は卵を受精後から毎日1回、0.01パーセントパイセス溶液に30分間浸漬しました。パイセスのミズカビ抑制効果を調べるために、卵を収容してから定期的にミズカビが付着した死卵の割合(ミズカビ付着率=ミズカビが付着した死卵数/死卵数×100)を調べました。また、パイセス処理が卵にあたえる影響を調べるために、定期的に各処理群の生きている卵の割合(以下、生卵率)を調べ、孵化率を算出しました。

結果

  無処理群のミズカビ付着率は収容してから7日目に 53.3パーセント、14日目に100パーセントを示していました(図3と図4)。一方、パイセス処理群のミズカビ付着率は7日目に0パーセント、14日目21.7パーセント、21日目には100パーセントと無処理群より遅れて付着するのが観察されました(図3と図4)。無処理群の生卵率は収容してから7日目に81パーセント、14日目に80パーセントを示していましたが、パイセス処理群の生卵率は7日目で91パーセント、14日目で88パーセントと無処理群に比べ高く、統計学的にも有意な差がありました(図5)。さらに、無処理群の孵化率は77.5パーセントであったのに対し、パイセス処理群の孵化率は86.4パーセントと有意に高い値を示しました(表1)。以上の結果から、パイセスは死卵にミズカビが付着する時期を遅らせることがわかり、ミズカビの繁茂を抑制していることが明らかとなりました。また、パイセス処理群の生卵率と孵化率が無処理群よりも高かったことから、パイセス処理がミズカビの繁茂を抑制したことにより、ワカサギ卵の酸欠による死亡を防いだ可能性があります。

  今回は、小規模な試験の結果であるため、今後は事業規模で試験を行う必要があります。また、収容時に死卵数を少なくさせることにより、ミズカビの繁茂を抑制することができます。そこで、良質な卵を確保すること、受精率の向上に努めること等で、薬品を使用しない卵管理方法がおこなえる可能性があります。今後は、これらの技術の向上についても検討を行う予定です。
(水産孵化場養殖病理部魚病防疫科 佐々木典子)
    • グラフ
      図3 各群のミズカビ付着率
    • 写真1

      パイセス処理群

    • 写真2

      無処理群

    • 図5
      図5 各群の生卵率
    • 表1

印刷版