水産研究本部

試験研究は今 No.647「亜麻仁油添加餌料によるせつそう病に対する抗病性向上」(2009年9月3日) 

試験研究は今 No.585「 アサリ浮遊幼生を飼育する!-アサリ種苗生産技術開発試験 III 浮遊幼生飼育方法の検討-」(2007年1月26日)

はじめに

  北海道のアサリは,道東地域を中心として年間約1,500トンの漁獲があります。この資源維持のために,資源管理や稚貝移殖といった対策がとられていますが,他地域からの稚貝移殖は,寄生虫や遺伝的な問題から規制される傾向にあります。そこで,安全な放流用の稚貝を確保するためにも,北海道のアサリを用いた種苗生産技術の開発が望まれています。これまで(試験研究は今 No.549および556)紹介してきましたように,平成17年度まで栽培漁業総合センターでは能取湖産アサリを用いて,種苗生産技術の開発試験を行ってきました。今回は,アサリ浮遊幼生飼育技術開発に関して行った試験を紹介します。

浮遊幼生飼育方法の検討

1.水温に関する試験

  水温がD型幼生の成長に与える影響を明らかにするため,水温別に飼育を行いました。飼育水槽として30リットルパンライト水槽をもちい,これにD型幼生(受精後3日目)を1.5個体/ミリリットルとなるように収容しました。水温は,18度,24度および28度に設定しました。給餌は1日1回キートセラスとパブロバを幼生1個体に対しそれぞれ2,500細胞与えました。水換えは1週間に2回,すべての飼育水を取り替えることにより行い,同時に殻長の測定を行いました。生残率は,飼育水をよく撹拌した後,10~50ミリリットルの飼育水を採取し,その中にいる幼生数から算出しました。

  試験期間中の水温を図1-1に示しました。18度区,24度区および28度区の平均水温はそれぞれ,18.6度,24.3度および28.8度でした。飼育の結果,18度区では,幼生収容後に生残率が緩やかに低下し,飼育11日目には生残率が33.3パーセントとなりました。(図1-2)。平均殻長は,11日目に195ミクロンとなりました(図1-3)。24度区では,飼育8日目まで斃死が見られませんでしたが,それ以後生残率が低下し,11日目には生残率が16.0パーセントになりました(図1-2)。生残率の低下した原因についてはわかりませんでした。殻長は,飼育8日目には189ミクロン,11日目には203ミクロンとなりました(図1-3)。28度区では,大きな斃死は見られず,飼育11日目においても生残率は73.3パーセントでした(図1-2)。殻長は飼育5日目に178ミクロンとなりました(図1-3)。その後成長は停滞し,8日目に殻長193ミクロン,11日目には202ミクロンなりました(図1-3)。これらの結果から,着底期までの成長は飼育水温が高いほど速くなることがわかりました。また,アサリ浮遊幼生は,殻長200ミクロン前後で成長が停滞し,着底後に再び成長します。そのため,飼育11日目にすべての区で殻長がほぼ同じになったと考えられました。
    • 図1-1、図1-2、図1-3

2.通気量に関する試験

  D型幼生飼育における適切な通気量を明らかにするため,30lパンライト水槽へD型幼生を1.5個体/ミリリットルとなるように収容し,異なる通気量で飼育しました。通気量は,1分間あたり12ミリリットル(12ミリリットル/min区),60ミリリットル(60ミリリットル/min区)および300ミリリットル(300ミリリットル/min区)に設定しました。給餌および換水方法は前試験同様としました。水温は18度となるように設定しました。

  12ミリリットル/min区では,収容直後から斃死が確認され,飼育14日目には,生残率がほぼ0パーセントとなりました(図2-1)。60ミリリットル/min区では,飼育3日目以降,斃死する個体が観察され,14日目には12ミリリットル/min区同様に生残率がほぼ0パーセントとなりました(図2-1)。300ミリリットル/min区では斃死する個体がみられず(図2-1),ほとんどの個体が着底期幼生へと移行しました。飼育7日目にこの区でも生残率の低下がみられましたが,それ以後,生残率が高く推移していたことから,飼育7日目にみられた低下は,サンプリング誤差と考えました。初期の成長は,各区とも大きな差はみられませんでした(図2-2)が,7日目以降,斃死のみられた区において成長が悪くなる傾向がみられました。これらのことから,30リットル程度のパンライト水槽を用いて幼生を飼育する場合,通気量を1分間あたり300ミリリットルとすることで幼生の斃死を防ぐことができると考えられました。
    • 図2-1、図2-2

今後の課題

  今回の試験から,北海道産アサリの浮遊幼生を飼育する場合,水温を高くすることで高成長が見込め,また,飼育水槽への通気量を多くすることで生残を高められることがわかりました。次回は,これらの浮遊幼生を着底させ,稚貝に成長させるための,着底促進や着底稚貝の飼育に関する技術開発試験について報告する予定です。
(栽培水産試験場 生産技術部 清水 洋平)

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