水産研究本部

試験研究は今 No.589「サケ産卵床の分布の年変動」(2007年3月29日)

サケ産卵床の分布の年変動

図1
  北海道に来遊するサケの資源の大部分は人工ふ化放流によって支えられていると考えられ、川に遡上したサケの多くが採卵を行うためにウライなどで捕獲されています。しかし、捕獲が行われなくなった川などではサケは自然に産卵しています。このように自然に産卵したサケの回帰率や来遊資源への貢献の度合いは調べられていません。このことを明らかにするためにサケの自然再生産調査を知床半島の基部に位置する根室管内の植別川で行っていることを、「試験研究は今No. 543」で紹介しました。植別川で行っているサケの自然再生産調査では、遡上親魚尾数の推定などさまざまな調査を行っていますが、ここでは、サケの産卵床 (図1) がどのように分布しているか、ということについて紹介します。

  平成16〜18年の9月から12月にかけて、10日ごとに河口から約7.6キロメートル上流まで歩いてサケの産卵床の位置や数を記録しました (図2)。
    • 図2
  平成16年は1キロメートルごとに見つかった産卵床を数えるだけでしたが、平成17年はハンディGPSで産卵床がかたまってある場所の位置を記録し、数を数えました。平成18年はさらに高性能のGPS (米トリンブル社製) を用いて産卵床の位置を一つずつ記録しました (図3, 4)。産卵床全体の数は、0.2 キロメートルごとの調査期間全体を通した産卵床数の最大値をまとめてもとめました。

  植別川でのサケの産卵は、産卵床の発見時期から、9月上旬から始まり11月下旬まで続くと考えられました。サケの産卵は上流では早い時期に開始・終了するのですが、下流に行くほど終了する時期が遅くなる傾向がありました。上流に行くほど川の水温が下がるため、孵化に時間がかかることが予想されます。産卵時期が遅い群は川の上流で産卵すると海に降下する時期を逃してしまうことが予想されます。そのため、産卵時期の早い群しか上流では産卵できないのではないかと思われます。

  産卵床数は年によって変動し、平成16,17年が150床前後だったのに対し、18年は444床と倍以上になりました (表)。これは18年の10月上旬に全道で被害をもたらした低気圧によって定置網に入らなかったサケが遡上したことによると思われます。
    • 図3
      図3 トリンプルGPS
    • 図4
      図4 GPSを背負っての調査
  産卵床は河口から2 キロメートルまでに大部分が分布しました (表、図5)。0.2 キロメートルごとに産卵床数をみると、産卵床数が多かった18年は河口から2.0 キロメートルより上流では、確かに17年より産卵床数全体は多いのですが、17年と比べて極端に多いわけではありませんでした。
    • 表
  植別川には孵化場があり、河口から約0.4 キロメートル上流で植別川に合流する排水路を通じてサケを放流しています。植別川では平成12年以降親魚捕獲が行われていないため、遡上した親魚の一部は自然で産卵し、再生産をくり返していると思われます。人工ふ化放流魚は孵化場の排水路を目指して遡上し、その周辺で産卵すると思われるため、河口から2 キロメートルまでに産卵床が集中したと考えられます。そして、それより上流では産卵床数に年による大きな変動がみられなかったことから、おもに自然再生産魚が遡上して産卵しているのではないかと思われました。もちろん、これには証拠がないので、想像に過ぎません。しかし、植別川に放流した人工ふ化稚魚には17年に放流した群から耳石にALC標識を施し、自然再生産魚と区別がつきます。今年 (19年) の秋には17年に放流した魚が3年魚として回帰します。植別川に遡上した親魚のホッチャレの耳石を調べることによって、人工ふ化魚の遡上の様子が明らかになってゆくことでしょう。
(水産孵化場道東支場 春日井 潔)
    • 図5
    • 図6

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