水産研究本部

試験研究は今 No.590「魚道の設置によるサクラマス資源の回復」(2007年4月27日)

魚道の設置によるサクラマス資源の回復

  北海道の河川には治山ダムや砂防ダムなど落差を伴う河川工作物が、数多く設置されています。こうした河川工作物は魚の遡上を妨げ、産卵場所や生息域を制限します。このため、海と川を行き来する魚類、例えばサケ・マス類などの資源が減少する原因となり、なかでも上流域で産卵するサクラマスは、その影響を強く受けます。こうした影響を緩和するために、近年、道内各地の河川で魚道の設置が進められています。水産孵化場では、網走東部森づくりセンターからの依頼を受けて、網走川支流のドードロマップ川の魚道の効果調査を平成18年度に開始しました。今回はその途中経過を紹介します。

  ドードロマップ川にはサクラマスの遡上を妨げる規模のダムが4基あります(図1)。最も下流に位置するのが、昭和44年に設置された鋼製の治山ダムで、平成13年に道内初の試みとなるカラマツ間伐材を利用した木製魚道が設置されました。この治山ダムの約2キロメートル上流の地点で川は本流と支流とに分岐します。上流に向かって右側から合流するのが本流にあたります。本流には支流との分岐点から約100メートル上流の地点に平成11年設置の床固工があり、この床固工には平成17年末に魚道が設置されました。さらに上流には平成13年に設置された床固工があり、ここには平成18年末に魚道が設置されました。一方、支流にも昭和42年設置の床固工がありますが、落差が大きいことや、両岸が急峻なために魚道の設置スペースが狭いなどの技術上の問題があり、これまでのところ魚道の設置は計画されていません。
    • 図1
  平成18年度は、サクラマスの幼魚(ヤマベ)の生息数と産卵床の分布を調査しました。ヤマベの調査は6月27日に実施し、それぞれのダムの上流側と下流側におよそ100メートルの調査区域を設けて、その区域内に生息するヤマベを電気漁具で3回繰り返し捕獲して、その数の減少割合から生息数を推定しました。産卵床の分布調査は9月20日に実施し、網走川との合流点から最上流のダムまでの約7.7キロメートルの区間を踏査して、産卵床の位置を記録しました。

  調査の結果を図2に示しました。ヤマベは場所によっては100平方メートルあたり20尾を越える密度で生息していましたが、調査時点で魚道の設置されていなかったダムよりも上流では、生息は確認されませんでした。このことは、ダムを設置すると上流へのサクラマスの遡上が途絶えることを示しています。ドードロマップ川の4基のダムのうち、最も下流に位置する治山ダムは昭和44年に設置されました。このダムは中流よりもやや下流寄りに位置していることから、産卵域は昭和44年を境に半分以下になったと推測されます。次に、現在の資源状態を産卵床の分布からみてみます。平成18年は総数277床の産卵床が確認され、その半数以上(160床)が、昭和44年設置の治山ダムよりも上流で見つかりました。平成13年に魚道を設置したことで、上流域での産卵が再開されたのです。今回ドードロマップ川で確認された産卵床の密度は、100メートル当たり3.6床と高く、保護水面でもめったに見られないほど高密度でした。魚道の設置からわずか5年、およそ2世代で資源は急速に回復したと考えられます。

  魚道の設置直後はダムよりも下流で生まれた親魚しか遡上してきませんから、ダムよりも上流に産卵床があったとしても、それはダムの下流出身の親魚が産卵しただけであり、川全体でみれば産卵量が増えたわけではありません。言いかえれば、魚道の設置直後は産卵域が広がる分、産卵床の密度は下がるのです。今回の調査結果でも、平成17年に魚道の設置された平成11年床固工の上流域では、産卵床の密度が低くなっています(100メートルあたり1.5床)。おそらく、この密度低下が稚魚や幼魚の生残率の上昇をもたらし、降海する幼魚尾数の増加、回帰親魚の増加、産卵量の増加、そして資源回復へと繋がっていくのでしょう。
(水産孵化場 下田和孝、川村洋司)
    • 図2

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