水産研究本部

試験研究は今 No.586「沖合底びき網漁船における漁獲物の高鮮度保持について」(2007年2月9日)

はじめに

  北海道の水産業において沖合底びき網漁業は、漁獲量全体の約19パーセント(平成16年)と重要な位置を占め、漁獲物はスケトウダラをはじめ、ホッケ、カレイ類等、多魚種にわたり、食用原魚の安定的な供給はもとより地域経済を支える大きな役割をも担っています。しかし、国際的な漁業規制や本道周辺海域の資源量の低下等によって、1船当たりの水揚げ量、生産金額が低下しています。また、水産物の国内消費が低迷しており、付加価値の高い漁獲物、加工品の開発が望まれています。小樽機船漁業協同組合では、新たな船を導入し、省人・省力化(省力船)によるコスト削減に努めています。省力船の総トン数は160トン、乗組員は13人と少ない人数で操業しています(図1)。また、魚倉庫から直接荷揚げができるフィッシュポンプ、滅菌海水や海水氷を製造する装置など、作業効率を高め漁獲物の鮮度保持を高めるための装置が導入されています。そこで、この省力船における新たな冷却システムを確立し、高度な鮮度保持を施すことにより品質の向上並びに安全性を高め、漁獲物の付加価値向上を図るため、小樽機船漁業協同組合、(社)北洋開発協会と共同で試験を行いました。
    • 図1
      図1 省力船

施氷方法による冷却

  省力船上にて、スケトウダラを魚倉庫内で真水氷を混合した冷却海水に浸漬後、冷却海水を排出(氷は残存)する冷却海水浸漬処理を行ったものと、一般船で行われる魚体と砕氷を層状に重ねる氷掛け処理を行ったものを比較しました。冷却海水浸漬区では氷掛け区に比べ速やかに冷却され、低い温度で維持されました。鮮度の指標であるK値は漁獲直後は同様でしたが、漁獲30時間後では冷却海水浸漬区のほうが低く、鮮度を保持していました(図2)。冷却海水浸漬処理による方法は、鮮度保持効果を高めるために有効と思われました。

  また、ソウハチガレイについて、塩分濃度1.5パーセント、-3度のシャーベット海水氷を用いて発泡箱詰め品を調製して、通常の真水氷を用いたものと比較しました。保管中のソウハチガレイの魚体温は、シャーベット海水氷区で-1度前後、真水氷区では0度前後で推移しました。K値ではシャーベット海水氷区は真水氷区に比べ10~20パーセント低く推移し、鮮度保持効果が認められました(図3)。このように、漁獲物に対してシャーベット海水氷を発泡箱用に使用することは、真水氷に比べて魚体温度を低く保つことができ、鮮度保持効果が高まると思われます。
    • 図2
    • 図3

衛生に関する微生物調査

  漁獲物の陸揚げは、一般船では網を用いるクレーン方式が、省力船では循環式滅菌海水を用いるフィッシュポンプ方式が採用されています。そこで、ホッケ、スケトウダラについて陸揚げ前後の微生物調査を行いました。漁獲直後の一般生菌数は102CFU/100平方センチメートル2台と低かったが、陸揚げ後では、クレーン方式が105CFU/100平方センチメートル台と大幅に増加したのに対し、フィッシュポンプ方式では 103~104CFU/100平方センチメートル台と細菌数の増加が抑制されました(図4)。このことから、陸揚げにフィッシュポンプ方式を採用することにより、魚体表面の細菌数を低減させることができました。魚体の細菌数の低減は、その後の加工処理等における衛生管理をし易くする意味からも重要と考えられます。
    • 図4
      図4 陸揚げ方式と一般生菌数

市場性の調査

  ホッケについては、省力船の取引価格は一般船に比べ、平成15年度平均で1.6パーセント、平成16年度平均で3.9パーセント、平成17年度平均で4.4パーセントと徐々に上昇しました。これは鮮魚としての価値に加え、すり身以外の加工品に利用され始めた背景があります。省力船が陸揚げしたホッケは鮮度の良さ、付着する菌数の少なさなどから、フライ素材、調味加工品などのフィレー加工品として流通され始め、年間6千万円以上(末端価格)の新たな市場が誕生したと考えられます(図5)。
    • 図5

終わりに

  ホッケについては、現在、フィレー加工品が北海道内外の学校給食や量販店、大学生協などで幅広く活用されており、また、全国規模で知名度を上げつつあり、今後、さらに市場規模の拡大が期待されます。今後、スケトウダラなど他の漁獲物に波及していくことが期待されます。
(中央水産試験場 加工利用部 阪本正博)

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