水産研究本部

試験研究は今 No.593「平成19年度網走水産試験場試験研究成果検討会を開催しました」(2007年5月31日)

平成19年度網走水産試験場試験研究成果検討会を開催しました。

  去る5月17日、当網走水産試験場会議室において、「試験研究成果検討会」を開催しました。この検討会は、平成10年度から毎年度開催しているもので網走水産試験場が抱える研究課題について、研究計画の概要や研究の進捗状況及び問題点等について場内全体での理解と連携を深めるとともに、今後の推進方向の検討に資することを目的として開催しているものです。今年度は、調査研究部から3課題、加工利用部から2課題の計5課題の研究課題がそれぞれ担当研究職員から発表しました。

発表課題名 (発表者)

調査研究部

1.「知床沿岸に漂着した油汚染海鳥死骸による水産生物(特にウニ)への影響把握」
資源増殖科長 清河 進

 (発表概要)
   海岸線の目視観察では、6地点全てで油の痕跡が認められたが、全て汀線から10メートル程離れた陸上部に限られ、汀線付近の水中・陸上ともに油分は確認されなかったが、最も斜里寄りの地布 泊漁港では汀線から10メートル程離れた陸上部に油まみれの海鳥死骸を5~6体確認した。転石・ 玉石等に付着した油分は海鳥死骸の回収作業の痕跡と考えられたが他にも油の付着した漁具・ 流木等が放置されており、時化時に高波等で油分が海中に洗い流されることによる二次汚染の 危険性を指摘した。巡視船ゆうばりによる知床岬先端部調査は、前日の降雪で上陸できず船上からの観察にとどまった。ウニの食味試験は幌別・真鯉両地区で漁獲されたウニ23個体につ いて行われ、油の付着・油臭ともに全く認められず異常なしであった。
2.「ホタテガイの足糸部異常に関する調査研究(平成18年度の試験結果について」
主任研究員 多田 匡秀

  (発表概要)
  • 出現頻度は異なるが、異常はオホーツク管内の外海採苗、湖での採苗ともに見られた。
  • 異常貝は本分散後から見られ、10月以降、僅かながら次第に出現頻度は高まった。
  • 大型貝群には異常は少なく、小型貝で比較的多い傾向にあった。耳状部切れ込み状況から判断 した推定異常貝の正解率は約30パーセントであった。
  • 湖底着底カゴ中の貝の異常はほとんどの個体が修復し、斃死はわずかであった。また、大型、 小型、外観推定異常貝各群の日間成長率にも差がみられなかった。
  • 能取湖の異常率の高い貝を稚内水試へ輸送後、水槽で約3ヶ月間飼育した。回収時、異常はほぼ完全治癒した個体が多かった。
  • 外套膜の組織観察をした結果、特に異常度合の大きい貝の殻皮腺の組織像に、形状や殻皮の分 泌に正常貝と差がみられた。
  • オホーツク管内の漁協の過去のデータから、異常貝頻度と放流後の回収率について検討したが、明瞭な関係はみられなかった。
3.マダラ「資源は評価されるのか?」
資源管理科長 田中 伸幸

