水産研究本部

試験研究は今 No.587「ホタテガイの足糸部異常調査について(その1)」(2007年3月5日)

はじめに

  ホタテガイ漁業において稚貝の生産は最も重要な工程の一つです。特に、地まき放流用には地元以外からも大量に種苗の販売、購入が毎年行われています。現在、全道で生産される種苗数は約45億粒、このうち16億粒程度が地元以外に流通しています。

  ホタテガイの稚貝の値段は全道同一価格で取引されており、毎年秋に各海域の漁協等関係団体が集まり、次年度の価格が決まります。近年では放流用(3.5センチメートル以上)の種苗は一粒あたり約3円前後ですが、平成16年には生産されたホタテガイの価格が安く推移したこともあり、稚貝の値決めの際に、稚貝の品質について買い手側から注文をつけられました。その中でとくに貝殻の足糸湾入部付近にできる内面着色をもつ貝(以前から足糸部異常貝と呼ばれている)について健苗ではないのではという声がありました。その後、 北海道ほたて漁業振興協会から水産試験場に対して、ホタテガイの足糸部異常についての調査が要望されました。これを受けて18年度から網走、稚内、および栽培水試(専門普及員)を主として調査体制が組まれ、現在、調査を実施しているところです。今回はまず、足糸部異常とは何かをお話し、次に現在実施している調査内容について簡単にご紹介します。

足糸部異常とは

  ホタテガイは浮遊幼生の時期を終えると、足糸で砂礫などの海底の基質や採苗器に付着しますが、 その足糸を出す部位(足糸湾入部)の貝殻内面が、やがて黄~黒褐色に着色する貝がみられることがあります。その内着部位は小さな点状で確認されるものや、着色が拡がっているものもみられます(図1)。また、その部位がやがて新たな貝殻層におおわれて目立たなくなるものもあります。通常、1以下~数パーセントの割合で稚貝に発見されます。これら大小様々な斑紋がなぜできるのか、その原因についてはいくつかの説があります。ひとつは海の波浪により施設の振動が大きく、自らの足糸や付着物質などが外套膜を傷付け、炎症を伴って貝殻に痕跡を残すなど自然現象が関与するのではないか、または分散作業時の衝撃などで足糸湾入部の外套膜に傷が生じるのではないか。などと言われていますが、はっきりとはしていないのが現状です。そこで、水産試験場が地元 漁業協同組合と水産技術普及指導所の協力を得て以下のような調査を計画しました。
    • 図1

ホタテガイ足糸部異常調査計画(平成18年 度~20年 度を予定) 

1 足糸部異常発生原因の絞り込み
(1)足糸部異常はいつ、どこでどの様な状況で発現するのかを明らかにする。  
調査内容
(1)異常貝出現状況の実態把握
(各海域の放流用1年貝の観察。まとめ網走水試調査研究部)
(2)発生時期調査
(採苗~中間育成中の稚貝の定期的な採集、観察。稚内水試資源増殖部)
(3)仮採苗関与試験
(仮採苗有無で設定後、採集。観察。 栽培水試普及指導員、稚内水試資源増殖部)
(4)波浪等による振動影響試験
(波浪、振動を計器観測し、異常貝の出現しやすい環境を把握。稚内水試資源増殖部)
 
(2)異常部位の黒褐色物質は何か、周辺の組織、器官に異常がみられるか
調査内容
(1)異常部位の性状調査
(異常部位の物質の性状組成等を分析。網走水試加工利用部)
(2)形態的特徴の観察
(異常貝の外観判別が可能か。組織学的観察による傷痕等の確認。 網走水試調査研究部)
2 足糸部異常貝の健苗性評価
(1)足糸部異常貝の輸送による耐性は強いか
調査内容
(1)長距離輸送耐性試験
(稚貝輸送後の異常貝の生残や回復度をカゴでの海中育成や室内試験等で観察。網走水試調査研究部)

(2)足糸部異常は成長や生残にどの程度影響するか
調査内容
(1)成長、生残試験
(外観からの異常推定貝と正常貝の室内飼育試験後の成長、生残を比較。稚内水試資源増殖部)

調査内容

    • 図2
    • 図3
  さて、たとえ足糸部異常の原因や影響が明らかになったとしても、さらに重要なことは、異常を出さないような技術につなげていくことです。なんとか短期間で成果を出し、養殖管理技術のステップアップに貢献していきたいと考えています。
  今後の調査結果等について本紙面等で順次お知らせしていきたいと考えています。
(網走水産試験場調査研究部 多田匡秀)

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