農業研究本部

日本におけるジャガイモ緋色腐敗病の発生

堀田 治邦、谷井 昭夫

北海道立農試集報.71,1-6 (1996)

 1985年9月上旬、北海道の上川地方北部のジャガイモ畑で、茎および塊茎が腐敗する症状が発生した。茎では黒あし病に類似した症状を呈し、地際部が褐色~黒褐色に変色し、維管束部の褐変も見られる。塊茎では全体が湿潤軟化し、表面に粘質な菌糸塊が生じ、皮目は不鮮明な小黒点状となる。塊茎を切断すると、切断面がやがて鮭肉色~桃色となり、後に黒褐色となる。罹病茎および罹病塊茎からPhytophthora属菌が分離され、分離菌はジャガイモ塊茎に病原性を示した。本病菌の遊走子のうは、頂生、亜球形~卵形、乳頭突起はなく、大きさは38.9~46.9×25.3~29.0μmであった。有性繁殖器官はVー8ジュース寒天培地上で容易に形成され、蔵卵器は球形、平滑で直径33.7~35.7μm、卵胞子は球形、平滑で直径28.2~31.3μm、卵胞子の壁は2.9~3.2μm、蔵精器は蔵卵器にすべて底着し、大きさは14.3~15.9×11.4~13.3μmであった。生育温度は5~33℃で、35℃では生育しない。以上の結果、本病菌はPhytophthora erythroseptica Pethybr. と同定された。本病の発生は本邦で初めて発生した病害であることから、病名を緋色腐敗病としたい。


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