水産研究本部

試験研究は今 No.581「新担当者のスルメイカばなし」(2006年12月8日)

新担当者のスルメイカばなし

  この4月から函館水試に移動となり、新しくスルメイカの担当となりました。ご挨拶を兼ねて、函館水試で現在行っている調査研究の内容や今後の課題を、イカの生態と併せてお話ししたいと思います。

1スルメイカはどんな生き物か

  イカは、生物の分類では軟体動物門・頭足綱(とうそくこう)に属します。一番近いのは同じ頭足綱に属するタコやオウムガイで、続いて軟体動物門の巻貝・ウミウシや二枚貝などが近い仲間となります。同じ無セキツイ動物でも、イソギンチャクやクラゲ・サンゴの仲間(刺胞(しほう)動物門)、ヒトデやウニ・ナマコの仲間(棘皮(きょくひ)動物門)などとは直接の類縁関係はありません。

  タコやイカは無セキツイ動物の中で最も発達した知能と感覚器官を持ち、特に眼はセキツイ動物の眼と非常によく似た構造で、餌をとる時の行動も視力が中心になります。この習性を利用したのが「光で集めて擬餌針で釣る」イカ釣り漁法で、函館水試の調査船「金星丸」での漁獲調査もこの方法で行っています。

    • 図1

2餌と捕食者

  スルメイカは魚類ではありませんが、生態系の中で占める地位はイワシ類やサンマ・サバなど小型の表層性魚類に近く、いわゆる「浮魚(うきうお)」の一つとして扱われます。

  スルメイカの餌は、小さいうちはカニの幼生やオキアミなどのプランクトンで、成長するとカタクチイワシやハダカイワシなどの小型魚類も補食するようになります。共食いもかなり盛んらしく、胃の中身を調べると同じスルメイカの肉片がよく出てきます。餌の食べ方は「丸呑み」が多い魚類とは違い、餌となる生物を腕(わん)(いわゆる「足」)で抱え込んでキチン質のくちばし(いわゆるカラストンビ)で肉を噛み切り、「歯舌(しぜつ)」と呼ばれるトゲの生えた舌ですり潰しながら胃に送り込む、という方法です。このため胃の中身は細かく砕かれた状態になり、他の魚種に比べ、何を食べているかの判別が大変です。

  一方で、成長が早く資源量も多いイカ類はマグロ・カジキなどの大型魚類やクジラ・オットセイなどの海生哺乳類にとって重要な餌となっています。金星丸での漁獲調査でも調査中に集魚灯に集まるイカを追ってイルカやオットセイが姿を見せ、時には大型のヨシキリザメやネズミザメが現れて肝を冷やすこともあります。こうした捕食者が現れると船の周りに集まったイカの群れが逃げてしまい、特にサメはイカ釣り針が吊されたワイヤーに噛みついて食い切ってしまったりもするため、調査では困りものです。
    • 図2

3繁殖と回遊

  スルメイカの寿命は短く、生まれてから1年で外套長(がいとうちょう)(胴の長さ)30センチメートル前後にまで成長したあと、南の海で産卵して一生を終えます。卵は直径が1メートルほどもあるゼリー状の塊の中にたくさんの卵が包まれた浮遊性の卵塊で、海中を漂いながらふ化を待ちます。

   道南沿岸で漁獲されるスルメイカは主に、九州の南西沖で生まれ、日本海を北上して6月ごろに津軽海峡周辺に到達する集団と、少し遅れて太平洋沿岸を北上してくる集団とが中心になります。この二つの集団は最終的にオホーツク海からサハリン周辺まで達したあと南下を始め、12月ごろまでに北海道を離れて南の産卵場へと戻っていきます。このほか、南に向かう群れが去ったあとも、そのまま残って各地の沿岸で産卵する小規模な集団が存在する可能性もあります。各地の漁獲量はそれぞれの集団の資源量や回遊ルートによって大きく異なってくるため、年による資源量や回遊ルートの違い、それぞれの集団どうしの関係がどうなっているかなどの解明が重要です。

4函館水試での調査研究

  函館水試で行っているスルメイカ調査は、調査船による漁期前の来遊調査と漁期後半の分布調査、市場からのサンプルによるサイズ組成・成熟度の調査が中心となります。調査船による調査では各調査点でのイカの分布密度・サイズ組成などと併せて各水深ごとの海水温・塩分などのデータも収集します。こうした情報は漁況予報やスルメイカの生態解明のための基礎データとして使用するほか、海況や魚群の位置を示す速報として、各漁協などへ送信します。

  また、イカの頭部にある「平衡石(へいこうせき)」という器官からは個体の日齢が分かり、そこから生まれた時期・場所の推定を行う研究が中央水産試験場で進められているため、金星丸による調査で採集したイカについては頭部を1個体ずつ分けて採集し、冷凍サンプルとして測定データと共に中央水産試験場に送ります。

  今後は、採集地点の海洋環境や漁獲されたイカの日齢、さらに胃内容物などさまざまなデータからスルメイカが好む環境や回遊の経路を明らかにし、そこから、スルメイカの良い漁場がどのように形成されるのかを考えていきたいと思います。
(函館水産試験場調査研究部 澤村正幸)

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