水産研究本部

試験研究は今 No.594「漁業者によるクロガシラガレイの標識放流の取り組み」(2007年6月25日)

はじめに

  平成18年から新星マリン漁業協同組合青年部(佐藤隆之部長,細畑直文前部長)によりクロガシラガレイの標識放流調査が行われています。クロガシラガレイは留萌管内の沿岸漁業者にとってはマガレイに次ぐ重要魚種です。また,クロガシラガレイはマガレイよりも魚体が大きく網外しの手間とコストが低減できることから,年々その重要性が高まっています。

  水試のこれまでの研究で日本海沿岸域に分布するクロガシラガレイは,未成魚期をオホーツク海で過ごし,産卵のために日本海に回遊することが明らかになっています。しかし,産卵が終わった後に一体どこに行ってしまうのかは謎のままでした。このことは,前浜にやってくる魚を可能な限り獲ってしまっていいのか,それとも,取り残した分だけ再び大きくなって帰ってくるのかどうかという見通しが立たず,資源管理意識の低下にもつながります。

  そこで,新星マリン漁協青年部の皆さんによって,自らが利用する魚の生態を明らかにするため,標識放流調査を行うことになりました。本稿では,その取り組みの紹介と,これまでの結果を報告したいと思います。
    • 図1

取り組みの概要

  標識放流を行うには,まず,標識を付ける魚を確保しなければなりません。標識魚は,カレイ刺網漁業を行っている青年部員と漁業士の皆さんによって,当初予定していた100尾を大きく上回る296尾が確保されました。確保された魚は一時,留萌市三泊の施設で蓄養され,4月25日に青年部,新星マリン漁協,留萌市,小平町,留萌支庁水産課,留萌南部地区水産技術普及指導所の皆さんで,魚体の全長と体重の測定とディスクタグ標識の装着が行われました。そして,翌日の4月26日,小平町臼谷港沖のホタテ養殖施設付近に放流しました。

これまでに得られた結果

  H18年4月26日~H19年4月1日までに合計30尾が再捕され,再捕率は10パーセントを超える高い値を示しました。
再捕された位置と時期を図に示しました。まず,放流した翌日の4月27日に放流地点から約10キロメートル北側に位置する小平町鬼鹿港沖で早くも1尾再捕されました。その後,放流4~50日後(5月上旬~6月中旬)までに留萌市礼受,苫前町力昼,苫前,初山別,遠別,天塩,稚内市抜海の沖合で合計22尾再捕されました。礼受で再捕された1尾以外はすべて放流地点よりも北で再捕されました。6月中旬以降,標識魚の再捕報告はしばらく途絶えましたが,放流から190~210日後の11月上~下旬に稚内市周辺の海域で再び標識魚が再捕されました。そして,翌年(H19年)の3月には,標識魚を漁獲した海域に近い増毛町別苅沖で再捕されたという報告がありました。
    • 図2
  以上のことから,留萌市~小平町の前浜で産卵を行った後のクロガシラガレイは,宗谷海峡付近まで北上したあと,翌年の4月の産卵期に向けて南下し,再び元の産卵場の周辺に帰ってくると考えられました。日本海のクロガシラガレイについて標識放流による産卵後の回遊生態の研究が行われたのは初めての事例です。

  過去に新星マリン漁協青年部の前身である留萌漁協青年部によって留萌沖でマガレイの標識放流が行われ,やはり,放流後数週間で放流した海域よりも北で再捕され,翌年以降には再び放流海域周辺で再捕されるという結果が得られています。一般に魚類は,繁殖目的以外では,索餌のためや水温変化に伴って回遊することが多いようです。日本海沿岸域を代表するこの2種類のカレイ類で非常に似た回遊様式を持つということは,日本海北部海域に両種の産卵後の回遊を促す餌料環境や水温条件があるのかもしれません。

おわりに

 以上のように,クロガシラガレイは産卵を行った後も比較的大きな回遊を行うことが少しずつわかり始めました。しかし,今回の調査では留萌沖の産卵群について,その回遊経路が推定できたに過ぎません。そこで,青年部の呼びかけに応じて,増毛町別苅地区の漁業者の団体である浅海増養殖研究会でもクロガシラガレイの標識放流に取り組むことになりました。このような取り組みを各地に広げていくことによって,系群全体の回遊経路の解明につながると考えています。また,自らが利用している魚の生態を解明しようとする取り組みを通じて,資源を大切にする意識が一層深まっていくのではないかと考えています。
(稚内水産試験場資源管理部 山口浩志)
    • 図3

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