(発表概要)
  マダラが漁業対象資源として重要種であることは異論のない所であろう。しかし,だからといって水試の中での重要性が高いかどうかは別問題である。本種は同じタラ科のスケトウダラに比して,遙かに研究・調査がなされていない。そのため知見もほとんどなく,そういった中で資源評価を行わざるを得ない典型的な評価難種である(似た漁業対象種としてタコ類がある)。 調査対象として取り上げられた例もほとんど見られないことから,研究対象種としての評価は推して知るべしである。
   マダラの資源評価は現在,北水研・道(中央水試)ともに行っており,前者は全道一本の評価,後者は3海域(日本海・太平洋・オホーツク海。系群単位ではない。)に分けた評価を行っている。道ではオホーツク海での評価を沖底のCPUEを用いてり,年に一度,「水産資源管理会議調査評価部会」が開催され,そこで「資源評価表」を提出する評価対象種となっている。資 源管理部系で対応している沖合い性の魚種の多くはその分布範囲の広さから直接的な調査を水試のみで行うことはほぼ不可能で,漁業から得られる情報がなければ為す術のない魚種も多い。
  特にマダラの評価では漁獲量と努力量位しか使用できるデータがない(データの「精度」は別として)のが現状であり,漁業から得られる統計資料は非常に重要である。
  今回は,マリンネット市場情報システムの見直しもあり,改めて「市場の庭帳めくり」という仕事も視野に入ってきたため,網走・紋別漁協の協力を得て,それぞれの漁協庭帳からこれまで得られていなかった沖底の銘柄別漁獲量を集計した。また,得られた銘柄別漁獲量と12月に網走漁協で採集した銘柄別の漁獲物生物測定データから,尾叉長組成等を類推した。報告者  は「担当者」となっているが,資源評価の担当は中央水試(および北水研)であり,現地の測定担当というのが実際的な所で,成すべきことは測定データ等を中央水試に送ることである。よって,報告者は本来,マダラについて今回の表題のような事例に関して発言する権限を持たない。
  そのため今回は,これらのデータと既存の統計資料から,あくまで「傍観者的に」評価上の問題点等を指摘する。
  水産現勢と沖底統計から漁獲量を集計し,地域ごとの平均的な漁獲動向を求めた。その結果,網走管内では沖底漁業による漁獲量が例年多く(全体の70~80パーセント以上,1988年は53パーセント),沖底では大和堆南部,沿岸では網走・紋別漁協で多かった。漁期は,沖底が12,1月,沿岸が10,11月に多かった。
   市場庭帳から求めた時期別の銘柄別漁獲量組成から,冬期間は小型中心だが大型の成魚もそこそこ獲っているが,5,6月頃は小型魚が中心で,大型魚はほとんど見られないようであった。また,網走と紋別漁協で比較すると5,6月は双方とも小型魚中心だが,紋別で銘柄バラの比率が高く,より小型魚が漁獲される傾向が見えた。
  得られた結果は,時期別・場所別の漁獲物組成に違いがありそうなことを示しており,こういった漁獲統計資料収集の重要さを再確認できる結果となった。

加工利用部

1.「ホタテガイ足糸部異常部位の成分について」
主任研究員 成田 正直

(発表概要)
  • 足糸部異常部位の全窒素は2.0パーセントで、正常部位の0.1パーセントに比べ高い値を示した。このことから、足糸部異常部位形成にはタンパク質などの有機物の混入・関与が示唆された。
  • 足糸部異常部位及び正常部位の全アミノ酸組成は大きく異なったことから、足糸部異常部位の形成には、通常の貝殻形成のために分泌されるタンパク質とは異なるものの関与が示唆さ れた。
  • 足糸部異常部位からはコラーゲン特有のアミノ酸であるヒドロキシプロリンが検出されなかった。このことから足糸部異常部位の形成には、外套膜組織や足糸、あるいは付着生物等の・混入の可能性は低いと考えられた。
  • 外套膜体液及び水抽出液のタンパク質構成アミノ酸組成は、稚貝の足糸部異常部位の全アミ ノ酸組成と類似していた。
  • 2年貝の内着部位の全アミノ酸組成も、稚貝の足糸部異常部位と類似しており、共通の形成機構が推定された。
  • 足糸部異常部位には、通常の貝殻の20倍もの全窒素(粗タンパク質)が含有されていることと、その全アミノ酸組成と外套膜体液及び水抽出液のタンパク質構成アミノ酸が類似していることを考え合わせると、足糸部異常部位の形成には外套膜中のタンパク質が何らかの形で関与している可能性が考えられた。
2.「低温蓄養とほたて貝の活力について」
加工開発科長 武田 忠明

(発表概要)
  • 漁獲後のホタテガイの保管条件と硬化の発生では、漁獲直後及び冷蔵6時間保管に比べ、海水蓄養が硬化防止に有効であった。蓄養時間では6時間よりも22時間が、海水温度は15度よりも5度で硬化発生率が低い値を示した。
  • 各保管条件での貝柱ATP濃度には有意差は認められなかったが、アルギニンリン酸濃度は 漁獲直後及び冷蔵22時間に比べ、海水蓄養22時間で有意に高い値を示した。蓄養海水温度 では、15度よりも5度で高い傾向を示した。
  以上のことから、
  • 活貝柱の硬化防止には、漁獲後に低温海水で蓄養し、漁獲時及び漁獲後のストレスにより消 費されたアルギニンリン酸を回復させることが重要である。
  • アルギニンリン酸は、嫌気的な条件下において、解糖系よりも速やかにATPを補充する高 エネルギー物質としての働きがあることが推定された。 

(網走水産試験場 企画総務部 田中 義行)

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